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「えー何で三上先輩と掃除?タクは?」
「うっせぇな・・・」
「またタクに無茶させたとか言わないですよねー、中西先輩に怒って貰いますよ」
「何で他力なんだよ」

だって折角の休み、三上先輩と玄関掃除なんて。
やる気なくほうきに寄りかかる藤代に、三上が先に癖がつくと怒鳴る。これだから三上と掃除はしたくないのだ、神経質め。

「りょーへーさんいますかっ?」

一瞬声の主を捜す。
階段下、高い声の主は小さな女の子。誰かの妹だろうか。

「りょーへー?誰だっけそれ」
「ひとりで来たのー?このお兄さん変態だから気を付けてねー」

三上がすかさず藤代の首を絞めた。
ギブギブ!!早すぎるギブアップの声が届いたのか、辰巳がやってくる。

「おい三上、玄関先で何やって・・・優衣ちゃん?」
「りょーへー!!」

わーい!
少女はポニーテールをなびかせて巨漢に飛びついていった。
あれ、お前りょーへーだっけなんて三上の声も聞こえず、辰巳は少女を抱き上げる。
・・・どこからどう見ても微笑ましい親子だ。少女の口からパパと漏れても不思議じゃない。

「辰巳先輩の隠し子?」
「藤代・・・」
「隠し子って何?」
「何でもないよ。優衣ちゃん今日はどうしたんだ?」
「あのねー、郵便屋さん!」

自分の辰巳に挟まれてしまったポシェットを引っぱり出し、そこから白い封筒を出してくる。端が折れているのはご愛嬌。
辰巳先輩さりげにセクハラだ・・・
藤代はじっと辰巳の手元を見るが、どうも親子にしか見えないので騒ぐ気にはなれない。

「はい!」
「ありがとう」
「ひとりでここまで来たんだよ!バス乗って!」
「そっか、すごいなー」
「えへへ」

受け取った封筒はポケットに差し、辰巳は少女の頭を撫でてやる。

「大変だっただろ、ジュースでも飲むか?」
「飲むーv」

辰巳が少女を抱いたまま中へ入っていくのを、三上と藤代はただ見送った。
因みにふたりは玄関掃除の当番(三上は笠井の代理)だったのだが、その場にほうきを投げ出し試合でしか見られないチームワークを発揮して後をつける。

「あれ、辰巳子持ちー?」
「根岸・・・」
「ネギー!」
「優衣ちゃん久しぶりー、出来ればネギはやめてくれる?今日はどうしたの」
「あのねー、りょーへーにおてまみ・・・お手紙届けに来たの!」
「へー、ひとりで?」
「そう、ちゃんとバス乗ってお金払ったの!」
「ふーん偉いねー。しっかし辰巳が抱いてるとホント親子みたい」
「違うよー、りょへーは優衣のパパじゃないよ!」
「アハハ分かってるよ」
「優衣はりょーへーのお嫁さんになるのv」

ぽ、と頬を染めて少女は小さな手を両頬に当てる。微笑ましくそれを笑った辰巳はどこから切ってもお父さん。
階段の陰に隠れていた三上藤代は、急に階段を駆け下りてきた足音にびくりとする。

「今もの凄くときめくフレーズを他人に言われた気がした!」
「・・・・・・中西・・・お前何者・・・?」

三上の声も中西には届かない。
くる、と視線を巡らせ、見つけたのは辰巳パパ。

「・・・・・・隠し子!!」
「どいつもこいつも揃って・・・」

ハァ、と大きく溜息を吐いた辰巳を、事情は分からないながらも優衣が頭を撫でてやる。

「大丈夫?お腹痛いの?」
「ううん、大丈夫だよ。俺ちょっと用事あるから根岸とジュース買っておいで」
「じゃあ後でね」
「うん」

辰巳が優衣を根岸に預けたが、抱かせるとよろめいたので下ろさせて、ふたりは手をつないで廊下を行く。
角を曲がった瞬間に中西は辰巳に詰め寄っていた。

「誰?」
「いとこ」
「ふーん、辰巳の将来のお嫁さん」
「・・・小さい子の言うことだから」

楽しくなりそうな展開に藤代は身を乗り出した。修羅場って奴っスね、とか何とか。
三上の方も普段自分たちばかりもめているので他人のもめ事は楽しい。

「何でいきなりこんなとこきてんの?」
「彼女の親が初めてのお使いやらせたがって、でも不安だから俺の所に。バスで20分だよ」
「ふーん、何のお使い?」
「彼女のお姉さんが結婚するから、その招待状を届けに」
「あら可愛らしい。そして将来は辰巳のお嫁さん」
「・・・・・・昨日のことまだ怒ってるだろ」
「いいえ?」

