造 花
「中西先輩って造花みたい」
生花を手にして笠井は呟く。
何の花か知らないが、さっき職員室前の花瓶から中西が1本失敬してきた奴だ。
お土産、と渡されたそれをぼんやりと見ながら笠井は続ける。「偽物っぽい感じ」
「・・・酷いな」中西は階段の途中に座っている笠井の傍まで降りて隣に座った。
数年前に増築された新校舎の、4階へと続く階段には殆ど人がやってこない。
この先にあるのは視聴覚室と相談室だけで、少なくとも今日はそのどちらも開いていなかった。
動くものはふたりだけ。「何か、それ酷くない?」
「・・・そうですか?」
「うん、ちょっと」それでも笑いながら中西は笠井の方に首を埋める。
首筋に噛み付くと笠井が固まった。「・・・別に、けなしてるとか言うんじゃないですよ」
「そう?だって生花より造花の方が劣る感じしない?」
「そうですか?」中西の髪がくすぐったくて笠井は少し笑う。
花を揺らす手に中西が触れて動きを制し、さっき噛んだ辺りを舐めてからキスを落とした。「せんぱい」
「誰も来ないよ」
「あ」中西が強引に引き寄せて笠井のシャツのボタンを外していく。
少し迷って、笠井は持っていた花を手が伸びるだけ上の方の段に置いた。
小さく笑いあいながら、笠井も中西のシャツに手を伸ばす。「だって、先輩何も要らないじゃないですか」
「何もって?」
「造花が日光も水も必要ないみたいに、先輩も何も要らないみたいだ」
「そんなことないよ、水も酸素も必要だもん」
「あ、待ってあと1個」肌を滑った手に焦って笠井は中西のシャツを引っ張る。
一番下のボタンを外すのを待って、一瞬だけキスをした。「だってせんぱい」
「ん?」
「俺せんぱい居ないと生きていけないかもしれない」
「・・・俺だって笠井好きだよ」
「逃げてるよ」
「逃げてないよ」
「あっ・・・」
「しおれちゃった」
「ホントだ」階段の上の方に手を伸ばし、中西が花を拾う。
水分の奪われた花はしゃんとせず、しんなりと倒れてきた。「これ、また水に差したら戻るかな」
「さぁ、花瓶に入れてても寿命が来たらしおれるし」
「そうですね・・・悪いことしたかも」
「時間かけすぎぃ?」
「もーっ」照れる後輩を中西は笑って抱きしめる。
抵抗しようとする笠井を押さえつけて花を見た。「花って結構生命力高いから大丈夫よ」
「だといいな」「でも花は散るから綺麗なの」
「そうですか?」
「そう思う」
「・・・わかんない」
「造花なんてずっと一緒でつまんないよ」
「・・・そうかな」
「花、どうしようか」
「どうしましょう」
「・・・元に戻しとく?」
「ですね」
「じゃあ職員室に行ける格好にしないと」中西が笑いながらシャツのしわを伸ばして笠井のシャツのボタンを留めていく。
それを見て、笑いながら笠井も中西のシャツのボタンを留めてやった。「やっぱり中西先輩って造花みたいだよ」
「あ、まだ言う」
「だって何があっても形も大きさも変わらないもん」
「・・・それは何処の話?」
「息子の話ではありませんッ」
「いたっ」ズボンの上から指で弾いて笠井は笑う。
「・・・セクハラ」
「中西先輩に言われたくなーい」
「それちょっと理想でしょ」
「・・・うん、ちょっとだけ理想」
「ふーん、じゃあ笠井のために造花な男であるべく頑張っちゃおうかな」
「楽しみにしてますよ」
「うん、そうして。立てる?」
「何とか」しおれた花を持って笠井がゆっくり階段を下りていく。
中西がその後に続いた。「シャツしわよりすぎ」
「ホント。失敗だね」
「ですね」
「・・・早く帰ってもっかいする?」
「・・・すけべー」
「よく考えたらその花って傍観者だよね」
「・・・・・・」ふたりと花は笑いあって職員室に向かった。
つっこみ禁止。
あ・・・あ・・・アタシ・・・
何故このノリで三笠が書けないんだろうか・・・
中笠スゲー楽しいです。脱がしあいっこ萌。
ていうか何故に彼等のチョイスが階段なんだろうね!
舞台モデルは中学。
新校舎っつっても新しくなかったよ・・・030731
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