ト マ ト


「ただいまー」
「お帰りー。今日は誰がトマト食べたの?」
「分かってんなら入れんなよ!」

・・・と言う会話を、ほぼ毎回繰り返す。
と言うのは、俺の弁当を作ってくれる姉ちゃんがほぼ毎回弁当の中にトマトを入れるからだ。




「まただ」
「・・・またか」

一馬が隣で呆れた声を出した。
呆れもするよ、毎回俺が食べないって知ってて弁当の中に姉ちゃんが入れるプチトマト。
小さかろうが大きかろうがトマトはトマトだ、食えない物は食えない。

「一馬・・・」
「やだよ」
「いーじゃんかケチっ、プチトマトのひとつやふたつっ」
「じゃあ結人自分で食えよ!」
「食えるかっ!」
「結人 砂まき上がるから大人しくしてよ・・・」
「じゃあ英士食え」
「たまには自分で食べなよ」
「お前らヒデェ・・・」

「何?若菜トマト食えないの?」
「うっせー、話が聞きたいなら上原コレを食え」
「俺もトマトだめー。つか野菜キライ」
「上原!」
「若菜!ほらーっ桜庭ァ、若菜も食えないって言ってんじゃーん」
「はぁ〜?ガキかお前ら」

トマトなんか食えるわけないよなー!と同盟気分で上原と声を合わせた。
一馬も英士も分かってない、アレはどう考えても人間の食べ物じゃないだろう。

「そもそも結人は何でそんなにトマト嫌いなわけ?」
「だって何か噛んだらぶちゅって出てくるじゃん」
「なー!なー!アレ気持ち悪いよな!」
「上原ーっ!」

ようやく仲間を見付けた気分だ。
トマトを出来るだけ使わないでくれる母さんは仲間と言うより協力者だからな!

「おいおいー、それゆったらにんじんだって可笑しいじゃーん!」
「何だよ藤代はあっち行けよー!」
「何でだよーっ、にんじんの時はみんなしてボロクソ言う癖にー!」

結局は隙を奪って一馬の弁当箱にトマトを転がり入れた。
何だかんだ言って食ってくれる一馬は一応協力者だろう(と言うか一馬は自分の皿に盛られた物は基本的に残さない主義だからだ)。

そんで。

「ただいまー」
「お帰りー。今日も一馬君?」
「俺が食うわけないじゃん」
「結人お帰り」
「ただいま」

お使いでも頼まれたらしく、母さんが姉ちゃんに財布を渡しているところだった。
姉ちゃんと目が合って、・・・う、やな予感。

「よし、今日のサラダはトマト入れよう」
「ふーんっ、どうせ俺食わねえもん!」
「えーいっ男ならトマトでもトカゲでも食って見せなさい!」
「やだよ!」
「まぁいいわ、アタシの弁当を侮辱したんだから買い物にぐらい付き合いなさい」
「・・・別に侮辱してねぇよ」
「良いから来るの!いってきます!」

何だかんだで母さんも姉ちゃんを止めてくれず、俺は引っ張られて外に出た。
・・・選抜からのジャージのままで買い物って、あー・・・誰かに会いません様に!(何たってTOKYO、一人で着てるとちょっと虚しい)
うちからそう離れてないところに大型店舗があるので、大抵はチャリか歩きで行く。
今日は俺と一緒だからか、姉ちゃんは歩きだった(チャリだと俺が追い抜かすからだ)。

「いーい、弁当に大事なのは彩りよ」
「だからってトマト入れなくてもいいじゃんかよ」
「バカねー、アレだけ鮮やかな赤を入れずに置くのは勿体ないでしょう。他に何か赤いものってある?」
「・・・かにとかえびとか」
「釣ってこい」

姉ちゃんの斜め後ろぐらいを着いて歩く。影踏みの気分で姉ちゃんの影を踏みながら。
時々俺が聞いてるのかどうか確認するために振り返るけど、姉ちゃんは殆ど前を向いていた。

「・・・つってもさー、あたしもトマト嫌いだったんだけどー」
「え、何それ初耳」
「だってかっこわるいじゃーん」

姉ちゃんがくすくす笑って後ろ姿が少し揺れる。
・・・姉ちゃんもトマト嫌いだったなんて、予想もつかない。

「何で食えるようになったの?」
「んー?・・・うーん、ホント大昔なんだけどね、ねーちゃんの好きな人がさっ、」

う わ あ
そう来たか。

「トマト大っ好きだったのよ」
「・・・・」
「アタシがさ、中学の時の給食に出た奴残そうとしてたら、食えよって言ってきて」
「・・・そんで食ったの?」
「意地になって食わなかった。そいつにあげたわよ」
「・・・・」

姉ちゃんはまた小さく笑った。
あんまりゆっくり歩くと日が暮れるんだけど。

「そんときは食わなかったけど、次に又出たときに、絶対食えよって言われて」
「食ったんだ」
「食っちゃった」
「・・・どうだった?」
「不味かった」

道を曲がって、俺は影を踏めなくなる。
後ろを歩くと車道の方に影が並んだ。俺の方が、ちょっと足りない。
一馬は姉貴を抜かした、と言ってた。
俺は、もうちょっと。もう少しだ。
トマト食べないからだよー、何て姉ちゃんに茶化されたけど、それは絶対関係ない。

「でもねぇ、何かすっごい喜ばれちゃったから」
「・・・・」

聞いて良かったのか良くなかったのか。
心中複雑な結人君です。

「じゃあ」

背は伸びないかも知れないけど。

「俺がトマト食ったら姉ちゃんは喜ぶの?」
「食べるの?」
「仮に!」

少し振り返った姉ちゃんが、なぁんだと残念そうに前を向いた。
向かいから来た散歩の犬にちょっかいかけられそうになって、飼い主の人が必死で犬を引っ張っていく。でっかい犬だ。

「そうだねー、嬉しいかな」
「・・・・・・」
「じゃあ食べるの?」
「何で俺がねーちゃん喜ばせなきゃいけないわけ?」
「うわっひっどーい!」

ちょっと駆けて追いついてやる。背中にどんっとぶつかってやると姉ちゃんがちょっと蹌踉けてこっちを睨んできた。

「次の弁当はトマトしか入れてやらない!」
「うわっ勘弁して!」

そのうち食うよ、そのうち。

そうして次もその次も、姉ちゃんは弁当にトマトを入れることをやめなかった。






「ただいまー」
「お帰りー。今日はそろそろ英士君かしら?」
「食ったよ!」
「・・・え?」

「不味かった!」

 

 


ば、バカ結人!(恥ずかしい)
すっごい恥ずかしいよなんか。
因みにアタシはトマト好きです。野菜も好きよ。
・・・いや、妹みたいに生のにんじんとかねぎとかは食えないけど

030401

 

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