桜 吹 雪


昨日雨が降ったので、今日の地面はぐちゃぐちゃだった。
それで晴れてるならともかくともかく、今日は曇り。いっそ雨でも降った方がましだ。
姉の作ったてるてる坊主は中途半端に効果を発揮したらしい。

「あーあ・・・桜まだ残ってるかな」
「はぁ?」
「・・・桜」

斜め上から降ってきた声に、設楽は視線を窓の外にやったまま不満げな声で答えた。

「今日花見に行くんだよ、散ってたらやじゃん」
「花見ってお前、夜にか?」

関係ないだろうと鳴海を睨む。

「・・・お前やっとこっち向いたかと思えばその顔やめろよ」
「他にお前に見せる顔なんかないし」
「うっわムカつく」
「勝手にムカついてろよ」

設楽はすぐに視線を外して、悲惨なグランドに悲鳴を上げる女子生徒を見やる。
グランドの傍に生えた桜の木は雨で昨日ほどの迫力もない。いつも行く公園、あそこの木はどうだろうか。
無意識のうちに溜息を吐く。

「・・・つーか、設楽お前部活こいよ」
「俺腹痛で休み」
「・・・・」
「あ、桜餅食べたい」
「腹痛なんだろ」
「部活中だけ」

鳴海の声をそれ以上聞く気がなくて、設楽は静かに目を閉じた。






「あれ誰?」
「さぁ、あれ武蔵森の制服じゃない?」
「あれ高等部だよー」
「お前何で知ってんのだよっ」
「えー、だって一応武蔵森も進路の中入ってンのよ」
「制服でか」
「勿論。最近リニュしたじゃん?」

食べかけのパンを手にしたまま設楽が窓の女子の傍へ行く。鳴海が小さく舌打ちした。

「どこっ、」
「わ、どうしたの設楽」
「ほらあそこ・・・校門の桜の下」

姿を見るなり設楽が教室を飛び出した。
ちゃんと履いていなかった上靴を少し恨みつつも、履く時間も惜しんで階段を駆け降りる。ためらう事無く上靴のまま外に飛びだした。
昼休みは未だ始まったばかり、外に人影はない。

「みかみっ!」
「・・・よぉ、来たはいいけどお前のクラス知らねぇし」
「なっ、何、っ・・・」
「ちょっと落ち着け」
「お、落ち着けったって、三上何でこんなトコ来てんの!?」
「俺今日実テでさ、暇だったし」
「じゃあ俺」
「だーめ、サボりは許さん。部活も出ろって言いにきたんだよ」

設楽があからさまに顔をしかめる。
笑いながら三上は設楽の頭を撫でてやった。

「つーか、夕方から雨降るらしいから」
「えー・・・」
「結構咲いてんじゃん、ここで花見しちゃわねぇ?」
「・・・じゃあ来週会ってよ」
「・・・・」

校門の両脇の桜は立派なものだった。
太い枝を大空へ広げ、小学校なら『あぶないのぼるな』の看板がいるだろう。揺れる木陰が眩しい。

「・・・明後日、日曜じゃん、俺この間練習試合したとこですっごい桜並木見付けてさ、多分日曜辺り吹雪見れると思うからそこ行くか」
「・・・うん」
「満開は見れねぇけどよ」
「いいよ」

会えればそれで、

「・・・あ」
「何?」

設楽が顔を上げると花びらが前をよぎる。

「雪かと思った」
「・・・・・」

三上の制服についた花びらの上に指を添えた。
そのままなすりつけようとするとデコピンを食らって思わず手を離す。指先から花びらが落ちていき、今度は設楽の制服に貼りついた。

「・・・制服似合わないよ」
「・・・・」
「中等部のんがいい」
「そんなこと言ったのお前だけだし」



降ってくるものが雪ならいい。

雪の季節まで待ちきれないから雪の季節まで戻ってほしい。雪が見たいわけでも桜吹雪が見たいわけでもない。
同じ舞台に立っていたかった。




ピンクの雪が吹雪くのを、日曜ふたりで見にいく約束をして、予鈴に合わせて設楽は教室に戻っていった。

 

 


何で鳴海・・・。
部活やってる実習室の窓の外に桜が咲いてて、散ってるのがホントに雪に見えたんだよー。綺麗。
・・・あの、設楽って一つ年下だよね?自信ない・・・まぁある種パラレルと言うことで。

030418

 

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