ジ ・ エ ン ド


「あれー中西もう食い終わったの?」

がやがやと騒がしい昼の食堂、根岸の声は何故か広くまで届く。
中西の代わりに三上が違う違う、と手を振った。目の前に何もない中西の隣に根岸はトレイを置く。

「あ、また食わねぇ気だろ」
「こいつに何か食わせろ」
「良平ちゃんの行儀悪い」

中西の正面の辰巳が箸で中西をさした。別段気にした様子はなく中西は笑う。

「なかー」
「だってさっきまで体力テストで走ってたのよー、気持ち悪くて食えない」
「試合の後は平気なくせにー」
「試合とは別ー、走るのは好きだけど強制されて走るの嫌いなの」

何か食えよ、と根岸が顔をしかめるので中西はふんと顔をそらした。これから午後の授業、部活もあるのにそんなことでいいのか。

「中西」
「辰巳があーんってしてくれたら何か食ってもいい」
「・・・・」

あ、なんか怒った。
三上は辰巳の隣からひとつ分席を離れた。にっこりと笑う中西に、辰巳は自分の皿から唐揚げをつっこんでやる。はいあーんというにはあまりにも乱暴だ。

「ごちそうさま」

これ以上厄介なことになる前に辰巳が席を立った。トレイを前に返しに行くのを根岸と三上が見送る。

「・・・食堂の唐揚げ不味くない?」
「別にー?中西偏食だからわかんねぇ」
「辰巳まだいるよねぇ、」
「・・・おー、あそこまだいるぞ」
「よしっ、なんかキスしたくなったから行ってくる!」
「・・・行ってらっしゃい」
「行ってこい!」

三上に見送られ中西は立ち上がる。嫌な予感がしたのか、もたついていた辰巳が素早く食堂を飛び出した。ブレザーを脱いで根岸に押し付け、中西もそれを追いかける。

「・・・走るんじゃん」
「強制されてねぇからだろ?」
「中西食ってないのに大丈夫かなー」
「むしろ俺は辰巳のんが心配だけど」
「・・・・」




「辰巳ッ!?」

目の前を走り抜けていくクラスメイトに高田は思わず声をかけた。
一瞬振り返った辰巳は中西の姿がないのを確認して数歩戻り、ブレザーを脱いで押し付ける。

「どうした?」
「中西」
「あぁ」
「次なんだ?」
「技術。教科書持ってっといてやろうか」
「頼んだ・・・ッ」

発見!
中西の声が廊下に響き、それを合図のように辰巳が再び走り出す。食後であろうに、大変なやつだと高田は黙ってエールを送る。
距離を詰められ辰巳は手近な教室に飛び込んだ。残り時間を確認し、再び教室を出ようとしたところで中西と顔を突き合わせる。捕まる前にまた教室に戻り机の間を抜けた。

「辰巳ー何やってんのー?」
「坂田ッ中西捕まえろ!明日の昼飯!」
「合点!」
「うわッそれ卑怯!」

辰巳を追いかけて教室に入りかけていた中西がドア付近で捕まった。その隙に反対側のドアから教室を飛び出し辰巳は廊下を駆けていく。
多分中西はすぐに追ってくるだろう、それならどこかに隠れてしまった方がいいのかもしれない。もう殆どの生徒は昼食を終えている。

「辰巳ッ何で逃げんのー?」
「うわ・・・」

もう追ってきた中西に辰巳はスピードを上げた。食堂での中西の言葉が聞こえたわけではなかったが、中西が追ってくるのだからロクなことであるわけがない。
食後の運動に脇腹の痛み。足を止めてしまえばそれで終わるが、素直に捕まってしまうのも悔しい。技術室は1階、授業開始まではもう少しある。
曲がってきた誰かにぶつかりかけ、その脇を抜けて階段を駆け上がった。中西はその階段の下で止まり、少し悩む。
この先は屋上、行き止まりだ。逃げるのには向かないところ。何か作戦でもあるんだろうか。

「・・・ま、いいか」

逃げられないならそれに越したことはない。
邪魔なネクタイを外して中西は階段を駆け上がる。





「・・・は・・・」

ぶつかるようなキスの後、中西は大きく息を吐いてフェンスに寄りかかる。
あまり天気がよくない所為か屋上には誰もいない。屋上の隅で辰巳も中西の足元にしゃがみこんだ。

「あー・・・疲れた。俺の勝ちだね」
「・・・何の勝負だ」

荒い呼吸を落ち着けようと辰巳はゆっくり息を吐く。うっすら汗がにじんだ。

「・・・最中みたい」
「・・・・」

辰巳が中西を見ると黙って笑い返してくる。中西の方も息が上がってかなり疲れた様子。体育のあとなら辰巳よりも疲れてるだろう。
中西の手に引っかかっていたネクタイを奪い、辰巳は立ち上がった。少し呼吸、それから中西の腰を寄せて唇を合わせる。一瞬戸惑う中西だが抗う理由もない。大人しくそれを受けているとなにやらベルトにも気配、どうしたことかと思うが辰巳は離れそうになかった。

「っ・・・」

ゆっくり唇が離れ、そうかと思えば辰巳が急に走り出す。
とっさに追いかけようとした体が引っ張られた。

「ちっ・・・やりやがったクソガキ!」

フェンスとベルトを結んだネクタイ。
信じらんねぇ、泣きそうになりながら解こうとするが指先に力が入らない。散々走った所為か、昼食を抜いた所為か、それとも思いがけない行為の所為か。

「ちくしょ〜・・・」

騙された。別に辰巳は何も騙してはいないのだが中西は呟く。

「寝かせてやんねぇと言いたいとこだけど俺の体力がもたないだろうな・・・」

全身の力が抜けて、座り込みたいところだがネクタイがそうさせない。しかし結び目はかたく、相変わらず指も動かない。
誰かに見られたら死んでやる。
最終的には諦めてベルトを抜き、しかしネクタイがどうにも外れないのでさぼりを決め込んでその場にしゃがみこんだ。
はぁ、と大きく溜息。

(・・・・・・好きだなぁ・・・)

 

 


走り回るシーンをもっと書きたかったわけなのですがなんかこう、どうもうまくいかず。
あと中西氏縛りプレイ(誤)は体育館にしようかと思ってたんですけどね、結べる場所がないんですよ。
中西は偏食だといい。

 

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