ペ ッ ト ボ ト ル


俺は今日女の子と間接キスをした。
それが何だという話。ただ相手が性別:女だと言うだけだ。
そんなの誠二とか中西先輩とか他の人とフツーにやったことあるし、三上先輩となんてそれどころじゃない。
ああなのに何でだろう。
どうしようもない罪悪感。
いや、俺は悪くない。悪いのはあっち。
だって、フツーペットボトルおいてあったって飲まないだろ、フツー、人んちでさ!

「何ボーっとしてんの?」
「え、べ、別に」
「ふーん・・・彼女とか居る?」
「いっ・・・いるよ、付き合ってる人ぐらい」

彼女じゃないけど。
そう?と意味深に笑うのは母さんの友達の娘。
今日は母さんにピアノを教わるべく来ていたはずだ。
わー久しぶりに見る女の子だとか思ってる暇もなかったよ。

「もうひとくちちょうだい」

返事をする前に彼女は俺の手からペットボトルを奪う。
妥当にスポーツドリンク。さっきまで走ってたから。
て、言うか、何でわざわざ。母さん紅茶出してるじゃん、て言うか母さん早く帰ってきて。
回覧板ぐらい俺が回すよ、客来てるのに長話しに行くなよ!
男子校もどきに押し込められてる俺には女の子と話なんて出来ないのに。

「サッカーやってるんだってね」
「あ、うん」
「ポジションは?」
「DF」
「DF?」
「・・・そんなんでって顔した」
「してないよ!」

女の子は好意的に笑う。
素直に可愛いと思った。
・・・・・・も、もしやこれは誘われてるのか。
人生経験上そう言ったことが余りないので良く分からないけどそうだとしたら非常に不味い。
あれよあれよという間に取って食われてしまうのは最早俺の得意技だ(どうにか改善しなければ)。
だ、だめだ、そいつは困る。
ポケットの携帯を引っぱり出そうとしてアンテナが引っかかる。
くそう、邪魔だ!あって意味があるのかないのかよく分かんない存在の癖に!
それでも急いで引っぱり出して番号を呼び出した。多分必死な顔してる。

「・・・・・・あッ三上先輩!!今どこにいますか!?関西?・・・東京!?やった、先輩今すぐ会って下さい!無理でも無茶でも今すぐ会いたいんですじゃあ東京駅のいつものトコで!」

通話時間十数秒。
強引に電話を切ってついでに掛け直されないように電源も切る。それから急いで家を飛び出した。
ごめん女の子(名前知らない)俺はひと夏のアバンチュールなんて器用な真似は出来ないんだ。
ペットボトルを握ったまま必死で走る(後で考えてみると凄い構図だ、近所のおばさんに噂されてしまったのも当然と言えた)。

いつもといってもそう何度も使ったことのない待ち合わせ場所。
そもそも待ち合わせをする機会が殆どない。前に使ったのは正月の初詣をこじつけたときだ。
三上先輩はまだ来てなかったので(て言うか来るかな)階段に座り込んで待つ。
もう、疲れた。俺走りすぎ。
喉は渇いてるけどこのペットボトルはデンジャー。

「お前っ、ふざけんなよ!」
「いたっ」

バシンと頭を叩かれて振り返る。
存在してなかったモノに叩かれるショックは存在していたモノの不意打ちよりも痛い。

「あ、先輩お久しぶりです」
「おう久しぶりって挨拶してやるとでも思ったか」
「いたっ」

また殴られる。
ひどい、ドメスティックバイオレンスだ。訴えるぞ。
三上先輩は隣にどかりと座って大きく息を吐いた。走ってきたんだ。

「・・・ぬるいですけどどーぞ」
「ああ・・・」

先輩がペットボトルを受け取って、・・・飲んだ。
うっしゃ。小さくガッツを決めると目聡くそれを見られてしまう。

「何、ガッツポーズ」
「先輩も間接キス」
「は?」
「女の子と」
「・・・・・・」

うわ、ぶさいく。なんて顔。
おじさんが邪魔そうに俺らを見ながら階段を上っていった。
でも表情がない人の方が多い。東京は活気があるのかないのか分からない場所だ。
女の子が数人賑やかに上っていく。短いスカート。思わず振り返ると先輩も視線が一緒だ。
何だか俺らは可笑しい。東京の空気にやられたのかもしれない。

「・・・お前そんだけ?」

結局プロである彼女たちのスカートの中は見ることが出来なかったので先輩が戻ってきた。
別に見えたところでどうというわけじゃないんだろうけど(と願う)。

「うん、そんだけ。あとは女の子から逃げたくて」
「せんぱいに会いたくてー、とかじゃなくて?」
「じゃなくて」
「・・・・・・」
「え、だってもうすぐ寮に戻るし」
「・・・あのな、俺親父と電気屋居たのよ」
「ハァ」
「パソコン新しいの、もうあと一押しってトコまで口説いてたんだけど」
「ハァ」
「お前のために抜けてきたワケよ」
「残念でした」
「お前・・・」
「・・・じゃあ先輩に会いたくなったからと言うことで」
「ふざけんなっ」
「きゃーーー」

迫ってくる先輩をふざけて押し返す。
パソコンが何だ。こっちは生身だぞ。あながち「先輩に会いたくて」も間違いじゃない。

「くっそー・・・あと一息だったのに」
「今使ってるのも結構いい奴じゃないんですか?」
「もう企業じゃ使ってねェよ」
「いいじゃないですか個人なんだから別にー」

このパソコンオタクめ!
ふてくされた横顔はこのままほっとくとどんどん膨れていきそうだ。

「・・・ごめんね先輩、怒んないで。ありがときてくれて」
「・・・・・・」

先輩が辺りを見回す。
サラリーマンの人は年中同じ色のスーツで忙しそうに歩き回る。
旅行らしきお姉さんは何故だか難しそうな顔をしていた。
とか思ってると一瞬だけキス。

「・・・・・・」
「女の子かわいー子だった?」
「・・・かわいー子でした」
「そりゃ役得」

三上先輩の手からペットボトルが落ちる。
止めるまもなくペットボトルはけたたましい音を立てながら階段を駆け下りた。
おばさんが物凄い顔で先輩を睨む。

「でもどーせ笠井の方がかわいーんだろ」
「・・・知りませんよそんなの」
「かわいー」
「かわいくないもんあ、先輩俺のポカリ落としたんですから何か買って下さいよ」
「はぁっ!?殆ど中身残ってねーじゃん!」
「でも俺のですー」
「じゃあ拾ってくっから」
「飲めませんよ!」
「ちゃんと蓋閉まってるじゃん」
「イヤですー!!」
「あーっうっせーかわいくねー」

視界の端っこでペットボトルが誰かに蹴られる。
本日2度目のキスはヤンキーっぽい兄さんにに目撃された。

 

 



・・・いと、思う、個人的に。
ひと夏のアバンチュールという言葉が妙に好き。
何だか浮気っぽい響きよね!(?)

030728

 

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