さ さ や か な 望 み
「俺、は、」
悲痛な声が段々小さくなっていった。
だけどそんな声も聞き取れるほどに部屋は静かで、お互いが近かった。
泣きそうな声が、言った。
好かれてるのって気持ちいいから
「三上でかけんの?」
「ん?ああ、」
「ふーん、今日は誰とデート?」
「さぁ誰でしょう」中西の冷やかしを適当にあしらって、三上は靴を履いて立ち上がる。
ポケットに財布を確認し、携帯も確認して。「・・・笠井は?」
「さぁ、部屋じゃねーの?」
「じゃなくて、ひとり?」
「うん、」
「ふーん」何か言いたげな中西に、出ていこうとした三上は足を止めて振り返る。
「いーの、公認だから」
「あっそ」
「んじゃ、今日は門限までには帰るわ」
「期待しないで待ってます」あなた早く帰ってきてねvなんてふざけて手を振る中西に追い払う仕草をして、三上は外へ踏み出した。
一瞬強い風が三上にぶつかる。少し息を止め、三上はアスファルトを踏み締めて歩き出す。
さて何処に行こうか。
さっき電話を掛けてきたのは設楽。遊ぼう、と言う誘いの電話だ。
それを受けて外へ出てきたのは確かだが、何となく行く気になれない。「・・・・・・」
だって、ああ言われては出てくるしかないだろう。
どうぞ行ってきて下さい、なんて。取り敢えず外は寒いだけだ。
三上は余り迷わず、設楽と待ち合わせたファーストフード店に向かう。
擦れ違ったのはカップルで、何だか幸せそうに見えてしまうのは隣の芝はと言う奴だろうか。
吐きたくない溜息を思わず吐いて、三上は自分にうんざりする。
何を、考えてるんだ。 笠井の考えが全く読めなかった。
「お前は浮気許せる人?」
「・・・ちゅーか、今浮気でしょ?」
「んじゃなくて、例えば浮気じゃなくて付き合ってたら」
「えー・・・」三上の質問に設楽は顔をしかめた。
人のトレイからポテトを奪い、三上は返事を待つ。
ふたりは外を見れば友達ぐらいにしか見えないんだろう、何だか変な気がした。「・・・すごい考えにくいね、俺今の関係結構楽しんでるし」
「・・・お前はそうだろうな」
「あー、でも、その浮気が本気だったら許す」
「・・・本気だったら?」
「うん。だって遊びで付き合わされてたらあっちもこっちも揉め損だし」
「ふーん・・・」
「何で?いきなり」
「・・・あー・・・」今度は三上が顔をしかめる番だ。
どう、どこから言えばいいのか。「・・・何か、」
「うん」
「誰でもいいって言われた」
「・・・笠井に?」
「うん」
「・・・・・・何それ」じゃあ俺にくれればいいのに。
設楽が三上と一緒に顔をしかめる。
それは何処までが本気なのか冗談なのか分からなくて、三上は少し困った。「何か、好きってゆってくれるんだったら誰でもいいんだって」
「むかつく、」
「ちょっとヘコまない?」
「てかむかつく」
「それ以上聞けなかったし」
「別れちゃえ」
「はは、それは無理です」好きだから?
それは少し違う気がして、三上は口を閉じて店内を見回した。
友達同士、家族連れ、そしてカップルは風景の色んな所に存在する。
────多分、
好きだと言ってくれるからだ。
「・・・早かったんですね」
「ええまぁ、やっぱり決着をつけようと思いまして。お時間宜しいでしょうか?」
「どうぞ?」ドアを開けると、・・・三上に言わせればそれは熱気。
温室かと言いたくなる部屋に、寒がりの笠井はさっきと同じようにひとりだった。藤代はたまの休みのチャンスに遊びに出掛けて居るんだろう。「何から?」
「笠井から」
「・・・えーと」少し意味の分からない返事をした、と自分でも思った。笠井も困った顔をして、三上の様子をうかがう。
何となくホッとしていた。笠井が笑ってないから。
笑っているときは、本当に笑ってるのかどうか分からないから不安だった。
ちゃんと見分けているつもりでも、自信はどこからも出てこない。「・・・いや、もういい」
「先輩?」
「もう、いい。とりあえず考えない。後で考えられることは後にする」
「・・・後悔しても知りませんけど」
「いい。今は、好きだから」うん、と笠井は差し障りのない返事をした。
「俺は、先輩が好きでいてくれる間は好きでいられるから」
恋愛って、頑張るもんだっけ?
引いてるのか引かれてるのか分からない綱引きのように、いつだって全力で力を出して。
時々息を抜いた隙にころりと向こう側へ転んでしまう。 慌てて力を込めて、均等に均等に。
きっと感情が傾いたらそこまでになってしまう、なんてよく分からないことを考えた。「・・・おかえりなさいって言うの忘れたな」
「ああ・・そうだった。ただいま」
「おかえんなさい。手洗いうがいは?」
「あれはホントは風邪防止にならないらしい」
「うわ、意味ないんだ」
・・・そうやって、笑うのは。
どっちの笑顔?
ああ、でも何だかどうでも良い。
そこにいてくれるんだったら、どんな顔をしててもいい。
存在だけで十分なんだ。
なんというか・・・その・・・うん(何)。
消化不良かも・・・031130
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