中西はふっと鼻で笑ってポケットから煙草の箱を出した。中身はシガレットチョコだが。

「ふーん、そう、辰巳ってロリコンなの」
「違う・・・」
「あっそ、別に良いけどねーどーせ俺は結婚できないし?」

こんな拗ね方の中西も珍しい。後で「昨日」何があったのか(辰巳を)問いつめてやろうと三上は思う。

「何でネギっちゃんとはお知り合いなの」
「前にも来たから」
「俺知らないよ」
「お前は家に帰ってただろ」
「なんかムカツク」
「何でだよ・・・」

どっしり溜息。
どうしたのー?戻ってきた少女が慌てて駆けてきた。辰巳の足元に立ち、大丈夫?と心配そうに見上げてくる。
ロリコンでも何でもそっちにしといた方が安全だよ辰巳先輩、藤代は思っても口にはしない。自分は可愛い。

「大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「うん。公園でも行くか?」
「行くーv」

缶ジュース片手に優衣がバンザイ。
少し遅れてきた根岸が可愛いなぁと頷く。

「俺そのまま優衣ちゃん送るから。寮には届けてあるし、門限までには帰ると思うけど」
「はいはーい。行ってらっしゃい。優衣ちゃんじゃあねー」
「じゃぁねーネギー」
「うう・・・いいけどね・・・」

ひらひらと根岸に手を振って、少女は辰巳に手を引かれて寮を出ていく。
エサで釣った誘拐の図、三上が呟いて藤代が吹き出す。その藤代がとばっちりを受けて中西のけりを食らった。

「何あのチビ!」
「そりゃ中西と比べりゃちっせぇけどよ」
「手つないだ!」
「心せまーい・・・。いいじゃんお前ら一緒に寝てんだから」
「昨日途中で寝られた」
「・・・・・・」

辰巳を問いただすまでもなかった。
それは辰巳サイドの人間としては耳に痛い。自分もやってしまったことがあったような気がするだけに三上はそれ以上何も言わない。

「何が初めてのお使いだって?俺なんか初めてのお使いで飛行場行ったっつの」
「俺 中西の体験談を聞きてぇよ」
「でもあんなちっちゃい子がお使いってかわいーっスよね、俺なら絶対懐かせるー。イトコって結婚出来るんだっけ?」
「あ・・・」

根岸が中西を止める間もなく藤代は昇天となった。

 

 

 

「たっつみー、今日ヒマー?」
「いや」

ノックもなく部屋に入ったがもうそれについての反応はない。
中西が部屋に足を踏み入れると、休日だというのに辰巳はネクタイを締めている。

「今日何かあったっけ?」
「いとこの結婚式」
「・・・ああ・・・やなこと思い出したぁ・・・」
「・・・・」
「折角部活休みなのにー!?」
「丁度休みでよかったよ」
「・・・・・・。もう行くの?」
「迎えが来るはずだから」
「りょーへー!!」

来た、辰巳の声は中西にはもう聞こえない。
高い声で愛しい人の名を呼ぶ声は、中西にしてみれば立派に恋愛感情を持っている。小さい子の言うこと、じゃない。

「りょーへー。準備できた?」

ひょこんと顔を覗かせた少女は照れたように体を半分ドアに隠している。
白いドレスに身を包み、髪も白いリボンで結ってあった。先日はストレートだった髪も今日は特別に巻いてあるらしい。
出来たよ、と優衣の頭を撫でて辰巳は中西も引っ張って部屋を出た。
仏頂面が辰巳を睨み、優衣はそれを不思議そうに見ている。

「りょーへー、この人お腹痛い?」
「痛くないよ。今日は大人っぽいね、花嫁さんより綺麗かもしれない」
「へへ、そう?似合う?」
「似合うよ。行こうか」
「うん!」
(このたらし・・・!)

