L e s s o n 1   知 ら な い 人


笠井と知らない人が仲良さそうにしていた。
それはなんかショックで、なんかって言ったって俺は理由を分かってるけど。分かってるけど分かってない。
分かってる部分は、笠井の友達は全部俺の友達だと思っていたからで(だって俺の方が友達が多い、端から端のクラスにまで)、分からない部分、何でそんな事がショックなのか。
だって別に俺は学年全体とか学校全体とか皆を知ってるわけじゃないんだから知らない奴はいっぱいいるし(知らない奴の方がこともわかってる、俺が知らない奴でも俺を知ってることとか)、その中に笠井の友達がいないことの方が不自然だ。
だけどあんなに仲良さそうにしているのに、俺が知らないなんてことあるんだろうか。
それがショックでどうしようもなくて、俺はふたりを見ながら昼飯を抱えたまま立ち止まってしまった。

場所は昼の中庭炎天下の日差しの海。
笠井が場所の確保俺が買い出し担当で、じゃんけんでの決定結果。
外は暑いけど中庭の日陰は大分涼しい。そりゃ冷房の効いた室内だったらもっと涼しいけど、がっぽりもうけているうちの学校はそこそこケチなので冷房はまだ入らない(俺が払ってるわけじゃないからいいけど)。
笠井が素早く確保したのは石があって座るところも安定してて(笠井はいつも場所取りが上手い)、かつ丁度ふたりほど無理もせず入れるけど3人は頑張っても入れないという感じ、だから、俺が知らない奴が座っているそこへ俺が入るはずだけど。
俺が知らないそいつは手に昼飯らしきものを持っている。え、何、3人で食うの、もしかして俺影の外?
あんまり大したことないくだらないことだと自分でも気付きながらも、何でかそのまま俺の自慢の脚は地面に縫い取られてしまった。汗がこめかみの辺りをじわりと濡らして、首に巻いたタオルでそれを拭ったらその動作で気付いた笠井がこっちを見た。

「藤代」

あ、そうだ、笠井と言うのは俺のルームメイトで、同じ部活でって言うかまぁサッカー部寮だから部活は同じはずだけど。
FW志望だったらしいんだけどDFって断定されて、不満もなかったわけでもないみたいだけどそのままDFを頑張ってる(言わないけどそっちの方が楽しかったらしい)。
ぱっと見可愛らしい感じだけど実はすっげー怖い奴で、まるで俺を自分が生んだ子どもみたいにしかりつけてくる。
入ったばっかりの日から怒られなかった日の方が少ない。荷物を整理しろだのはみ出してくるなだの飯の食い方が汚いだのなんだかんだ。

「藤代?」
「誰?」

ぱっと口を吐いて出た。
それからあいつの存在なんか無視してやればよかったと思ったけど、ぐっと堪えてサッカー部エース(候補、殆ど決定の)の貫禄をどうにか出そうとした。

「あ、こいつが藤代?」
「そう」
「へぇ、やっぱ背ェ高いなー」

あ、シカト。超シカト。
笠井が一瞬ちらと俺を見たけど、また隣と話し始める。俺の話題なのに俺はは入れない。俺が誰だか分からなくなりそうだ。笠井はもしかして知らない人の話をしているんじゃないだろうか。

「藤代、座れば?」
「どこに」
「その辺」
「…」
「あ、ごめん。俺行くわ。じゃあタク、また」
「あ、ごめん何か追い払ったみたいで」
「別に。つかお前らふたりで食うの?」
「うん」
「ふーん?変なの、タクはともかく」
「どういう意味それ」
「さぁ。あんまりフェンス寄りで食わねぇ方がいいかも、女子ってホモ好きなんだって」
「は?何それ」
「俺も詳しくはしらねぇけど。じゃーな」
「うん、また」

知らない奴が立ち上がって、俺と反対の方に歩き出した。笠井は後姿に手を振って、それからふっと俺を振り返る。
気が弱いとビビリそうな眼光で(でも多分眩しいだけだ、俺の背中の方が太陽だったから)、真っ直ぐ俺を見て。

「座れば?」
「…うん」
「あ、人肌だけど」
「まじかよ」

石を撫でた笠井が笑う。とりあえず隣に座って、昼飯を渡して笠井は早速袋を開けて食べ始めた。
俺が戦場の如きの売店で適当に買ってきたパンだけど、おいしそうとも思えなかったけど不味そうではない。

「…タク!」
「へッ?」

パンの欠片がぽろりと落ちた。
ゆっとくけど笠井だって飯を食うのは上手くない。箸使いは上手いはずなのに、油断した隙に何かをぽろりとやる。笠井はそ知らぬふりをして食べてしまうから目立たないだけで、俺はずっと見てるから知ってる。

「タク」
「…何、」
「タクって呼ばれてた!」
「呼ばれてたよ」
「俺も呼んでいい?」
「…いいけど…いいけどさ、」
「何?あ、俺もじゃあ誠二でいいや」
「人の話を聞けよ」
「あ、ごめん」
「……」
「…何?」
「人の話し聞いてなかったの?」
「え。だから聞くよ」
「そうじゃなくて、俺、初日にあだ名聞かれたからタクって言った」
「………言ってた?
「言った。タクはタクミのタクでオタクのタクじゃないからオタクって呼んだら仲良くしないって言った」
「……ごめん、聞いてなかったかも」
「かもじゃねーよ聞いてなかったんだろ!まぁもう過ぎたことだからいいけどさ」
「…」

なんだか俺はそこでがっくりへこんでしまった。
気合入れてたまごっち買いに行ったのに売り切れだったときの気分だ。入荷日だったのに。だから親父に朝一で行けって頼んでたのに。

「…おーい、大丈夫?目が死んでる」
「あ、だいじょーぶ」
「ふーん、変な奴」
「…」
「誠二パンのチョイスも変だよね、何これ。食べといてなんだけどなんかこれ微妙じゃない?」
「あーうん、なんか微妙だよね」
「何それ、普通おいしそーなのとか買ってこない?」
「別にタクの分だからいいかと思って」
「テメ…」
「文句あるなら自分で行けよー」
「お前に場所取りさせたくない」
「あー、俺もしたくないな」
「何だよそれ」
「……」

あ、さっき、誠二って呼ばれたかも。
なんかよく分かんなかったけど、まぁこれから何度も呼んでもらえるんじゃないかなとふと思って、なんとなくいい気分になった。

気を取り直してパンを袋を勢いよく開けたらぽろんと地面に落っこちてしまって、ちらりとタクを見たら目が合った瞬間に笑い出した。
あぁ、まぁいいか。今は俺だけに笑ってるしね。

 

 


何故か書いてしまった笠藤。あ、何と言おうと笠藤だから。1年の頃と思って下さい。

050620

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