加 速 装 置


クラシック。だと思う。
音楽に詳しくない中西にはハッキリとそう言いきれるわけではなかったが、今聞こえてくるこれじゃ多分クラシックだろう。
この寮にいる生き物は今、中西と笠井しか居ない。
談話室を覗くと誰も居ない部屋に、電気も点いていないのにテレビがついていた。
外れかと思いながらテレビに近付くと、ソファで誰か寝ているのが見える。
笠井。アタリだ。

もう大分暗くなった外を見て、中西はカーテンを閉めに行った。
テレビをつけたままで中西は笠井の傍に膝をつく。
頬にかかった髪を避けながら、どうしようかなと呟いた。
笠井は全く動かず静かに寝息を立てている。子猫のような無防備さに少し呆れた。
いつもならすぐに起こしてしまうだろう。
でも今日は、誰も居ないから。

起きてるとそうさせてくれないので、じっと笠井の顔を見つめた。
睫毛は自分のより長い。その下にある目が好きだ。
毎日のようにある部活の練習で少し焼けたが、藤代なんかと比べると肌は白かった。細い髪は今は暗くて分からないが、やっぱり日焼けしているんだろう。
笠井は全く起きる気配がなかった。部活が休みに入った途端藤代に連れ回されていたのだから無理はないかもしれない。
悪戯心が起き上がって、薄く開いた唇に自分のを重ねた。

(あ・・・やば)

誰も居ないと言うことを急に実感した。
先日から出された休みで寮生はぞろぞろと帰宅している。
残った中西と笠井も明日には帰宅するため寮母さんも夏休み、夜に点検が1度回ってくるだけだ。
少し体を起こして角度を変えてキスをする。
笠井は身じろいだが起きる気配はない。
シャツの裾から手を入れる。ぴくんと笠井が動いて鼻から声が抜けた。

(とまんない)

シャツから覗く鎖骨に唇を落とし、てんてんと首筋をなぞる。
耳に辿り着いた頃には指先も胸の飾りに触れていた。軽く耳たぶを噛む。

「(何か強姦みたい) ・・・かさい」

クラシック。
横目に見えたテレビ画面ではいつのまにかピアノを弾く女性がふたりになっていた。赤と青の原色のドレス。

「かさい」
「ん・・・、・・・・・・なかにしせんぱ、あっ!?」
「ごめん」
「ひゃ」

シャツをまくり上げて舌で胸の突起に触れた。
立ち始めたそれを舌先で転がして噛み付く。

「いた・・・ちょ、せんぱい」
「ごめん、とまんない」
「ぁ」

ひどい、笠井が小さく呟いた。
中西が少し顔を上げると笠井は手の甲で目を覆っている。
優しく手をどけて、中西はまたごめんと言った。

「ごめん。だって笠井 藤代とばっかり遊んでたから」
「・・・だって、誠二のうち遠いから」
「うん」
「何で?先輩、約束してるのに。ダメになった?」
「違うよ、そうじゃないけど。わかんないけど、とにかく」
「やっ、あ」

中西の手は肌を滑り、布の上から中心に触れる。
下を見ずに器用に留め具を外しながら、笠井の顎にキスをして長く唇に触れる。
ファスナーの音に笠井がきつく目を閉じた。

「ッ・・・とにかくって、っ」
「とにかく、」

キスを何度か重ねて中西は耳元に口を寄せる。

「    スキ

「っ・・・卑怯」
「ごめん」

とまんない。
中西は少し体を下げてズボンに手をかける。

「・・・やめるって言われても、困るもん」
「かさい」
「ん・・・」

ちゅと啄むように脇腹にキスを落とした。
髪が胸をくすぐる。

クラシックだ。
少し激しくピアノが鳴って笠井がびくりと震えた。
分からない、急に熱が空気に晒された所為かもしれなかった。
熱に一瞬触れた手が離れた。あつい、と吐息みたいな声が聞こえて中西がシャツを脱ぎ捨てる。

「あッ」

前触れもなく熱に舌が触れた。
拍手。テレビからだ。
唯一の光源であるテレビは中西の背後で明かりの色を賑やかに変えていく。
カーテンに映るその光を、笠井は少しだけ見た。あとはよく判断できない。

「せんぱい」
「・・・ん」
「っつ・・・」

やばいよ、微かな声に中西が少し離れた。
熱い息がかかる。

「かさい?」
「・・・も・・・ムリ」
「ん」

指先を舐めて中西は後ろに指を這わす。
侵入してきたものに笠井が仰け反った。

「いっ、た」
「ん、ごめん」
「あ・・・っ、あ」

指を操りながら中西は笠井の手の平に口付けた。指先を軽く噛む。

「ふっ・・・」
「・・・・・・」
「あっ・・・?」

中西が動きを止めて指も出ていく。
一瞬の喪失感に笠井がカッと赤くなった。

「・・・・せんぱい?」
「しっ」

何か言いたげな口を中西はそっと塞いだ。
何事か分からない笠井をよそに、中西は体を起こす。

「せんぱい」
「待って、」

中西がかがんで耳元で囁く。
その声にどきっとしたのも束の間で、その内容に血の気が引いた。

「点検だ」

やはり物音は勘違いではなかったと、中西はまた体を起こす。
ついていなかったはずの廊下の電気が点いて、小さく足音が聞こえた。
中西はテレビのチャンネルを変える。
いつのまにか鳥のさえずる森が移っていた画面がパッとバラエティになった。ニュース、スポーツ、CM、バラエティに戻す。

