ニ ア ミ ス
機嫌よく飛んでいたらうっかりミスってうっかり衝突、不時着したまま動けない。
「ん・・・」
辰巳だ。これから移動なんだろう、音楽の教科書(と多分その影に文庫本)を持ってクラスの奴らしい人と歩いてくる。こっちは見ない。
「中西ー、次なんだっけ?」
「えー・・・音楽の次だから歴史?」
「うわーダリー」
こっち見ろ!!
辰巳にじっと視線を送る。そんな奴と話してないで、こっち向け!
だけど辰巳はこっちを向かないまま向こうはこっちに近付いて、俺はあっちに近付く。
「・・・・・・」
さっきの授業の話でもしてるのか、なにやら真剣。
今日は特別時間割で普段こんなところですれ違うことはない。だから気づかなくても不思議はないけど、ここにいるのだから気づいてほしい。
俺も話しかけられているけど適当に返す。
「・・・・」
あと少し。数歩。辰巳はまだ気づかない。
・・・・・・・・・。
足を早めて辰巳に近づいた。気づかれないまままっすぐぶつかっていく。
「あ、ごめん・・・って中西?」
「お前にぶつかっていった俺がバカでした・・・」
逆に吹っ飛ばされた。アホらしい、あのガタイにぶつかって勝てるかっつの。
「大丈夫か?」
「いや喧嘩売ったんだけどね」
「は?」
「なんでもねー」
あーバカみてェ。
確かに片思い要素の方が強いけど。
「・・・音楽気ィつけて、機嫌悪いから」
「・・・お前何かしたな」
「俺じゃないよ、今日は」
「・・・・」
「ほんじゃ」
ひらひらと手を振っていく中西を、クラスの奴が慌てて追いかけていった。
辰巳はその背中を見て溜息を吐く。
「大丈夫か?つってもふっとんだの中西だけどなー」
「あれぐらいで飛ばされるわけにはいかないからな」
「中西って意味わかんねぇよなー」
「・・・・」
(ぶつかられるとは思わなかった)
今度から無視するのやめておこう。
辰巳の思いを中西は知らない。
ニアミスってホントは衝突しませんよ。すれ違うだけ(勘違いして書き始めた)。
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