ユ ー ・ ア ー ・ キ ッ チ ュ


「まいった」
「バーカ」
「・・・・・・」
「あっふざけんなバカ」

キトが懐中時計に刀を向けて、淡い光が焦ってその周りを飛び回る。

「だってバカだろう、あんた何百年この仕事やってるんだ」
「どうせまだ新米ですよ」
「バッカ、15年続けてて何が新米だ」
「14年」
「細かい数字はどうでも良い」

光にアッパーを食らいキトは闇の中でよろける。
そこは上も下も北も南もない空間。ボックスと呼ばれる人為的異次元だ。
光の球に目を凝らせばそれは人の形をしている。
妖精とかそう言った類が一番種類が近いが、分かり易いので人型をしているだけだ。 本体は、懐中時計。

「ホントに刺しますよこれ」
「刺せばぁ?アタシの代わりなんてゴロゴロいんだよ、大量生産だから同じ性格だからな。
 ついでに備品壊して減給ってことになるけど」
「う・・・」

キトは諦めてその場にあぐらをかいた。
その場と言ってもさっきと同じ場所ではなくて、空間は常に動いているのでこっちが動いていなくても知らないうちに場所は変わっている。
とは言え、一貫して闇なのだから変わりはない。

「て言うか、だってアレ三ツ星ですよ、何で俺の担当なんですか」
「近かったから」
「・・・・・・」

簡潔な答えにキトは悲しくなって、落ち着くためにポケットから布を出して刀を拭う。
刀には鞘がなく、刀の形をしてはいるが実際は豆腐だって切ることができない。退魔用の刀なので、切れるのは魔の物だけだ。

「俺二ツ星が限界だって言ってるじゃないですか」
「甘い、お前の同僚はとっとと昇進してるんだぞ?サキはこの間四ツ星をやったしな」
「サキは英才教育受けてるでしょう。俺はぽっと出の一般人。しかもギリギリ採用」
「ッカー!暗い、暗いぞお前は!」
「ほっといて下さいよ」

唯一の光源が辺りで飛び回るので視界がちらつく。
そうかと思えば一瞬光が消えて、ぐっと明かりを落とした球になる。一瞬消えるのは微調整のためだ。
キトは刀を握り直して立ち上がった。

「キッチュ三ツ星、さっきの奴だな。大丈夫だ気付かれてない」
「〜〜・・・俺は地味に平社員でいいです、昇進なんて望んでません」
「バカを言うな、お前だってそのうち結婚もすればセックスもして子どもも出来るんだぞ。そのまんまの給料でマイホームが建つと思うか」
「結婚してから考えます」
「今は取り敢えず三ツ星だ」
「ハァ・・・」

置いてあった懐中時計を回収し、光に渡す。
二階から目薬、
ぼやくキトの側頭部にもう一度光の球が体当たりをして気合いを入れた。

「開けるぞー」
「はーい・・・」

光の主は腕を時計の針のように回す。
そこが丸く切れて光が差し込んだ。

「さっきの奴居るか?」

丸く開いた穴からキトが外を覗き込む。
真下は賑わう人混みで、キトはしばらく辺りに目を凝らした。

「・・・いた」
「ん。開けろ」

刀を片手でしっかり握りしめ、キトは穴の縁に立ってこじ開ける。
それを合図に光は懐中時計を叩いた。それまで規則正しく動いていた針が止まる。
狙いを定めてキトは穴に腕を差し込んだ。外の世界は凍りついたように動かない。
腕を1本つかみキトはそれを引っ張り上げた。何てことはない、姿だけは普通の人間。足の先まで闇の中まで引きずり込んだのを合図に穴は閉じる。
又一瞬光が消えて、球が元の明るさを取り戻した。それと同時に時計が動きを取り戻す。