「できるだけ、息おさえてて」
「っ・・・」

笠井の耳にもハッキリ足音が聞こえた。
完全に体を起こし、中西は笠井の体の傍に腰掛ける。

「・・・・・・先生」
「・・・お、中西か?」

びくんと笠井の体が反応した。
諭すように笠井の頭を撫でて、中西は出入り口の方に少し体を向ける。

「点検先生だったんだ」
「まぁな。お前ひとりか?」
「ここには」
「もう消灯だろ」
「やだなぁ先生、夏休みなんだから少しぐらい気ィ抜かせてよ。俺らやっと休みなのに」
「・・・・・・まぁ、な。他に誰が残ってるんだ?」
「2年がひとり。もう部屋で寝てます」
「ふーん・・・じゃあもういいな、戸締まりは確認したし。ちゃんとテレビ消して早く寝ろよ」
「はーい」
「お休み」
「お休みなさい」

中西がぎゅっと笠井の手を握る。
ホッと息を吐いたのが変わって、笠井も手を握り返した。
遠ざかる足音が完全に消えて、中西がずるずると崩れ落ちてくる。

「っ・・・はぁー・・・焦ったぁ」
「せ、せんぱい」
「行っちゃった。もうこないよ」

中西が笑いながらキスを落とした。
それからテレビの音を消す。歓声が途中で切れた。

「・・・俺の方が焦りましたよ」
「びっくりしたね」
「うん」
「続けていい?」
「・・・・・・どうぞ」
「ん」


とまらない とまらない 加速する

くるくる変わるテレビの色

甘く乱れた声と

押し寄せる感情の波







「いたっ」

走った衝撃に笠井は反射的に叫んだ。
頭を押さえてしばらくその場で悶える。

「ったー・・・ベッドから落ちるなんて久し・・・・・・」

ベッドじゃなかった。ソファだ。
色んなことが思い出されてきて、笠井は感情を吹っ切るために勢いよく立ち上がる。
いつのまにか消えていたテレビの代わりに、朝日と鳥の声がする。
何気なくテレビをつけると夏休みなしの朝のニュース、7時18分。
そのままカーテンを開けに行く。体が音を立てて崩れそうだ。
カーテンを開けると何となく今日の気温が分かる。今日は少し涼しい。
振り返るとソファに背を預けて中西が眠っていた。そっと近付いて隣りに座る。

(・・・かわいい)

にやける口元を押さえて頬にキスをした。
きっとこんな無防備な寝顔が見られるのは自分以外にそんなに居ない。
そう思うと何となく嬉しくなってくる。

「せんぱい」

どうせ寝るならベッドで寝て貰おう。
気持ちよく寝ているのに申し訳ないが、体勢は楽とは言えなさそうなので起きて貰うことにする。

「せーんぱい」

何度か呼びかけるが中西からの反応はない。
いつもこうだ。
ふてくされて少し中西を睨む。

「・・・・・・」

今日はこれからうちに帰る。
しかし中西も笠井も実家は東京なので、会おうと約束をした。
それは多分実行されるだろうし、部活だってすぐ再開する。

(・・・だけど)

自分にかかっていたらしいタオルケットを中西に掛ける。
多分中西が持ってきたんだろう。

「自分の分も持ってくればいいのに」

自分も一緒にタオルケットにくるまった。
少しの間もたれ掛かってみて、離れて中西をじっと見る。それから首筋にキスを落として跡を残した。
それを見て満足そうに笑っていると、中西が薄く目を開ける。

「あ、起こしてごめんなさい。ベッドで寝る方が良いと思って」
「ん、そうする」

中西は腰を上げ、かと思えば笠井を抱えて立ち上がる。
驚いた笠井の動きに合わせてよろけ、どうにか持ちこたえた。

「あの、中西先輩」
「笠井も一緒に寝よう」
「で、でも俺昼には帰るって言ってあるし」
「寝坊したことにしてさ」
「・・・・・・2度寝ですけどね」
「まぁね」

中西は笑いながら足でテレビを消した。
すぐに起きない癖に、寝ぼけているといったことはない。

「どうする?」
「・・・・・・」

絶対昼には出ますからね、
そして談話室に残るのは黙ったテレビだけだった。

 

 


加速装置=加速加速=止まらない

ごめんなさい。
非常に貧困な脳味噌で申し訳ない。
そしてエロらしいエロかと思いきや目一杯逃げてみました。
ヌルいヌルい。

030809

 

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