家 庭 科 の 授 業


「・・・何かものっそい違和感を感じるのはアタシだけかしら」
「さぁ」
「あんたがエプロンしてるのなんか見飽きたけど調理室で見ると、いやぁ新鮮ー」
「何だその親父発言」

両腕を組み踏ん反り返ってまじまじと木田を見る。木田は完璧無視の方向で、調理台で手を洗った。

「ちょっと、さんエプロンは?」
「は?」
「調理実習なんだからエプロンいるでしょ!」
「持ってるわけないじゃんあるってことも知らなかったんだから。三枝さんそれ小学校で作った奴?」
「!」

三枝の反応を見て思わずにやりと笑う。しかしすかさず木田の平手が頭に落ちてきた。

「ったー・・・」
「三枝さんこいつの分は俺がやるから」
「え」
「寧ろ何もさせない方がいい、電子レンジで茹で卵を作ろうとしたお約束なやつだ」
「・・・・」

ひどい言われようだ。
まぁどっちにしろ何をするつもりもなかった。この間包丁で切った指にはまだ絆創膏が貼ってある。
どうもアタシが学校にしばらく来ていなかった間に決まっていたらしい調理実習。
本日のメニューはまぜご飯とお味噌汁。
木田に作ってもらったことはない。そりゃな、木田んちはお茶漬けかっ食らえるような店じゃないし。

「木下米3人分でいいぞ」
「ちょっと待て!嫌がらせ!?」
「冗談だって」
「似合わんことすな!」

木田が笑いながらアタシの頭を撫でる。
くそ、詐欺罪で捕まれ年令偽称。

ホントは実習が終わってから持ってくる椅子を先に持ってきて、アタシはそこで観察だけをすることにする。
班構成は木田・木下・三枝・アタシと休みの西田。まぁ西田もアタシと同系統のチャラ男だから居ても居なくてもっていうか居なくていい。
三枝さんが他の班の女子にグチりにいく。
あたし女子ひとりなんだけどぉ〜!
いい度胸だ。

「木田ー、何からやんの?」
「どうしようか、男女別れる?」
「えーっ、アタシひとりじゃん!」

しつこい、責める気なら直接言え。

「ご飯炊くぐらいならひとりの方がやりやすいぐらいだけど。俺も手伝うし」
「じゃあ俺と木田で味噌汁な!」

気合いたっぷり木下。
どうも包丁が使いたいらしい、ガキか。

「・・・なぁ、あのさ、」
「何だ?」
「・・・えーと・・・き、木田って手の平の上で豆腐切れる!?」
「出来るけど」
「マジで!?」

おおっそりゃすげぇ。
木下がすかさず木田の方に豆腐を押しやった。勿論木田が拒否するはずもなく、苦笑しながら豆腐の水を切る。
大きい手の平に乗せた豆腐に、木田が包丁を入れた。
あまりよく切れなさそうな包丁だけど豆腐なのですっと切れる。勿論手の平は切れてない。
木下は手品でも見たかのような間抜けな顔で、小さく拍手をした。
三枝さんも米を洗う手が止まってる。水も止めろ。

