足 り な い パ ー ツ


好きな人がいる。
そんな自分がかっこわりーとか思ったりする。おまけに俺ひとりでの空回り。
好きだよほんとに、信じられないぐらいにね。

夜中にふと目が覚めて、無性にあんたに会いたくなった。
会いに行ったってあんたは怒らないだろうけど、いつもみたいに顔をしかめるんだろう。
その顔が好き、だけどもうちょっといい顔してよ。

 

 

「…?」
「あら辰巳オハヨー」
「…何してるんだ」
「別に」
「…」

目が覚めて、中西。
寝ている辰巳の上にどかりと座り、じっと顔を覗き込んでいる。
辰巳はまだ少し寝ている頭で時計を見た。夜中だ。まだ日付の変わった頃。

「…どうやって」
「あんた夜は鍵閉めないじゃん」
「…寒くないか」
「あっためてくれる?」
「…」

伸ばされた手が、冷たい。頬に触れた指先。

「寝れないのか」
「目が覚めたんだ」
「…」

柔らかい口付けの意図は辰巳には読めない。一瞬かすめて、強く。

「夢だと思って、相手してよ」
「…」
「あぁ、相手は俺じゃない方がいい?」
「…」
「別に誰かの名前呼んだっていいからさ」

するりと何処からか取り出したのは長い布で、有無を言わさず辰巳の目を覆ってしまう。
その上で中西は再び唇を落として、予想して いなかった辰巳は少し驚いた。

「…お前」
「用意周到デショ?」
「…」

気配だけの中西が笑った。

 

 

 

辰巳の熱に舌先が触れる。
辰巳は体で返す。一言も口にしない。吐息をかみ殺す。

「ん」
「…」

見えるわけでもない辰巳は中西を見下ろす。
手が肩に触れ、少し待って中西の髪に触った。とがめるわけでも強制するわけでもない。
水音が糸を引いて耳に残る。ひたひたと頬を叩かれて体を起こし、唇を拭ってキスを。熱い手が中西の腰を引き寄せる。
ふっと目を開けて、そうしたのは自分だが目を隠された辰巳に笑った。その気配でも感じたのか、無言のうちに抗議をしてくる。分かってしまう。

「…あ」

噛みつくように口を塞いだ。何も言ってこないことは分かっているけど。何度も言ったけど、好きだよ。
汗ばんだ手の平が脇腹を撫でて身をよじる。
互いに抱き合って、中西が体を浮かす。呟いて、理解した辰巳が緊張した。ゆっくり体重を落として、熱を埋めていく。

「ッ…」
「ゥ、わッ、」

辰巳が中西を押してベッドに倒す。勢いがついたのか、辰巳と一瞬額がぶつかった。

「中西」
「!」

名前を呼ばれた。自分ではなくていいと言ったのに。

「外して」
「…」
「これ」
「…」

辰巳の頭の後ろに手を伸ばし、力の入らない指先をどうにか結び目に引っかける。少し汗を吸ってかたい。
どうにか結び目は解けて、辰巳が布を払って目を拭う。汗でもかいていたかもしれない。

「…これ何だ?」
「…はちまき」
「…」
「体育祭の」
「…」
「あながち使い方間違ってないでしょ」
「…大間違いだ」

 

 

 

そして今日も寝不足なんだろう。
まどろむ意識で隣で眠る体を抱いてみても、終わった後に眠ると目が覚めない。それを知っててそうする。
いつか気付かれることにびくびくしながら、わずかながらに期待しながら。
好きだと、言えばいいのかもしれなかった。

「…中西」

反応はない。
ないのが分かってやっていて、がっかりしてれば世話はない。

「…」

とにかく寝ようと布団に潜る。
朝になってしまえばこの感情も忘れたふりが出来るから、また今度の機会でいいだろうと眠ってごまかすことにした。

 

 


足りないのは何か。

050224

 

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