勢 い の な い シ ャ ワ ー


春休みです。
松葉寮は殆ど空っぽ。

「か・さ・いーっ、お暇?」
「あれ、中西先輩残ってたんですか?」
「残ってたのよん。暇なら一緒に風呂場へどうかな?」
「え?」
「さっき学校行って上靴取ってきたのさ」

持って帰ってくるの忘れてて。
そう言えば持って帰ってきたなぁ、と同時に、何処に行ったっけ、と笠井は考えた。

笠井が知ってる限りで寮に残っているのに、仲のいいのはいない。
なので中西が残っているのは、正直有り難かった。
履きこんだ上靴を手に、ふたりがやってきたのは風呂場。
鍵のないこの場所は、窓さえ開けておけば絶好の脱出ルートでもあり侵入ルートになる。寮母さんに借りてきたのか、中西の手には靴用洗剤とたわし。

「俺中学入るまで自分で上靴洗ったことなかったよ」
「あ、俺もです。中西先輩って何か似合わないですよねー、イメージも沸かない」
「あ、そお?そんなに俺に靴洗って欲しくない?なら喜んで洗わせてあげるよ?」
「遠慮します」

笠井は笑いながら靴用の柄のついたたわしを受け取った。
服を着たまま浴場に入るのは初めてで、別に湯が張ってあるとかそのまま風呂に入るとか言うわけでもないのに妙な違和感を感じる。
椅子をシャワーの傍に引っ張ってきてふたりで並び、大分汚れているであろう上靴に水を掛けた。水の勢いは弱い。

「・・・あ、ここのシャワー調子悪いんだっけ」
「別にコレぐらいで良いんじゃないですか?」
「まぁ飛沫散らないからいっか」

青いボトルに入った洗剤を順番に回し、せっせと汚れを落としにかかる。
しばし無言、さっき出した水がちろちろと排水管に流れていく音が聞こえた。

「っ・・・何か変な感じ・・・」
「確かにね・・・」

ふたりで小さく笑いながら、だけど手は止めない。
ちゃんと締まって居ないのか、タイルの上に転がしたシャワーからは絶えず水が伝っていた。
今日は天気も良く、この風呂場に窓はないが、脱衣所の窓(もとい出入り口)から差し込む日が磨りガラスのドア越しに見える。

「このシャワーみたいな感じ」
「・・・この?」
「うん。やる気はあるのに力が出ない」
「要するに靴洗うの面倒なんですね?」
「それを言っちゃ元も子もないでしょうが」

中西が笑いながら遂に手を止めた。
はーぁ、と伸びた溜息を聞きながら、笠井も手を止める。

「俺も、こんな感じかも」
「やっぱりパワーの源が居ないからなぁ」
「辰巳先輩ですか」
「根岸かもよ」

いたずらっ子の目で中西が笑う。

「笠井は三上が居ないから?」
「・・・さぁ、春だからかも」
「春だからかもね」

不意に中西の片手が伸びてきた。
手の平に両目を隠されて、驚いてる暇もない隙に唇に感触。

「・・・中西先輩」
「何?」

中西の手は離れない。

「手、綺麗なんですか?」





勢いのないシャワーを浴びる。
本気にはならないけれど、絶えず感じる感情。

 

 


三笠・辰中前提になってしまいま死た。
純粋に中笠にしようと思ったんだけどなぁ。まぁいいか。

030327

 

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