夏 の 思 い 出


「暇ー」
「・・・・」
「どっかいこうよー」
「行って来い」
「やだなーデートに誘ってるの」

ぺしんと中西に叩かれて辰巳は一瞬止まる。
こっちは部屋の片付けをしてるというのに。いい加減本棚が溢れてきていくらか家に送ろうと整理していたらなぜか部屋の片付けに発展していた。
窓の外で蝉が歌う夏休み、散々走りまわされた部活も明日からはとりあえずひと段落だ。

「ね、辰巳すぐに帰らないでしょ?」
「何日かいるけど」
「だからその間にどっか行こー」
「そこの本とってくれるか」
「とったらデートする?」
「検討する」

理不尽な交換条件には応えず辰巳が手を差し出すと中西は素直にそれを渡してくれる。
と、ひらり。
本と本の間にあったんだろうか、何か紙片が宙を待った。それが何か中西には見えないうちに、辰巳が空中で捕まえて本の間に挟んでしまう。

「・・・なに?」
「なんでもない」
「じゃあ隠さなくていいよね」
「隠したわけじゃ」
「じゃあ見せれるよね」
「でも見せない」
「・・・・」

辰巳は本を背中に回して中西を見返す。じっとそれをにらみ返し、中西は何を思ったか突然Tシャツを脱ぎ捨てた。

「中、」
「見せないとこのまま全部脱ぐよ」
「・・・・」
「そんで寮内歩き回るよ、どうする」
「やめてくれ・・・」

出来れば昨日のことは忘れてしまいたい。行為の痕跡を残すなど馬鹿なことをしたと今更思っても仕方ないのだが。

「じゃあ見せて!」
「・・・いっとくけど怒るなよ、」
「内容によりけり!俺の写真とかだったら大喜びだけど!」
「ありえない」

辰巳は頭を抱えて本ごとそれを手渡した。膝の上にそれを開き、それを手にする。
写真、だ。
辰巳と女の子の。

「・・・・」
「最近じゃない、2年前」

季節はちょうど夏らしい。白い腕を出した少女はどこかで見たことのある顔だ。背景はメリーゴーランド。

「・・・間宮の彼女・・・」
「になる前」
「何でお前と彼女が?」
「誘われたから」
「何で」
「さあ」
「・・・ふたりで?」
「・・・・」
「・・・・・・遊園地行こうか」
「何でそうなる」
「よく考えたら俺と辰巳って思い出ないのよ!」

ばしんと写真を床に叩きつけて中西は辰巳に詰め寄った。反射的に辰巳が体を引くが中西はさらに攻めてくる。

「ていうか中1の辰巳とか知らないし」
「・・・・」
「遊園地行こうー!」
「金ない」
「この子といってるじゃん」
「奢り」
「・・・・」
「今月はほしいのが・・・」

辰巳は指折り数えて新刊を数えた。悩んでいるものも合わせるとすごい数になる。
片手が終わる頃中西が辰巳を突き飛ばした。油断していた辰巳は壁に思い切り頭をぶつけたが中西はそれにもかまわず迫る。

「たつみ」
「・・・・」

後頭部の痛みに涙する辰巳に顔を寄せた。
と、ガチャリ。

「中西ーッお前さー・・・・・・悪ィ邪魔した?」
「うーん結構ね」
「悪いな」
「三上行かなくていいから・・・」

この際部屋の住人ではなく中西を呼んだことも咎めない、辰巳は三上を手招きする。あまり嬉しくない歓迎だ、3Pの趣味はねぇぞと先に忠告して三上は中に入る。

「まー辰巳も一緒でもいいんだけどさー」
「嫌そうだな・・・」
「いや別に?折角だしどっかみんなで遊びに行こうってことになってんだけどよー、行く?」
「何処行くのー?」
「未定ー、今のところ候補は後楽園」
「微妙・・・」
「行く?行かねぇ?日付ははっきりしねぇけど団体割引できる人数集まらなかったら却下ってことになってんだ」
「セコいねー。辰巳行く?」
「お前いいから服を着ろ・・・」
「ああそうでした」

中西はやっと辰巳から離れて服を拾いに行った。辰巳が大きく溜息。
ふと三上が写真を見つけ、拾い上げる。

「おーお、懐かしいもん出てきてんな」
「・・・三上知ってんの?」
「お前ぐらいだなしらねぇの。辰巳さー、なんであのまま付き合わなかったんだ?結構いい感じだったろ」
「あぁ・・・絶叫乗れなかったから」
「何それ」
「絶叫乗れないくせに遊園地に誘われても何しろって言うんだ」
「・・・メリーゴーランド」
「俺が?」
「小学生逃げるな」
「・・・辰巳もしかして絶叫好きな人?」
「あぁ、中西行ってないっけか。去年もみんなで遊びに行ったんだけどよ、こいつひたすら藤代と回ってたんだぞ。ガキかっつの」
「ほっとけ・・・」

ふーん、中西はがしがしと頭をかいてややうつむく。

「・・・俺やっぱ行かない」
「まじで?中西きたら人数増えると思ったんだけどなー」
「・・・中西」
「・・・何?」

辰巳が中西を見て。

「ふたりで行くか?」
「う・・・」
「一緒に行って分かれてもいいし」
「・・・・・・」

中西が辰巳を見て。

「・・・なんでお前こんなときばっか察しいいの・・・」
「分かりやすい」
「・・・・」
「三上、俺と中西参加」
「了解」
「やだー!絶対やだッ無理ッ乗れるかあんなもん!」
「あぁ・・・お前それで去年も誘ったのに来なかったのか」
「はいはい、遊園地じゃなくて他を提案します」
「男ばっかで他に何処行くんだよ」
「上野!」
「パンダはもういい!」
「俺気球乗って吐いたんだってば!」
「別物だって」
「・・・・・・じゃあ辰巳と二人きりで観覧車を約束するなら行く」
「・・・・」
「三上、行き先を観覧車でかいとこに変更!」
「探しとく」
「ちょっと待て、何で観覧車」
「さぁね」

ふんと中西は鼻で笑い、三上の手から写真を奪う。

「それで夏の思い出にしてあげる」

 

 


夏の話ですが。
中西氏は案外怖がりだったらいいな!とかちょっとドリーミン・・・病んでますよ、知ってますよ。

 

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