い つ の ま に か


「おはよう」

柔らかい声が降ってくる。
起きて、と続くその声をもう少し聞きたくて三上はわざと布団に潜り込んだ。

「もう、早く起きてよ。折角来たのに」
「もうちょっとだけ、」
「だーめ。早く起きて」
「ん・・・」

次第に三上の頭もハッキリしてくる。
うっすらと目を開けるとそこには壁で、前の部屋の持ち主が何か貼っていたらしい画鋲の跡。
おーきーてー、と声は再び降ってきて、ポンポンと布団の上から三上の肩を叩いた。
この声は。

「・・・・・・おかん何でここにおるん・・・」
「ふふっ、おはようv」
「おはよう・・・」

反射的に挨拶を返す。
確かにここは松葉寮の自分の部屋で、東京で、関西にいるはずの母親は何故にここに居るのだろうか。
考えようにも起きたばかりの頭はよく動かない。

「もう夕方よ?」
「え、あぁ・・・」

時計を見て少し驚く。
いつもは起こしに来る小うるさい誰かさんは来なかったんだろうか。

(・・・いや・・・)

小うるさくて悪かったですね、の昨夜のセリフを思い出す。

「おかんなんでここ居んの?」

適当にTシャツを探して着替えながら三上は聞いた。
母親は相変わらずにっこりと笑ったままゆっくり立ち上がる。

「今ねェ、お母さん別居中なの」
「・・・はぁっ?」
「東京の方の家に来てるの。お兄ちゃんから聞いてなかった?」
「きいとらん」

あの兄がわざわざそれぐらいの連絡を自分にしてくるとは思えなかった。
そもそも聞いたところで何も出来ないわけだから関係がない。

「じゃあおとん大変やな」
「そうね、やっぱり毎晩病院で寝るのは疲れるみたいよ」
「・・・おとん病院の方に居んの?」
「そうよ?おうち使えないから」
「・・・何で」
「あら、それも聞いてない?今おうちリフォーム中なの」
「聞いてへん」

あらあらと母親は笑う。
何でそう、勝手にモノが進んで行くんだろう。
父親は獣医でそこを離れられないが、母親は猫アレルギーなので病院で寝泊まりと言うわけには行かないんだろう。
しかしながら、東京に別宅を持っている意味がよく分からない。

「折角東京に来てるから一度ぐらいアキちゃんの顔見とこうかなと思って」
「言ったら俺行くのに」
「だってお母さんアキちゃんの部屋見たことないんだもん」

もんって。
年齢の割に若い母親は自分よりも幼く見えるときさえある。
関西に住んでいても言葉が変わらず、他にも何も変わらない母親はある意味で理想だ。

「でも結構綺麗にしてるのね。こっそり片付けちゃおうなんて思ってたのに」
「渋沢が居るからな」
「あ、渋沢君にも初めて会っちゃった。お父さんより格好いいかもね」
「おとんより将来性もあるで、捕まえるなら今のうちや」
「やぁね、渋沢君だってこんなおばちゃんは嫌でしょ」

