百 円 ラ イ タ ー


コンビニで百円ライターを買ってから浮気しに公園まで行った。
手には大掃除をしたときに出てきた花火。今更火がつくかどうかはやってみないと分からないけどとりあえず。
百円ぐらい惜しくもないし。

「あ、三上来た」

手の砂を払って設楽が砂場から立ち上がる。
今日は近くでちょっとした祭りがあり、ついさっきフリーマーケットの始まったばかりだ。その所為か、公園には設楽以外に生き物の姿は見えなかった。

「よぉ」
「久しぶりー・・・って感じしないね、電話とかメールはそれが麻痺するからヤダなぁ、嬉しいけどさ」
「まぁな。お土産」
「何?」
「笠井の愛と花火」

ぶら下げていたビニール袋を設楽に押しつけて、自分はブランコに足をかけた。
身長は足りないと分かっていても、昔よりもずっと近くなったブランコ上部の鉄棒はいつか頭をぶつけはしないかと少しヒヤッとする。
出掛けに笠井に会って、設楽に会うならと菓子類をくれた(藤代から賭けで分捕ったらしいが好みに合わなかったらしい)。
それと一瞬引き留める視線も貰ったが、敢えて無視をしてやった。少しふてくされながら追い出してくれた笠井を思い出し、三上は少し笑いながらブランコを漕ぐ。

「うわーっ、花火だって。これ何、いつの?」
「夏の」
「火点くの?」
「やってみろよ」

ポケットからさっき買ってきたライターを出して投げてやった。そこのコンビニの名前が入ったテープが模様みたいに貼ってある。
花火と言っても線香花火の束が1束。
ブランコはキィキィ鳴く。

「点かない点かない。燃えるだけ」
「やっぱし」
「可哀想な花火」

設楽は花火が生きてるみたいな言い方をした。

「ライターどうしたの?煙草?」
「俺やんねーよ。あー・・・それどうすっかな、中西も煙草やめたし」
「何か会話が中学生じゃないね」
「ホントだよ」

設楽が小さく笑いながら隣のブランコに載った。
木の上に立たずに、座って足を地面につけたままだ。

「誰とやった花火の残り?」
「・・・・・・」

何だその質問。
まるで俺が浮気をしたかのようだ、してるのは今なのに。

「椎名」
「・・・何それ」
「だって笠井ああ見えてネズミ花火とかすっげー好きでさー、構ってくれなくて」
「椎名とやったの?」
「正確には佐藤も一緒」
「誰?」
「桜上水の」
「・・・ふーん」

それ以上設楽は何も聞かなかった。と言うよりも何を聞いて良いのか分からなかったんだと思う。
ふてくされた顔で俯いていた。俺は隣でブランコを漕ぐ。

「ライター貰っていい?」
「どうぞ?」

貰ってどうするという響きを込めて。
設楽がそれに答えた。

「ライター夏までおいとくから、一緒にコレで花火やろう」
「・・・・・・」
「ライターは、おいとけばいつでも使えるから」
「・・・ふたりで?」
「・・・別に、誰が居ても良いよ」

漕ぐのやめたブランコは、段々と振り子を狭めていった。
キィ、と言う音が段々小さくなるけど、揺れること自体はなかなか終わらない。

設楽がしっかりと握りしめたライター。
たった百円のライターは、うっかり重大な役目を背負ってしまった。

「じゃあ、夏な」

「・・・夏まで会わないってオチはやめてね」
「しませんとも、多分。大会あるし」
「大会は会うって言わないー」

「・・・フリマ見に行こう」
「げ、人凄いじゃん」
「百円でライターより良いもの買えるかもしれないよ」

 

 


難しい。
うっかり椎名さんの名前が出てきたのは趣味。

030327

 

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