ツ ベ ル ク リ ン 反 応


「ふーん、3年生注射あるんだ」
「え?あッ!嘘ッマジで!?」

掲示板の前で根岸が立ち止まり、藤代達も一緒に足を止める。
今月の予定が書いてある黒板は空欄にぎっしり落書がしてあった。そこには誰かに対する悪口なんかもあるのだが本人はそれよりも注射の方が重要らしい。
今月某日、3年ツベルクリン反応。

「げー、やだなぁ俺注射嫌い」
「根岸先輩そんな感じですね」
「な、なんでだよ」
「いやいや可愛いッスよ」
「撫でるな!」

自分よりでかい後輩に頭を撫でられ怒る根岸だが藤代はやめない。

「何立ち止まってるんだ?」
「あ、すみません邪魔でした?」
「渋沢ーなんで注射あるんだよ!」
「注射? あぁツ反か」

黒板を書くのは本来寮長の役目だが、いつも渋沢が書いている。
と言うのも寮長様があの彼だからなのだが。

「何注射ごときでガタガタ言ってんだよ」
「そうですよ三上先輩のタックルの方がよっぽどムチャクチャじゃないですか」
「オイ」
「何で注射恐いんですか?俺割合好きなんですけど」
「笠井変態!?」
「・・・ソレある意味で根岸先輩から一番聞きたくない」
「ふーん笠井注射好き?俺がやってやろうか」
「まぁ三上先輩のもチックン☆てなモンですけどね」
「・・・・」
「お前等廊下でなんて話してんの?」

現れたのは例の寮長様。
尤も寮内で彼が寮長だと知っているのは僅かだろう。お供に辰巳引きつれている。

「注射の話、お前が思ってるような変な話じゃありません」
「注射?」
「今月のツ反の話」
「・・・何ソレ。初耳」
「お前寮長だろ」
「だって俺仕事してないもん」
「・・・・」

威張るな、
三上の横で藤代がそうなんスか?キャプテンだと思ってた、なんて言っている。流石に兼任はないだろう、集会があるかないかの委員会なんかとは違うのだ。

「・・・それって全員?」
「全員だろう」
「・・・・」



「・・・言っとくがその日サボってもまたあるぞ」
「・・・・」

黒板の字を睨み付けていた中西に辰巳が一言。一同は移動してしまったが辰巳は一緒に残っている。

「何が?」
「ツ反」
「・・・お前の察しのよさは時々殴りたいぐらいよ」
「注射なんか恐くも痛くもないだろ」
「人に打つんなら平気なんだけど」
「・・・オイ」
「なんだろう、俺 医者ってキライなのよ。笑顔で痛くないですよーって痛いから泣いてるんだっつの」
「・・・痛いから嫌なんだろ」
「痛いのは平気!あの医者の勝ち誇った顔がイヤ!」
「・・・・」

私怨に聞こえる。

「ヤダな〜・・・逃げらんないかな」
「中学生が注射で逃げるな」
「イヤなモンはイヤ、しなくていいことはしない、逃げても負けないときは逃げる」
「・・・・」




「俺凄いもん見ちゃった」

中西のクラスは終わったか。辰巳は心配になって廊下の様子を伺う。
注射を終えた生徒がぱらぱらと廊下を歩いてくる。まれに授業中だということを忘れ騒いでいる生徒が教室内から教師に注意されていた。他のクラスはまだ授業中だが授業を中断した彼らに再開する気はないだろう。
廊下を歩いてるのは日野、番号順なら中西は終わってる筈だ。

「凄いって?」
「中西が泣いてた」
「・・・そりゃすげぇな」
「泣いてんだけど近寄んじゃねーぞって回り睨み付けててさぁ」
「それって注射のあと?」
「する前からピリピリしてたけど。でも演技かもしんねぇぞー中西が注射キライとかなぁ?」
「だよなぁ」

「・・・・・・(・・・・・・泣いて・・・)」

因縁つけられそうな気がして溜息をついた。
騒がしい廊下に教師は顔をしかめ、窓を閉めろと辰巳に声をかけた。真横の窓を閉めて、その前に中西が見えたような気がする。
ガラリ、閉めたばかりの窓が開いたかと思えば廊下から手が伸びて辰巳の首を捕まえた。
ぎゅっと巻きついてきた中西は何かつぶやいて手を離し、また窓を閉めて去っていく。
あっけにとられたのは辰巳だけじゃなく、教室中が同じこと。

「・・・今のは中西か?」
「・・・はあ」
「・・・じゃあいいか。とりあえず残り時間全部辰巳に当てるから」
「・・・・」

はい辰巳ー次の文訳してー。
理不尽ながらも辰巳はノートに目を落とした。
・・・いや、待て。何だ今の流れは。
中西だからありなのか。中西なら何をやってもおかしくない、と言うことか。だから注射が苦手には見えなくて授業中人に抱きついてきてもおかしくなくて。
・・・じゃあ。さっきの言葉も実行の可能性があるかもしれないということか?
あの医者家まで帰さねぇ。
・・・・・・。

「中ッ、」

立ち上がって窓を開けると中西はそこに立っている。
にやり。
・・・してやられた。

「・・・・・・あー・・・辰巳、お前机こっちにもってこい」
「・・・・」

教師が指したのは教卓の隣、特等席。
授業頑張ってねー!
中西は手を振って今度こそその場を去っていく。

「・・・・」

なんでツベルクリンなんか。

 

 


・・・?
書こうと思ってたのと違う感じに・・・何かこうと思ってたんだっけ。こんな話になるはずでは。
あたしは割合注射好きなのでわからんけど学校の予防注射を泣き喚いてやらずに帰ってきた妹がいます。伝説。
中学のときは友達が本気で泣いてましたけどね、待ってる間から。ちゅうがくさんねんせいですよ!

 

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