ウ イ ル ス


納得がいかない。
ふたりきりのこの部屋で、どうして自分はひとりでゲームをしていて、どうしてあの人はひとりでパソコンに向き合ってるんだろうか。

まぁ確かにパソコンなんてふたり以上で操作が出来るようなものでもないし、自分はパソコンなんて、ネット人口が50%を越えたこの時世にもインターネットすら出来ない様な人であるから、どうしようもないわけではあるのだけど。

だからと言って、自分と一緒の時にパソコンをやる理由はないわけだ。
少なくとも真田はそう思う。

「・・・三上」
「何?」
「・・・何してんの?」
「ちょっとパソコンが風邪ひきまして。ウイルス消したら遊んでやる」
「・・・・・・」

答えになってない、
多分感情は顔に出ているのだけど、それを分かって欲しい人は振り返りもしない。
呼んだのは、この人の筈だ。

何か可笑しい。
異常には気付くが、何が異常なのかが分からない。

ゲームはつまらなかった。
RPGを、データの記録をしないのにやっているのが余計にそう思わせる。
どうせならメモリーカードでも持ってくれば良かった、それならまた、ここへ来る理由にもなったのに。
ふと思いついたことが思いがけない考えに発展して、少し恥ずかしくなって、だけど本当にそうしてれば良かったと思った。

「・・・真田」
「・・・何?」
「ごめん」
「はぁ?」
「ごめん、悪ィんだけど、どっかに体温計ない?」
「・・・体温計?」
「多分、渋沢の机の上とかにあったと思うんだけど」

体温計、それは熱を計るのにしか使えないものだ。
まさかパソコンに使いはしないので、使うのは三上である筈。
異常の原因が何となく分かりつつも口にはせず、真田は立ち上がって彼の同室者の机へと向かう。
途中でゲームの本体を蹴り飛ばし、大分ガタの来ていたそれは衝撃に耐えられず、音も立てずにテレビ画面を真っ黒にした。
あ、と一瞬腹立たしく思うが、どうせ消えてしまうのだから後でも先でも同じ事だ。
今は取り敢えず体温計を探そうと、机の前に立つ。

つい最近(多分三上が)使ったんだろう、探すまでもなく体温計は直ぐ分かるところにあった。
それを持って、数歩もない距離の三上の所に持っていく。

「・・・熱あんの?」
「ごめん、」
「謝んなくていいけど、寝てろよ」
「だってお前来るのに」
「別に俺は、いつだって暇なのに」
「俺はそんなに暇じゃないの」
「・・・・・・」

なら、何でパソコンしてんだよ、
喉まで出かかった言葉はそれ以上出てこなかった。
三上は真田の手から体温計を抜き取って、襟元を少し引いて脇に挟み込む。
はぁと吐いた息は、何処か病人だと言うことを感じさせた。

「・・・バカ」
「お前ねー、」
「ウイルスに脳味噌までやられたんじゃねーの?」
「・・・・・・」

「ごめんってば」
「だから、謝らなくていいって」
「だって怒ってんじゃん顔」
「生まれつきッ」

悔しい。
と思った。どう悔しいのか表現は出来ないけど、何だか秘密を持たれたようで嫌な気分だった。

「あーあ・・・パソコンに引き続き俺も風邪ひきだよ」
「ばーか」
「あぁっ!?」
「どうせ2時とか3時とかまで起きてんだろ」
「一馬くんは9時にご就寝ですか?」
「・・・・・・・・・」
「当たりかよ」
「・・・だってすることねぇから。いいからお前寝てろよ!」

真田がドアの方に向かって、三上が慌てて立ち上がった。
一瞬蹌踉けて椅子を掴む。

「・・・帰んねぇよ、何か飲み物買ってくるだけ」

ぱたん、ドアは冷たく閉められた。
ドッと脱力した三上は溜息を吐いて、崩れ落ちるように椅子に座りこむ。

「・・・帰るかと思いました」

ダッセェの、
自分を笑って、三上はゆっくりと体を起こして仕方なしにベッドへと重い足を進めた。







「お帰りバイキン」
「ばっ・・・!?」

部屋に入るなり掛けられた言葉に真田は怒るよりも先に面食らう。どう解釈して良いのか分からない。
大人しくベッドに入っている人間はさっきよりも更に病人に見えて、少し困った。

「な、何で俺がバイキンなんだよ」
「真田ウイルス現在この部屋の中に蔓延してんの」
「何でだよ!」
「俺がやられちゃってるから」

「・・・それ、恥ずかしくない?」
「熱に浮かされてんの」
「何度だった?」
「8度2分」
「うわっ、やっぱバカだ!なんでそれで平然としてんだよ!」
「てめ・・・うつしてやるからこっち来い」
「イヤです」
「こっちこいバカ!」
「バカって言うな!」

憤慨しながらも、買ってきた飲み物を持って真田はベッドのそばまで行ってやる。
どうにか体を起こした三上がそれを受け取るが、ペットボトルも開けられないと言う始末だ。

「ばーか」
「うっせ」

少しばかりの優越感、を感じたのは、ほんの一瞬だけだった。
声を出す間もないぐらいの瞬間に、病人は力任せに真田をベッドに引きずり込む。
残念ながら真田がベッドの沈む程度しか力は出せなかったが、向こうは現状理解に時間がかかっているから十分だ。

「真田ウイルスどうにかしてくんない?」
「・・・それって、何」
「愛してくれたら、治るかも?」
「うわっキモッ最悪!帰るぞ!?」
「帰んの?」
「・・・・・・・・・」







「風邪うつるから、キスだけ」
「・・・キスだけな」
「何、他にも何かやって欲しい?」
「ぜってーヤ」

それなら俺もタチの悪いウイルスにかかったに決まってる
それは調子に乗るので言わないでおくが、言わなくてもきっとばれているのだと真田は思った。

 

 


お前の頭が・・・!

030323

 

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