すっと手を差しだし、お姫様をエスコート。
面白くない中西はただそれを睨むばかりだ。

「あれー、優衣ちゃんお姫様みたい」
「かわいいー?」
「かわいいかわいいー、今度俺とデートしない?辰巳先輩より俺の方が格好いいよー将来安泰だしー」
「やーっ、優衣はりょーへーのお嫁さんになるのー」

廊下の向こうで藤代のふざける声が聞こえ、その応えが中西に追い打ちをかけた。
ずんずんと廊下を行き、辰巳達に追いつく。

「辰巳」
「中西・・・」
「行ってらっしゃい」

ぞくり。
言外に気を付けてね、を含んでいる。
怖いほどの笑顔の中西は優しく優衣の頭を撫でて、笑顔のまま場を去っていく。野生児藤代は怯えきって動けない。

「・・・・・・あの人もりょーへーが好きなの?」
「えッ」
「今日は優衣が借りるねってゆっといて」
「・・・うん」

最近の子はませてるってホントなんだ。
伝言を頼まれた藤代は伝えるべきかどうか迷った。

 

 

 

部屋の電気をつけて、辰巳はびくりとして思わず紙袋を落とした。
ベッドの上で中西が三角座りをして辰巳を見ている。身内と会っただけでそこまで怒られても。

「おかえりなさい」
「・・・・・・ただいま・・・」
「どうだった?」
「・・・よかったよ、お姉さんも最後に会ったときよりずっと綺麗になってた。やっぱり女の子って変わるんだな」
「ハイハイごめんね変化なくて」
「・・・・」
「藤代に八つ当たりしてたら渋沢に怒られたから地味に嫌がらせしといた」
「・・・・・・あッ」

本棚の本が全て反対を向いて、背表紙が奥になってタイトルが一切見えない。
普段地道な作業をやらない癖に。感情とは恐ろしい。

「・・・何をそんなに怒ることがあるんだ」
「だって辰巳最近冷たいからー」
「・・・・」
「すぐ溜息吐くし」
「誰の所為だ」

何を言うか。
辰巳はやっぱり溜息を吐いて中西に近付いた。ベッドに上がって隣に座る。

「・・・だっこ」
「重量オーバー」
「・・・・」
「・・・何拗ねてるんだ」
「浮気者」
「・・・・」

あれはどこか浮気要素を含んだだろうか。もう溜息も出ない。
仕方なく目尻にキスを。しばらく反応はなく、油断した頃中西が辰巳を強引に押し倒す。

「もうあのチビ来ないよね」
「・・・多分な。1回ぐらい写真届けにくるかもしれないけど」
「じゃあその日だけあいつに辰巳貸したげるからあとは全部俺に貸して」
「・・・何で返してくれるんだ?」
「勿論俺で」

何となく久しぶりな気がする。
体を倒し、口付けながら辰巳のネクタイを引っ張る。

「・・・優衣ちゃんの親が結構本気だった」
「シメるよ?」
「やめろ・・・」

中西の手を払い、ネクタイを外しながら辰巳は起き上がった。中西をベッドに倒して立ち上がる。

「辰巳」

中西が体を起こすと辰巳がドアへ向かっていた。
この期に及んで逃げるのか、と思いきやドアを開けると雪崩。

「・・・お帰りなさーい辰巳先輩v」
「ただいま藤代。三上は今日何処行ってきたんだ?」
「いや秋葉原にちょっとばかし、これは笠井用っつーか?」

三上は笑顔でそれをポケットにしまった。笠井にも使うな、気の毒すぎる。

「三上ー、どうせなら盗聴器ぐらい預かってあげるから」
「中西」
「いいから辰巳、ドア閉めてこっち」
「・・・・」

ぽん、と中西は笑顔でベッドを叩く。
辰巳はしばらく待ち、藤代を三上が起き上がってからドアを閉めた。

「・・・部屋帰ろ・・・つーかお前今日俺の部屋な」
「またですかー。・・・男同士ってそんなイイんスか?」
「渋沢にでも頼めば?」
「うーん・・・タクにたのもっかな・・・」
「・・・了解しそうだからやめろ」

 

 

「俺は辰巳の嫁にして貰える?」
「・・・・」

辰巳は少し迷って手を止める。
ん?と様子を伺ってくる中西の機嫌は大分よくなった。ただ喋る余裕がある分何処か怒っているのだろう。

「・・・家事一般出来るようになれば考えてやる」
「ホントに?」
「星のような候補者に勝ったらな」
「じゃあ審査員の辰巳に今から賄賂でも送ろうかしら」
「・・・・・・今から?」
「今からっ」

 

後日談として。
ひとりで遊びに来れるようになった優衣はこれからしょっちゅう遊びにくるようになる。
それについての影響については語られない。

 

 


辰巳のいとこになりたいです。
すごい遊んでくれそうじゃないか。ほんで結婚出来るというところがポイントです。
辰巳は辰巳で優衣に他に好きな子がってコトになれば親並に動揺するに違いない。そんで中西が怒るわけです。

 

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