疼 き


また何度目かの冬が巡ってきた。冬の病を思い出す。
冷たく暖かい手。




「寒い」

ポケットに手を突っ込んで中西は呟く。メンバーを入れ替えつつの練習で今日は待ち時間が長かった。

「寒くない?」
「・・・・」

自分に向かって言われているのか。
辰巳はようやく気がつき、とっさに声が出ず頷いた。しかし中西のように騒ぐほどじゃない、普通に冬の寒さだ。
さーーーむーーーいーーー〜〜〜、
中西はグランドを挟んで向こう側の桐原を睨んだ。

「あいつあの下にセーター着てんだよなー」
「・・・・」
「俺も着てくりゃよかったかなー、でも走ると暑いんだよねー」

顔をしかめた中西はかなり凶悪。不機嫌さを増していく中西に周りが少しずつ回避し始め、そのお陰で風が通るようになり更に寒いとごちる。
その横顔を見ていた辰巳がついに吹き出して中西に思い切り睨まれる。

「何」
「そんなに寒いか?」
「寒いよ!今ペンとか絶対持てない、凍傷になるぐらい手ェ冷たい」

それは流石に大袈裟だろう。
辰巳が手を差し出すと中西は渋々ポケットから手を出し、ぎゅっと辰巳の手を握った。
その手は本当に冷たい。手の冷たい人はというあれは間違いだなと辰巳は思う。

「うっわ・・・お前この手、何!?熱あんの!?」
「ないよ」
「嘘だーズルイー!!体温俺に分けろ!」

強引に上着の袖をまくり、空いた手も手首に巻きつけてくる。更なる冷たさに少し悪寒。

「うわーあったけー」
「俺はカイロか」
「いいなー俺夏でも指先冷たいんだよね」
「俺は夏も熱い」
「そ?ほんじゃ夏は俺が冷やしてあげる」

何となしに中西は言うが、辰巳が顔をしかめたのが気になる。

「何?不満?」
「いや、・・・どうせ忘れるだろ?」

まるで忘れてほしくないみたいに。
かっと少し体が熱くなった気がした。
こいつは誰だ?見覚えはある、確か根岸も仲がいい。名前は何だった?

「・・・あんた名前なんだっけ」
「教えない」





「・・・俺こんなに長い間同じ日と好きだったの初めてかも」

あ、もう冷たくなってきた。
シーツに投げ出された辰巳の手に指を絡める。相変わらず厚いほどの手の平は緩く握り返してきた。

「・・・何よー、感想なし?」
「なし」
「つれないの」

裸の胸に頭を置いて眠る体勢。
辰巳の手を離して、中西は指を折りながら数えてみる。

「・・・4度目の冬」
「・・・長いな」
「そーね、もう高3よ」
「・・・何してるんだろうな」
「ほんとにね」

中西は笑って体を起こし、勉強しようかと呟く。それに合わせて辰巳も起き上がった。
勉強机の明かりはついたまま。ノートも問題集も開きっぱなしで。

「・・・さいご、今度こそ」
「・・・・」
「もう辰巳の邪魔しないよ」

辰巳の顔を覗き込んで苦笑する。
その中西の表情を見て辰巳は少し俯いた。考えるように頭を掻き、毛布を中西の肩にかけてやりながら一度視線を合わせる。

「あのな」
「うん?」
「俺ランク上げたから」
「・・・尚更こんなことしてる場合じゃないね」
「だから東北なんか行かないから」
「・・・ほんとに?」
「・・・言うつもりなかったけど、落ちたら東北だし」
「・・・・・・俺のためにとか言っちゃう?」
「言わない」
「ばかやろ」

嘘でも言えよ、
中西が辰巳の胸を叩いた。力のないそれは頼りない音を立てる。


「どんだけ年取っても冬になったら絶対思い出す」

甘く疼く冬の病。
冬の病気だから痛みを伴うんだろう。


「俺も頑張ろ。男抱いてて大学落ちたら笑ってやるから!」
「・・・仕掛けたのお前だろ・・・」
「集中力が足んないのよ」

中西が笑い、辰巳も諦めて苦笑を返した。

 

 


なんて自虐的なネタ。憂鬱です。冬なんか来るな・・・!(悪あがき)

 

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