約 束


どきどきするなんて嘘。
誰かが好きでどきどきして胸が痛くなったりなんかするわけがない。一体この感情をどうやってねじ曲げたら生まれるのか。

────胸なんか痛くない。
誰かを好きになんて、ならなきゃいいのに。
もっと動物的に、子孫残すためだけに生きてればいい。そしたら俺は、

 

「……胃が痛い……」
「…テメ…」

三上はしばらく笠井を睨んだ後、白けたと一言捨てて笠井から降りた。
ついでにベッドまで降りて、机まで戻って派手に溜息。笠井はベッドに倒れたまま目を閉じてそれを聞いた。

「…何?何か不満?」
「何でもないです、ただ色々ややこしくて」
「…」

することが山ほどある。三上といる時間で済みそうなこと。
ずるずる引き延ばして重くなって、だけど生活習慣、それは恐ろしいほど笠井を捕らえていた。

「…不満らしい不満と言えばまたやんのかよこの変態!とか」
「不満まみれじゃねぇか!」
「まだ明るいし昨日やったし部活の後だし?」
「うっせーな!嫌だっつんならやんねーよ!」
「じゃあ嫌」
「…」
「一生嫌」
「…え、笠井さんどこまでマジ?」
「さぁ」
「…」

もぞもぞ。戻ってきた三上の手を叩き落とした。
ベッドの上で体を捻り、不満顔の三上に向かう。

「好き?」
「は?」
「俺のこと好き?」

にやりと三上みたいに笑ってやれば、同じように笑い返された。
もう少し戸惑われると思っていたのが予想外で、気を抜いた隙に足の上にのっかられる。

「好き」
「…没!」
「ぼっ、はぁ!?」
「面白味に欠ける」
「じゃあなんて言えばいいんだよ」
「嫌いとか言ってみれば?」
「お前じゃあるまいし」
「ほんとのとこ言って?」
「…笠井?」

だって自分が好かれていることに恐怖するのだ。
求めた分を返さなければならない。リスクを負ってわずかな快感を待つ。それの何に長く耐えられようか。

「…お前は、いっつもそーやって何でも怖がるけど、ほんとに怖いもんなんかそんなにねぇよ」
「…じゃああなたは俺から離れないって誓うの」
「やだよ」
「…」
「俺はわがままだから約束はさせるけど約束はしない」
「…」
「好きってのはある意味約束だと思うけど」
「どんな?」

三上が笠井の隣に体を倒した。笠井がみじろいで避けたのを、止めはしなかったが手を握る。笠井が握り返すことは出来ないように。

「さぁ」
「無責任」
「だけど力を持った言葉だろ、人に何かさせることが出来る」
「…」
「皿を割るのが怖いから洗い物をしたくないなら代わってやるし、問題が解けないのが怖いなら教えてやる。だけど離れるのが怖いからずっと一緒いるって約束は出来ない。お前が約束を破れないのを知ってるから」
「そうだよ、俺は約束は破らない。でも だから、破ってもいいから」
「それじゃいつ約束が破られるか怖いたけだろうが」
「…
「…お前のソレなんつーの?不規則に俺のこと嫌いになったり好きになったり」

笠井を見るとぼんやり天井を見ている。
自分でも捕らえかねているらしい感情を整理しようとしているのか。

「…俺、は」

悩みながら、一語一語組み立てるように慎重な言葉。

「先輩がずっと好きだったらいいなと思う」
「…」
「そしたら何でも出来るんじゃないかって、どこか俺は思ってて、」

…俺は、何でも出来るようになれば怖いものなんかなくなると思ったんだよ。
呼吸にも似た笠井の声。何が怖いのか再度尋ねるが返事はない。

「だけど先輩のせいで一喜一憂するのが凄い嫌なときもある」
「…じゃあひとつ」
「え?」
「明日は一緒にいてやるよ」
「…明日だけ?」
「少なくとも明日は、お前が俺がどんなに嫌いでも別れてやんねぇ」
「…狡いなァ」

すっと三上は繋いだ手を離し、強引に手を開かせて小指を絡めた。
複雑な表情の笠井も少し笑って、三上はその手をそのまま捕まえて体を起こした。

「つーことで仕切り直してやんねぇ?」
「……今この瞬間に約束破ってもらいたくなった」
「破ってやんねぇよ」
「……」

無言を肯定と見なし、三上は体を倒す。

 

 


みかさあんそろ没。暗い・・・

050520

 

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