予 感


「…何かあったっけ?」
「────うんまぁね、僕もそんなに期待してなかったけど。そんじょそこらに転がってる女と一緒にして考えたのが失敗だよね、我ながら愚かなことをしたと思うよ。もしかしてって万が一に期待した僕が悪かった、だからもう忘れていい」
「いや何よ、何の日?今日。翼にプレゼント貰うようなイベント何かあったっけ。確か誕生日は今日じゃなかった気がするけど」
「それすら曖昧なわけ、じゃあ覚えてるはずがないね」
「だから何?とりあえず貰えるもんは貰うけど」
「……」

ほい、と差し出してくるその手。椎名の理想としては予約したレストランで、ワインを添えてフルコース、会話 の中でプレゼントだったのに。実際は目の前のバカ女の面倒くさいの一言で、ファミレスでドリンクバーを飲みながら。
男はロマンチスト、女はリアリストと言ったのは誰だったか。自分の情けなさに涙が出そうになりながら、椎名は渋々差し出された手に小さな紙袋を載せた。一応ブランド物であるが、返ってくる反応と言えばどーも、の一言だ。

「開けていい?」
「帰ってからにしろ」
「いやいや、アメリカナイズにさ」
「やめろ」
「はいはい、また格好つけた恥ずかしいモンが入ってんのね?」
「…」
「ありがと。でも今日ほんとに何の日だっけ?」
「…」

もう何年と付き合ってきた女だ。あまり物事にこだわらない質だと知っているし、とっくの昔に諦めた。だから期待した自分が悪い。悪いけれども。

「……いくらなんでも結婚記念日忘れないでくれる…?」
「…あぁ、そうだっけ?」
「…」
「あぁそうそう。ふたりで届け出しに行こうとしたら翼がファンに捕まって、あたしがひとりで出して来ちゃったら翼が拗ねた日ね」
「そう言うことは忘れろ」
「はいはい。忠実ねー、いちいち覚えてるなんて」
「…」

やっぱりやらなきゃよかった。薄々こうなる予感はしていたのだ。付き合い始めた頃から何度こんな経験をしたことか。 後悔して頭を抱える椎名を笑って、彼女は本当におかしそうに笑い続けながら椎名の手を取る。

「ごめん」
「だからいいって、惨めになるからもう」
「いや違くてね。はい」
「……あ?」
「やだな〜怖い顔して。可愛い顔が台無しよ、フィールドの舞姫」
「呼ぶな」

いや、今はそんなあだ名を気にしている場合ではない。それより重要なのは、手に載せられた小さな箱だ。

「…何」
「三行半突きつけられなくて良かったな一周年記念の品。お納め下され」
「…覚えてたわけ」
「うん。自分の誕生日は忘れても今日はどうにか覚えてたよ」
「…ムカつく…」
「いやー来年も今年のお陰で覚えてられそうだわ」
「…」
「来年はフルコースにしようねvプレゼントは店がいいなv」
「黙れサギ美容師」
「あらあらサギなんて。悪いことなんて翼にしかしないのに」
「…」

畜生。畜生畜生。
こうしてまた時を過ごしていくのだろう。一度も勝てないままに。これは予感ではなく確信。

(惚れた弱みって、情けねぇ…)

冷徹の策士が聞いて呆れる。深い後悔を抱えながら、ドリンクバーのコーヒーで乾杯をした。

 


ヘタレになってしまいました。なんだかなぁ。ヒロインはいつもの彼女です(今更)
夏頃書いててアップしたと思い込んでた。あ、丁度2ヶ月前に書いてる…

051018

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送