失 恋 中


「好きなんだけど」
「ふざけるなら他の奴にしろ」



「辰巳ー」
「何」
「・・・なんでもねっス」

低い声に三上は両手を挙げて一歩引く。不機嫌な男から逃げ出し、隣のクラスに逃げ帰った。

「どうだった?」
「お前何したんだよ!」
「別に」

三上を使ってもダメか、
中西はノートを写す手を止めてシャーペンを回す。

(かなり本気なんだけどなー、今のトコは)

勿論その注がまずいのだと中西も分かってはいるが嘘を吐いても仕方ないだろう。確かに存在を確認したのはつい最近という具合だが。
先日一緒に一軍に上がった男。何となく見覚えはあったがやっと名前を覚えた。去年同じクラスだったらしいがそうなんだ、というレベル。
肝心なのは今だ。

「うーん・・・どうしよっかなぁ」




「お、会えちゃった」
「・・・・」

屋上へあがると辰巳の姿。近づいていき、立とうとするのを引き止めて隣に座る。

「何してたの?」
「・・・本」
「本好き?」
「・・・結構」
「ふーん?俺もその辺の奴らよりは読むほうだと思うけど、そんな分厚いのは無理だな。重そう」
「・・・・」
「人 殴れそうね?」
「・・・・」
「貸して」

辰巳の手から辞書のような本を抜き取った。
何気なく本を開けば自然と開くページがある。しおり代わりだったのか葉書が挟んである所為だろう。
手にとって裏がえすと写真が印刷してあった。幸せそうな新郎新婦の笑顔。

「・・・失恋中?」
「・・・・」
「・・・俺も失恋真っ只中なのよね、誰かさんに振られて」
「そうか」
「失恋中同士仲良くしません?」
「・・・お前に有利じゃないのか?」
「損はさせないよ」

中西はにやりと笑って寄りかかってくる。
寒い、と呟いて小さくなった。そこで辰巳ははたと気づく。偶然なわけがない、この寒がりがわざわざ外に出てくるか。
本を取り返し、辰巳は葉書の写真をじっと見た。それから中西を。

(・・・別にいいか)

勝手に勘違いさせておこう、傍にいる理由が出来た。

 

 


逃げ始めてしまったので引っ込みがつかなくなった辰巳氏。

 

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