「スゲー」
「慣れの問題だから誰にでも出来ると思うぞ」
「慣れてるお前が凄いよ」
「・・・・」

まぁあれだけ軽やかにフルーツを切るんだ、包丁の扱いには慣れるだろう。
アタシの指定席はカウンターから遠いけど視力には自身がある。

「やっぱ店でやってると違うなー」
「木下うち知ってるのか?」
「あぁ、ジョギングコースだから」

わー、でたな野球部。
実は知ってる、時々窓の外に見かけるから。

「木田君ちお店なの?」
「あぁ・・・店って言うか小さな喫茶店だけど」
「うわ、すごーい!ねぇ場所ドコ?」

・・・おい待て、その声色は何だ。
アレか?料理が出来る男はポイント高いのか?年令偽称でもいいのか?ネギ片手の男がカッコよく見えたのか?
・・・・。

「木田ッ」
「何だ」
「無駄に自分を売り込むな!」
「は?」
「あぁもうお前人前でエプロンするな!狙われる!」
「・・・何で」

まぁ失礼な溜息。
エプロン効果で今夜の晩ご飯はどうしようかという感じ。

「料理が出来る男は顔が悪くてもそこそこカッコよく見えるんだ」
「本音言ったな」
「現に三枝さんだって顔色を変えたぞ」
「あっ、あたしッ!?」
「いい、木田はアタシが嫁にするんだから手ェ出すなよ!」
「アホか」

ご丁寧に教科書を出してきて、パカンと木田がアタシを殴る。
こいつはアタシを叩きすぎだ。

「・・・あのさぁ、木田とってやっぱり付き合ってんの?」
「結婚を前提にね」

すかさず木田の第2打がくる。馬鹿になったらどうしてくれる!

「絶対に違う」
「じ、じゃあさ、木田んちの店のカウンターにいる人いるじゃん!何かふわふわした人!」
「・・・あぁ、そいつがどうかしたか?」
「紹介してくんないッ!?」
「・・・・」

「・・・あははははッ!!」







もういい加減やめてやれ」
「だ、だってッ・・・木下最高ッ!」
「う、うっせー、だって絶対ありえねえだろ!?アレ子持なの!?しかも木田!」
「いやまぁアタシも初めて見たときは木田の隠し子だと思ったけどね」
「お前食うな」
「あぁっ嘘ですごめんなさい!」

慣れた手つきで味噌汁が奪われて慌ててその手を止める。
まだ熱かった味噌汁には手をつけてない。

「でも木下の気持ちもわかるよ、うん」
「だろ?な?」
「そこの猫舌組、話もいいがさっさと食え」
「豆腐が熱いんだよー!」

一足先に食い終わってる木田が、三枝さんと片付けに入ってる。
木田が洗った皿を渡して、三枝さんがそれを布巾で拭く。・・・面白くない。
・・・・。

ガッチャン!

遂に誰かやったぞ的な視線が調理室にめぐらされる。

「・・・・・・」
「失敬失敬」

お米に宿る神様には大変申し訳ないが乙女心を理解しておくれ。
案の定木田は食器を洗う手を止めてほうきを取りにいく。先にしゃがんで食器を拾って待った。
・・・あ、イテ・・・

「・・・げ」

予想外に断面が鋭い。
破片を握った手の平を開くとじわりと血が滲む。

「・・・・」
「あっ、何してるんだ!」
「切れた」
「・・・切れたじゃない。手洗って、破片とか入ってないか?」
「うっわ怖いこと言うな」

蛇口を捻って水の下に手を突っ込む。
イタタ、染みる。怪我までするつもりじゃなかったんだけどな。

「保健室行ってこい」
「えーっ、やだよ、アタシあのババァ嫌いなんだ」
「好き嫌いでものを喋るな」
「嫌なもんは嫌なんですー」

溜息。ほっとけぃ!
木田が呆れた顔でアタシの腕を掴んだ。

「先生保健室行ってきます」

あ、先生居たんだ・・・っては?

「行くぞ」
「・・・・」






「・・・木田」
「何だ」
「セクハラ」
「・・・・」

「もう調理実習なんか散々だ」
「何もしてないくせに」
「木田は株上げすぎ!」
「はぁ?」
「あーあ〜ッ絶対今度三枝さんと店で会うよ!」
「誰が来ようがみたいなのはお前だけだ」

「・・・それって特別ってこと?」
「特別タチが悪い」

「・・・・」

いいんだ別に。
放課後は安全な喫茶店で気だのエプロン姿を拝みなおすことにしよう。

 

 


ヒロインが木田萌してますがお気になさらず。
書くのに1ヶ月ぐらいかかってるよー。

030608

 

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