「おしっ捕獲完了!やれば出来るだろー!」
「ここまではな。時計」

腕を掴んだままキトは光から懐中時計の鎖を受け取る。
その鎖で男の腕を後ろで縛り、光は時計に何か囁く。途端に時計は重量を増し、どっしりと闇に落ちて見えなくなった。

「ッ・・・た・・・」

キトはようやく腕を放し刀を構え直す。
キッチュ、人間ではない。
それだけだが人の形をしているのでキトは三ツ星を相手にしたくない。
一ツ星二ツ星までは人に寄生しているだけだからいいが、三ツ星以上は人の形を作っている。

「いったぁ・・・あ、さっき俺逃がした奴じゃん」
「さっきはね」

溜息を吐いてキトは刀を突きつける。
キッチュは闇の中にあぐらをかいてキトを見上げた。

「キト、このボックスで本部に移動させるから気を付けろよ」
「本部まで?遠い・・・」
「ねーお兄さんちょっといい男じゃーん、捕まえるのはいいけどちょっと遊ぼう」
「遠慮する」
「・・・あ、キトごめーん」

明後日の方向に向かって本部に報告していた光がキトの肩に降りた。
物凄く、嫌な予感がする。

「五ツ星でした」
「なっ・・・赤星!?無理ッ本部まで保たない!」
「いやよく考えろ、ここで五ツ星捕まえて帰ったら一気に昇進」
「だから昇進なんかしたくないって!付近に手の空いてるの居ないのか?」
「あーサルがサキ連れ込んでるけど」
「ふたりとも呼べよっ、取り込み中でも中断させて!」
「アタシサル嫌いなんだよな〜」
「・・・・・・」
「ダイジョーブダイジョーブ。頑張って」
「無茶!」

けらけら笑ってキトから離れていく光を睨み、泣きたいのをこらえてキトは刀を握りしめる。
キッチュ五ツ星・・・危険レベルは最高値。こんなちゃちな退魔用の刀など気休めのお守りにもならない。
だから嫌だったんだ、ぼやくキトを見てキッチュは笑う。

「退治屋って、俺初めて見る」
「・・・・・・」

それもそうだ。
そこまでレベルが高くなれば自分の気配を消すことが出来、大量生産型の懐中時計が察知できるわけがない。
光とコンビを組む平社員の仕事はザコの回収だ。
まさか・・・
にこり、と人間の顔でそいつは笑った。

「わざと?」
「ピンポーン。思ったより手際いいんだね」
「・・・・・・」
「結構頭良いんじゃない?」
「・・・そんなに。でも、お前が出ようと思ったらここを出られるってことは分かる」
「ふふん」

キトは舌打ちをして闇に刀を突き立てた。
刺さるところまで刺して、懐中時計の鎖を引き寄せて巻き付ける。
冷や汗・・・だ。背筋を伝う嫌な汗。

「キト」
「いいから出来るだけ早く本部に向かって、好き嫌いも言わずに人手を頼む」
「はいはい」

真面目なキトは怖いからね、と光は笑って宙に四角を書いた。
ぽっかりとそこが切れ、小さく光が差し込む。

「あのさぁ、」
「・・・何だ」
「仕事中に死ぬのって名誉だと思う?」

ふざけた口調。
知ってる?知られている?
キッチュは笑う。

「あんた、お姉さんに似てるって言われない?」
「!」
「制服の似合う、特効隊長」
「キト!」
「分かってる!」

光に名前を呼ばれキトは首を振った。
分かってる。 分かってる。

「・・・あんたが、」
「はは、どうだろうね。まぁ、俺が殺したってことになるんじゃない?」
「・・・・・・」

五ツ星のキッチュに対する特別班。
殉職。

「はは、凄い出逢いだね。運命みたい」

にこりと笑った。
その顔が酷く姉に似ていたのは気のせい。気のせい。

 

 


書きっぱなしで放置してたよ。
初めパラレルだったんですが誰が誰とか考えないであげて下さい。

20040217

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送