夕 焼 け 空


「わ、すっご・・・」

笠井が足を止め、中西も思わず立ち止まった。
ふたりの視線の先には真っ赤に染まった空。
その殆ど中心をふたつに切っていくように、金色の太陽がくるくると下降していく。

笠井はじっと太陽を見つめていた。眩しくはない。
それが本当に太陽なのか、今が本当に夕方なのか分からなくなってきた。
真っ直ぐと沈んでいく太陽の動きがしっかり見て取れる。ゆっくり、ゆっくり、だけど速さを感じさせる速度で太陽は落ちていく。
やがて建物の影に吸い込まれ、太陽は姿を消した。だけど金の着物の裾は残り、辺りの明るさはそんなに変わらない。

「・・・すごーい・・・太陽が沈むのって見えるんですね」
「・・・ホラ、太陽沈んだら暗くなるの早いよ。早く帰ろう」
「あ、はい」

昼間よりずっと暗くなったがまだ透明感のある空の下、ふたりは帰路を辿った。
太陽が沈んだ辺りに残る金色の光を少し見てから、笠井は前を歩く中西を見る。
斜め前から入る光と対称位置に中西の影。
わざとその影を踏みながら歩いてみる。

「あー、でも、ホント凄かったな。一瞬なんですね、俺初めて見た」
「俺はずっと昔に見たことある気がする」
「そうなんですか?いいなぁー。俺夕方好きになったかも」
「・・・俺、夕方ってあんまし好きじゃない」
「・・・そうですか?」

影を踏むのをやめて、笠井は中西の隣に並ぶ。
少し歩いてから、何も反応のない中西に体当たりしてやると、笑いながら同じように返された。

「それは、何で?」

笑いを引きずりながら聞く。

「死にたくなるから」




「・・・小さい時って、夕方になっても帰ってこないと、親が怒りながら迎えに来るでしょ?俺のトコは違ったんだ」
「・・・・・・」
「段々周りの友達も引きずられながら帰っていって、ひとりになった頃はもう真っ暗。
 ひとりで家に帰ったら、『まだ帰ってなかったの?』」

「・・・俺は、夕方になるまで外で遊ばせて貰えませんでした」
「愛されてるんだよ」
「過保護なんです。重度。少し日が傾いてきたら帰ってきなさい、って迎えに来るの。恥ずかしかったなーあれ」
「恥ずかしいか」
「恥ずかしいですよ。夜はホントに家から出して貰えなかったから、友達に誘われても花火とか出来なかったし」
「あれ、そこまで?それは損してるな」
「ですよねー」

笠井が小さく溜息を吐いた。
中西はしばらく笠井を見て、歩みに合わせて小さく揺れる手を取る。

「あ」
「何かこうしたくなっちゃった」
「・・・俺、中西先輩に迎えに来て貰ったみたい」

笠井の手を引きながら中西が笑う。
夕焼け空の魔力だ。

「・・・・・・でも先輩」
「何?」
「俺いつでも迎えに行ってあげますから」

「・・・いつでも?」
「え、あー・・・行けるときだけ」
「ズルい」

中西がけたけたとカラダを揺すって笑う。
辺りはもう夕方と言うには暗くなりすぎていた。

「でもありがと」
「ちゃんと呼んで下さいよ、じゃないと要らないときにも間違って行きそう」
「ううん、いつでも来て」
「・・・迎えに行ったら彼女がいるとかやめて下さいね」
「まさか。笠井と公園で一晩vはあるかもしれない」

笠井が中西の手を振り払う。
相変わらず笑いながら、中西は笠井の耳を引っ張って少し体を屈めた。

「いたっ」
「花火買って帰ろうか、ふたりでやろう」
「・・・・・・」

変な夕日を見た所為だ。
適当に言い訳をくっつけて、一瞬だけ唇が触れる。

「夕焼けの次の日って晴れだっけ?」
「・・・・・・」
「晴れたらデートしようか、夕方まで遊ぶの」
「・・・晴れたら、ね」

帰ったら当てにならない天気予報を見るんだろう。
顔をしかめて笠井は中西の後ろを歩くことにした。

 

 


初め中根で書きそうになって
よく考えたら中笠で出されたお題でした。
ていうか中根だったらこんなアホなモノにはならないはず・・・

因みにうちは夕方になると窓から叫んでました。
結構恥です(9階)。

030623

 

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