立 夏


「・・・・」
「・・・せんぱい・・・」

保健室に入った途端にこの光景。どうしようかと迷いながら、辰巳は中に入ってドアを閉める。
革張りの長椅子の上に正座した笠井は今まで仏に祈っていたかのように手を合わせていた。但し、向かうは仏ではなく白衣の女性。

「あら辰巳君」
「なんだかいいご身分で」
「ホントー気持ちいいわコレ」
「どうした?」
「・・・・」

泣きそうな顔で睨み返してくる笠井に納得。何故ならきっと理由は似たようなものだから。

「ほんで辰巳君は何の用?」
「さっきの授業ここにいたことにして下さい」
「それは待遇によりけりってトコかしら」

なんとも幸せそうに校医はにやりと笑った。白衣を翻して事務机に向かい、傍の紙を取って何か書き付けた。ハンコを押して紙を振りながら戻ってくる。

「笠井君」
「はい・・・」
「明日のお昼休みここおいでねvお仕事準備しててあげるからv」
「・・・はい・・・」

満足げな校医から紙を受け取り、笠井はようやく足を戻す。
笠井が正座。笠井が正座。もしかしたらそれを強いることが出来るのはこの人だけじゃないんだろうか。そして自分は何を求められるのか辰巳は冷や汗をかく。

「それは?」
「・・・見学証明書・・・」
「午後体育なんだってー、水泳ばんざーい」
「先生・・・」

まだ初夏なのに体育の授業は水泳に入った。それを忘れていたんだろう、のっぴきならない事情を三上によって作られたため笠井は苦労している。

「じゃー辰巳君行こうか。とりあえずさっきの授業中ほんとは何処にいたのか聞こうかな」
「・・・さっき、」
「さっき」
「・・・・・・剣道場・・・」
「どうしてそういうチョイスをするかな。痛くない?」
「何がですか」
「行為をするのにさ」
「してません」
「残念」
「(何で・・・) 紙もらえますか?」
「ふーん、まぁいいけどーあたしは生徒の味方だからー。辰巳君お茶」
「・・・はい・・・」

・・・最強、かも知れない。武蔵森学園男子棟の校医は大まかな恋愛事情を把握している。

「せんせーただいまー」
「お帰りー」
「あれ、辰巳じゃん」
「中西?」

パンをいくつか抱えて入ってきたのは辰巳をここへ連れてきた原因。
笠井もいるしーとすでに事情を察した風に笑って校医の机へ向かい、パンをそこに並べた。

「はいお帰りなさい」
「先生ぐらいよー俺を使役できるのー」
「もうひとり居んでしょーそこに」
「えー確かに辰巳になんか言われたらなんでもするけどー辰巳が何か命令するなんてないしー」

机に寄りかかって中西は笑って辰巳を振り返った。辰巳は顔を背けて冷蔵庫から出したお茶をグラスに注ぐ。

「中西君もさっきの授業?」
「あ、さっきのはどーでもいい。水泳の方」
「・・・あー辰巳君がそういうのってやっぱりショックだわー」
「辰巳が関係してたらいいんだけどねー!俺は単にやりたくないだけー」
「・・・先生お茶」
「はいどーも」
「じ、じゃあ先生、ありがとうございました」
「はいお疲れさん、笠井君ネクタイちゃんと締めときなよー」
「・・・も、もっと早く言って・・・」

洗面所の鏡を見て笠井は脱力。
ネクタイを締め直し、力の無い声で失礼しますと部屋を出た。

「せんせー笠井いじめちゃ可愛そうじゃん」
「えーだって可愛いからぁ」
「可愛いけどー」
「・・・先生、俺の」
「あーはいはい。君は水泳の方いいの?」
「・・・・」

時間割を把握してるんだろうか。辰巳のクラスも午後に水泳が入っている。
黙る辰巳に校医は笑って紙を差し出した。

「君のとこ中西君と一緒でしょ」
「・・・それは把握してるんですね」
「俺もねー、明日水泳じゃんーって思ったから辰巳捕まえようと思ったんだけど失敗してさー」
「アラそんなもん夜じゃなくてもいいじゃない」
「なるほど」
「余計なこといわないで下さい!」

紙を受け取ったならもう用は無い、辰巳は保健室を出ようとするが中西が素早く捕まえる。そのままベッドへ引っ張るので辰巳は慌てて振り払った。

「ちょっとーベッド使うの?」
「えーダメー?」
「ダメー、仕事あるの」
「してるんだ」
「してますよ」

じゃあしょうがないか、
中西はその場で辰巳に正面を向かせ、じっと辰巳を見た。

「・・・中西」
「つけるのとつけられるのどっちがいい?」

尖った尻尾が見えた気がした。




「おい・・・中西それ・・・」
「え?虫刺されー」
「うっわ」

幸せいっぱいで笑っといて何抜かす。
クラスメイトが中西をプールに突き落とそうとした。少し離れた場所で辰巳は教師に胃痛を訴えているが、その程度じゃ見学は許してくれないらしい。

「あ、でもお前水泳さぼるって言ってなかった?」
「予定変更!見せびらかしに参加!」
「・・・お前なんか溺れてしまえ!」

大人しくさぼってくれ!
それこそ溺れそうな辰巳を哀れんだのはサッカー部数名だった。

 

 


あんまりタイトル関係なくなっちゃった。まぁいいか?よくないかな・・・
校医は桐原での水祈ちゃんをイメージして書いたとは言わずもがなという感じです(笑)。

 

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