食 卓


「・・・何の真似だ」
「何って、別に?」
「・・・・・・」

別に、と言ってのけるか。
疲れた体にドッと疲れが増した。
三上が求めていたのは温かい言葉と(味はともかく)愛情のこもった手料理で、そんな素っ気ない言葉と花束ではない。
食卓に、花束。
夕食を作り温かい言葉で迎えてくれるはずだった人はソファであぐらをかき、テレビのチャンネルを握ってビールをあおっている。
お行儀が悪い!とヒステリックに叫んで頭を叩き、ささやかに抵抗してやった。

「いった〜・・・ひどーい」
「何がだ、仕事で疲れた旦那様を癒そうという気にはならんのかお前は」
「奥様になった覚えはありませーん」
「・・・ってうわ、お前何本開けてんだよッ」
「4本目」
「うーわー・・・お前それラストな」
「心配しなくても冷蔵庫に入ってません」
「・・・俺のは」
「チューハイなら」
「アレ甘いじゃん」
「じゃあ調理用」
「・・・・・・」

旦那様ではないかもしれないがもう少し優遇されたって良いはずだ。
番組は途中だったが見てなかったんだろう、笠井はテレビを消す。

「俺今日晩飯作らないって言いましたよねー、食べて帰るからって」
「は?」
「・・・知り合いのステージの穴埋め行くって言いましたよね?」
「・・・あ、ああ、アレ今日か」
「・・・・・・」

ひどい、と逆にブーイングが入る。
今日の朝言わなかったお前が悪い。

「昨日の夜言いました」
「・・・・・・」

三上は笠井の隣に座ってビールを奪う。
半分ほど残ったそれを自分のモノにしたって文句はないはずだ。例え隣から恨めしそうな視線が送られてきたとしても。

「・・・今日もお疲れ様でした」
「・・・・・・」

甘えるように笠井がもたれかかってきて少しどきっとする。
しかし今日は絶対に誤魔化されてやらない。自分も悪いがあっちにだって多分非はある。
具合のいい場所を探して笠井が少し身じろいだ。

「・・・ちょっと待て、お前酔ってるか?」
「4本も飲んでないのに?」
「ホントに4本か?」

笠井を引き剥がしてソファに押しつける。
見上げてくる笠井を見て確信した。

「どんだけ?」
「・・・4本しか開けてないもん」
「うちではだろ?」
「・・・ちょっと飲んだ」
「どんぐらい?」
「・・・一升瓶」
「何処がちょっとだ」

いらだち任せにデコピンをすると笠井がうめく。

「全部飲んでないもんっ」
「殆どだろ。そんだけ飲みゃザルだっつっても酔うだろ・・・」
「しらなーい、酔ってないもん」
「ぜってー酔ってる」
「先輩冷蔵庫からチューハイ持ってきてー、あとおつまみ」
「人を使うなッ」
「ついで」
「俺立つ用ねェもん」
「有り難う先輩」
「・・・・・・」

三上は黙れと言わんばかりに笠井にキスを落とす。

「・・・酒クサッ」
「・・・あ、ごめん、浴びた」
「あびっ・・・」
「ステージ大成功で。だからあんな花束も」
「・・・・・・」
「勿体ないよねー酒まくの」
「・・・もういい・・・」

三上は立ち上がって台所に向かった。
チューハイを呼ぶ声はベッドで聞くより甘い。
適当につまみになりそうなモノを出してきて、三上はチューハイ片手に戻っていく。
なんて優しい旦那様なんだ、思わず涙が出そうになった。
花束を避けて缶と皿を食卓に並べる。

「えー、こっちーー」
「お前ソファだと寝るからダメ。俺コンビニ行って飯買ってくる」
「はーい。茎わかめ!」
「つまみかよ。人使うなっての」

なんて優しい旦那様ざんしょ!
再びセリフを繰り返し、いってらっしゃいの声も掛けられず三上は寂しく外へ出ていった。

 

「おーまーえーはいい加減にしろッ」
「あいたっ」

三上に叩かれた衝撃で空き缶が床に落ちて響く。
2本目のチューハイを空けていた笠井は流石に反応が遅い。

「・・・おかえんなさい」
「もー飲むなお前・・・」

やっぱりひとりにするんじゃなかったと三上は少し後悔する。
傍の椅子を引いて座り、溜息を吐きながら注文の品を投げてやった。
笠井はそれを受け取ったが食卓に置き、すっと三上の傍に立つ。

「・・・何?」
「俺酔ってるかも」
「だからそう言ってんじゃん」

するりと巻き付いてきた笠井を三上は黙って抱き返す。
夕食は朝へ回すことになるんだろう。
この際酒の匂いにも我慢して。

「・・・いただきます」

まぁ、ある意味食事ではあるのだ。

 

 

「ん・・・」

妙に薄暗いのを不審に思って笠井は体を起こす。
カーテンを通しても朝日はもっと明るい。天気でも悪いのだろうか。
ふと笠井果ての下に気付く。

「床?・・・ッた」

ゴンと気持ちのいい音で三上が身じろいだ。
笠井は後頭部も痛いが舌を噛んだ痛みが勝ってしばし悶える。

「っつー・・・何で床?」

もう床で寝れるほど若くないのにと笠井は用心深くそこを這い出る。

「・・・テーブル?」

それは確かに食卓だ。
昨日の花束が少し散ってしおれている。
空き缶は思い思いに床に転がり、まだ中身の入っていたはずのチューハイまで空になっていた。近くの床を触ってみれば少しべたつく。
いっそのこと前後不覚になるほど酔って何が起きたんだとコメント出来ればいいが、生憎笠井はある程度記憶がハッキリしていた。

「・・・もうここで飯食えない・・・」

今回ばかりは悪いのは自分だった。

 

 


甘甘を書いてみようと思って(え)
洋画でキッチンプレイの夫婦を見たんだ・・・(待てコラ)
カウンターキッチンだったからうっかり。

030722

 

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