うつうつ

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ふっと、目が覚めて。
ぼんやりする視界。少し目を閉じて、中西はまた目を開けた。眩しい。
目に映るのはノートの文字。湿気でふやけてやんわりとシャーペンのシンを受け止める紙で色は薄い。
ゆっくり組んだ腕を抜くと剥き出しの腕にシャツのボタンのあとがくっきり付いていた。左手を乗せていた右腕を見ればしっかりと自分の体重で指のあとが真っ赤に付いている。
急に感じる熱さに顔をしかめ、何気なく首筋に手をやればそこは濡れていた。恐ろしく噴き出した汗に少し焦って鞄からタオルを引っぱり出す。よくみれば机にも滴が落ちていて、もしかして汗、なんて思ってがっくりきた。

あっついなぁ。
若い女性教師は汗もかかずに英語の文法を説明していた。魔女じゃないのかあの女。
腕についた指の後にそれを重ねてみる。合わせてみても自分がどういう体勢で眠っていたのかよく分からなくなっていた。
タオルを首に巻き付けて前で結んでしまう。少し椅子を引いて制服のズボンもまくり上げた。部活でついた日焼け跡が何とも言えない。
駅前でもらった塾の宣伝の小さなうちわで風を送ってみるが大して変わらなかった。腕に力が入らなくてすぐにやめるが、やめるとまた暑さが増したので再び手を動かした。
黒板の端に書かれた日付を見た。・・・先日の球技大会の日のまま止まっている。時は止まることはない癖にまったく進んでいない場所ばかりだ。
大きな欠伸をかみ殺し、思う。

辰巳の夢を見た。

　

　

「辰巳辰巳ー」
「・・・何だその格好」
「え、あ、暑いから」
「大丈夫か？」
「さっき小林先生に怒られたよ。いいじゃんねー校内なんだからさ」
「そう言う問題か」

廊下で中西に捕まった辰巳はやはり涼しげだ。
汗腺ないんだろうか。しばらく辰巳を見ていると不思議そうに顔をしかめられる。
あ、いや、汗腺あるよ。汗でべたつく肌を知ってる。色んなときに。昨日の夜とか。

「あのね」
「何だ」
「・・・・・・忘れたじゃんかバカッ」
「ッ・・・」

ばしっと中西に肩を叩かれて辰巳は思わずよろける。
とんだとばっちりだ。そういうのは三上だけで勘弁して欲しい。

「よろけんなよ一軍」
「・・・無茶言うな」

よろけるような力でどつくお前がどうかと思う。肩はまだ少しひりひりして熱い。
何だっけ。中西は首の前で結んだタオルをほどいて首筋を拭いた。

「あー・・・さっき授業中寝ててさ、寝てる間にすっげー汗かいてた」
「・・・寝るな」
「首とかべたべたっつーか濡れてたしさ、それどころか流れて机に落ちてたよ」
「・・・暑いからな。水分とっとけよ」
「うん・・・」
「まだ？」
「うん・・・話したかったのはこれじゃなくて・・・そう、なんか、夢を見た気がする」
「・・・大物だな、授業中に夢なんて」
「肝心なのはそこじゃなくて・・・どんな夢だっけ」

廊下は気持ちのいい風が吹いた。
汗ばんだ肌に風を送ろうと中西はシャツを引っ張って風を送る。

「・・・あんまり嬉しくない夢だったな」
「そうか」
「・・・えーと」
「何？」
「・・・夏生まれって、やっぱ暑さに強いの？」
「・・・お前冬生まれでも寒がりだろう」
「暑いのも嫌いだけどね」
「我が侭だな」
「熱くても辰巳は好きだけどね」

階段を上がってきた教師の姿が見え、辰巳はじゃあと歩き出した。
中西は少し背中を見送る。頑張って思い出しとく、声を送ると辰巳は振り返る。

「寝るなよ」
「頑張る」

あぁでも歩きながら寝そう。
擦れ違った教師に服装を注意され、適当にあしらって教室へ向かう。

あっついなぁ。
夏は全然テンションが上がらない。シャーペンを持つのも億劫な程体が重い。
それでも顔を見るだけで放課後まで頑張ろうと思う。また炎天下の下でのサッカーが始まる放課後。離れた教室よりはずっと近くなる。隔てる壁もない。

「・・・あー・・・」

あっちー。

（・・・あ）

７月１１日。
教室に入ると教師が日付を書き直していた。もう今日が最後の授業だというのに、今更書き換えても無駄だろう。
夢の内容は思い出せなかった。
誰か人が出たような気がした。誰だったか全く思い出せない。

（もういっこ言おうと思ってたこと思い出した・・・）

次に会ったらまた忘れてそうだなぁ。
席について首のタオルを結び直す。さっきの授業から出しっぱなしだったノートと教科書をしまい、次の古典を探している間に号令が終わった。

（寝よう）
（なんかすっげー眠い）
（また辰巳にノート借りればいいし）

辰巳って誰だっけ、
眠りに落ちる刹那ふっと頭に浮かんだ声。
辰巳は辰巳だよ
誕生日おめでとうって、今日中に言えるかな
目が覚めても覚えてますように。

　

　

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辰巳の誕生日を覚えてない中西というのも書いてたんですけどね。
因みに汗流しながら寝てたの正しくあたしです。起きてスゲー焦ったよ（寝過ぎだよ）。