そうでもない、と言葉を濁して三上はやっとベッドから這い出てくる。
勘違いされないうちに説明に行こう。思い立って母親を連れて談話室へ向かう。

「三上ー、彼女?」

・・・早速。
談話室に辿り着くまでもなく、後ろから声がかかって三上はイヤイヤ振り返る。
中西が冷やかすように笑って近付いてきた。

「なんてね、渋沢から聞いたけど。ホントに三上のお母さん?」
「悪いか」
「初めまして」
「初めまして、中西です。ホント似てないね」
「うっせーよ」

「笠井がプリプリしてたよ」
「・・・・・・」
「彼女が来たって吹きこんどいたから」
「お前・・・」

三上は溜息を吐いて歩き出す。
きっと明日には三上亮の彼女像が女子棟にまで流れてるに違いない。夏休みなのに。
何はともあれ笠井の誤解だけは解かないといけなかった。

「笠井君って知ってる」
「・・・知ってんの?」
「お兄ちゃんが知ってたの」
「亨〜・・・」


「あ、三上先輩みっけ」

顔を上げると藤代と、その笠井。
知らずに三上が緊張する。

「うわーっ、三上先輩ホントに彼女!?」
「ちげぇよバカ、何でこんな年増」
「アキちゃん?」
「・・・俺は年下がいいです」

お手上げの格好で三上は軽く母親から距離を置く。
コンビニのビニール袋を持ったまま藤代が狭い廊下を駆けてきた。

「じゃあ先輩この人は?」
「おふくろ」
「・・・・・・ワンモア」
「悪かったな似てなくて」

ええええと響く藤代の叫び声に顔をしかめる。
母親は相変わらず微笑をたたえてそれを待った。

「ホントに三上先輩生んだんですか?」
「勿論」
「しかも俺が末で上にふたり」
「見えねーッ!」
「でも三上先輩確かに末っ子っぽいですよね」

棘を含めたセリフに三上が笠井を見る。

「どういう意味だ」
「「子どもっぽい」」
「ハモんな!」

藤代が笠井と一緒になって笑う。
見れば母親まで笑っていて、三上はひとりふてくされた。

「初めまして」
「初めまして、藤代君と笠井君ね」
「えー俺ってそんなに有名人ですか?」
「亨君が写真見せてくれたから」
「亨さん?・・・・・・いつの間に写真を・・・」

後輩ふたりが三上に視線を向けるが三上はそんなことはしていない。
藤代はともかく、笠井の写真なんて危なすぎる。

「何を買いに行ってたの?」
「あ、花火っス」
「花火!」

母親の声に嫌な予感がして三上はそっちを見た。
ビニール袋の中を見せて貰って、母親が目を光らせる。

「いいなぁ〜花火、お母さんもう何年も花火なんてやってないのに〜」
「・・・・・・何、それ、責めてる?」
「だってお兄ちゃんは埼玉の学校行っちゃったしお姉ちゃんも大阪だしアキちゃんは東京だし、お父さんも帰ってきたら直ぐ寝ちゃうんだもん」
「・・・つーか、だって、どうせ夜までここ居れねーじゃん」
「・・・そうよねー・・・いいわ、お母さん帰ってひとりでするから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・藤代、それ誰がやんの」
「中西先輩とか根岸先輩とかその辺っス」
「・・・めんどくせぇ・・・」

泣きそうな顔で三上はひとり談話室に向かう。
談話室にはさっきあった中西と、根岸と近藤がテレビ画面上で闘っている。

「中西」
「なーに」
「花火、混ざっていい?」
「いいよ〜別に」
「おふくろも」
「・・・暗くなるまでどうするの?」
「考えて」

三上の後ろ姿に笠井は苦笑する。
何だかんだ言いつつ優しい。

(・・・そう・・・優しいんだよねー)

いつのまにか怒ってたことも忘れていた。
ズボンは昨日穿いてた奴だし、寝癖がついてることには多分気がついていないし、声は何だか情けない。
いつこんなに好きになったのかなぁとぼんやり考える。
ハッと気付くと彼の母親と目が合った。

「子どもって知らない間に大きくなっちゃうものなのかしら」
「・・・さぁ・・・俺は子どもなので分かりませんけど」

彼女はただ優しく笑う。



いつのまにか噂は周り、花火の参加人数が増えるまでそう遠くなかった。

 

 


あれ・・・?
な、何が主題だ?あれ?(見失った)
あの、お母さんはっポイ!の昭さん+ARIAのアリアさんがイメージでした。
駄目ですか・・・?(怯)
渋沢と並ぶと夫婦って言うか親子だろ!(渋父)のイメージ(若すぎ)

因みに彼女は夜まで三上の部屋に隠されるのです!
・・・すいませんさっき花火やってました。
花火スキー。

030727

 

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