パ ソ コ ン


あぁ、緊張してきた。 イヤ何も緊張するような事態じゃない、たった一言要件を告げるだけ。
だけど何となく会話するのが久しぶりな気がしてどうも話しかけにくかった。頑張れあたし、おっしゃ。

「辰巳君、あの、聞いた?図書委員」
「え?何?」
「あの、今日の放課後、臨時で図書委員会」
「いや、知らなかった」
「そっか、えーと、放課後、図書室ね。すぐ終わるみたいだけど」
「わかった、ありがとう」
「う、ううん」

ぎゃ。手に汗握る。と言うか脇のあたりに変な汗をかいた。この人は心臓に悪い。
すぐに終わってしまった会話だけど久しぶりに話すのは、何と言うかやっぱり、自分の事を再確認する。
好きなんだよなぁ。

同じ図書委員の辰巳君、話をする機会と言えば図書委員の順番が回ってきたときぐらい。
そういえばそろそろ回ってくる頃だ。正直な話それが楽しみで。
と言うのは新着図書のカードを作る作業が図書委員の仕事のひとつではあるけれど、大抵の人はそんなのを面倒でやらないからなんとなくいつも辰巳君の仕事になっている。それをあたしが手伝ったりしているわけだけど。
本の話ばかりだけど、それでも少し話をしながら。
そろそろ新しい本が入るんじゃないだろうか、司書の先生が職権濫用してたし。

 

 

そして放課後。
例によってというのか、臨時の委員会なんて忘れてる人が多い。それでもそこそこ集まった委員の人に、司書の先生が嬉しそうに報告する。

「この度図書室にめでたくパソコン導入となりました!これで面倒なカードにハンコ押したりと言う作業はなくなって、バーコードひとつで管理できます。今日はその使い方の説明をしますね」
「パソコン…」
「…辰巳君パソコン使える?」
「無縁だな…授業で使うぐらい…」
「あたしもインターネットぐらいはできるけど、でも本の管理ってまた別だよね…」

一気に全員は無理なので先に何人かに先生が教えている。
教えているのは情報の先生で、司書の先生は暇そうに本棚を見ている辰巳君によってきた。
あたしはこの先生が少し苦手だけど、辰巳君はこの先生のお気に入りだ。

「喜んで辰巳君、作業早くなるわよ〜」
「俺はカードの方が好きだったんですけどね」
「あらそう?あなたの何枚目に入ってるんだっけ」
「5枚目入ったばっかり」
「記録更新ね〜…残念だけどストップね。まぁでもカード作る仕事もなくなるし」
「えっ、なくなるんですか」
「なくなるわね、バーコードなんてパソコンで打ち出してシール貼るだけだし」
「……先月の新書…」
「あ、ごめんね、辰巳君やってくれたのに」
「先月過去最高に多かった…」
「アハハご苦労様でした」
さんの方が頑張ってたけどね」
「え、あッ、いや…」

きゅ、急にふらないで欲しい。緊張する。
先生は今初めてあたしに気付いたみたいな顔をした。な、何だよ、いい年して辰巳君狙いとか笑えないよ。

「俺はつい読み始めちゃって。殆どさんがやってくれたろ?」
「あー…で、でもあたし、あーいう作業嫌いじゃないし」
「うん、だろうな。楽しそうにやってる」

…楽しいのは辰巳君が一緒だからなわけで、そのー…あぁ、もういいか。
パソコン導入に相成って、あたしのささやかな楽しみの時間は減ってしまうらしい。がっかりだ。

「次、3年説明するよ」
「あ、はい」

3年とまとめたってひとつのパソコンに群がるには人数が多い。
出遅れて画面も見れずにいると、辰巳君が前に入れてくれた。素直にそこに入れてもらうけど、辰巳君に後ろに立たれて後悔する。
普段見てばっかりのせいか、見られていると緊張する。いや、見てるのはパソコンの画面だろうけど。 あぁダメだ、使い方覚えないといけないのに。

一通り説明も終わって解散となった。あたしは帰宅部なのですぐに帰ろうとしたとき、辰巳君に捕まえられる。
咄嗟なんだろうけど捕まえられた制服の袖口、思わずびくりとしたら辰巳君に謝られてしまった。

「使い方わかった?」
「えーと、多分、」
「そう?任せきりになりそう」
「…わかんなかった?」
「微妙」
「…じゃあ、当番回ってきたら、また教えるね」
「そうだな。じゃあ、」
「じゃあね」

……あー…緊張する。
何をしてくるかわからない、あたしよりずっと背の高い男の子。

パソコンの使い方なんてほんとにあたしは覚えてるんだろうか?
走った後みたいな心臓は考えなし。後悔ばかりが先に見えた。

…まぁいいか、また話が出来るから。

 

 


友達の図書委員の嘆き(カード)。

050320

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送