身 長 差


「・・・・・・」

隣を歩く人は寡黙だ。
我が校の模範生、木田圭介。ふとした縁からこの不良少女につきまとわれることになってしまった哀れな人だ。やめないけど。

木田はでかい。多分学年で一番。

「木田ぁ」
「何だ」
「身長何メートル?」
「184センチ」
「メートルで答えようよー」

184。うん、でかいな。
裁縫セットのメジャーは確か150センチ、それに30センチ物差しを足しても4センチ足りない。

は?」
「えーと・・・160はあったと思うよ、多分。何であんたそんなにハッキリ判るのさ」
「この間選抜でみんなで測りっこした。と言うか誰が一番でかいかって比べあって」
「ガキかよ」
「ガキだよ」

・・・見えねっつの。

184センチの似非中学生のおうちは可愛らしい喫茶店。
アタシはそこへついていく。

「ただいま」

そう言って木田は店内に入るが、アタシはいつも何と言っていいか分からない。自分の家のようにくつろいでいるけど我が家ではないのだ。
でもお母様はカウンターから、アタシにもお帰りなさいと言ってくれる。アタシよりも背の低いお母さんはお店の店長兼マスコットだ。
木田は真っ直ぐカウンターへ、アタシは真っ直ぐ自分の席へ。
通い詰めているうちに、店の隅っこのテーブルがアタシの席になってしまった(迷惑なので角に追いやられただけとも言う)

カウンターに並ぶ木田とお母様。
・・・夫婦・・・イヤ、兄妹だ。
何故アレから生まれてアレになるんだろう。

「今日は何にする?」

エプロンをつけて木田がメニューを聞きに来た。
前までの演技がかった「ご注文はお決まりになりましたか」はなくなった。
最近は殆どお母様に奢って貰っている(通いすぎだ)。中学卒業したらバイトして返すわ!と木田に言ったらココではバイトさせんと言われたけど、アタシはココでする気満々だ。

「生クリームの気分じゃないからチーズケーキ」
「ほらチーズケーキだった」

・・・ってオイ、何だそりゃ。
苦笑しながら木田が戻っていく。でかいだけじゃなくて大人っぽいから、悔しい。
中途半端な時間で、アタシの他に客はふたり連れの客が2,3組(内カップル1組だ)。ところでアタシは客と言ってもイイのかな(殆ど食い逃げ状態だ)。
木田がケーキとコーヒーを持って戻ってきた。もう頼まなくてもコーヒーは持ってくる。

「・・・木田ずるいな」
「・・・何が」
「絶対するい」

立ち上がって正面に立つ。
自分の頭に手を添えて、そのまま真っ直ぐ移動させると木田の胸。
この身長差、何なのよ。
子どもみたいな気分でイヤになる。身長差分負けてるみたいで悔しい。

「何がしたいんだ」
「わかんないよ、でも見下ろされるってヤな気分」
「・・・・・・」

木田が呆れた顔で、ケーキとコーヒーをテーブルに置いた。
それからアタシの座ってた席の正面に腰を下ろす。

「満足か?」

見上げてくる木田。

「・・・ムカつくっ」

だけど見下ろすのはちょっとだけ気分が良かった。見下ろされるのは征服されたみたいで嫌な気分だけど、見下ろすのは逆に征服した気分。
いつもと違う顔が見えた気がした。

「つーかそれアタシのコーヒー!飲むな!」

 

 


木田氏。彼等卒業しません。
いつかお母様にもセリフを持たせたい限りです。
・・・卒業・・・させるか・・・?

030329

 

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