… 惚 れ た 弱 み と 言 う や つ で


「明日暇ー?」
「あー…バイト入るかも。空いてるって言ったし」
「うー…バイトばっか」
「冬は熱代かかるんだ…」
「…」

あからさまに不機嫌にしてやると困った顔をする。それは中学の頃から何も変わらない。ついでに熱代、灯油代等の大体は寒がりの自分の消費であるとわかっているので何も言えなかった。

「…何かあるのか」
「…根岸が、久しぶりにこっち来るんだって。何人か声かけたけどみんな時間合わなくて」
「あぁ…なら時間作る」
「…そっか、ありがとー。折角だしみんなで会えたらよかったんだけどね」
「難しいな」
「みんな社会出ちゃうとね」
「…嫌味か?」
「辰巳は始めっから6年の予定でしょ、笠井5年生よ」
「まぁあれは留学しててだけどな」
「それだけじゃなかったらしいけどね」
「……」
「語学がどーのと嘆いてた」
「…笠井…」

辰巳は苦笑して本を閉じた。もう中西には手の届かない専門書。「教科書」なのだそうだ。

「飯食うか」
「あ、食べてきマシタ」
「あぁ、言ってたな…じゃあ何か」
「作ってあげよーかッ!?」
「結構です」
「ぶー。笠井ほど酷くないでしょー」
「お前のあと片付けるの大変なんだ」
「ふん。────どっか飲みに行く?3分の2ぐらいなら出すよ」
「…」
「焼き鳥とか行きたいなー」
「…行くか。ちゃんと払う」
「えー、いいよ。社会人だしね」
「あのな」
「じゃ割り勘」
「どっちにしろお前の損だろう」
「いいの」
「…」

こうなると結局折れるのは辰巳に決まっていて、そういうことになってふたりで飲みに出た。

(────辰巳緩くなってきてるなァ…このまま飼えそう)

鳥ならあっち、辰巳に黙ってついていく。中西のうちに来ることの方が多いので、中西はこの付近をよく知らない。
医大に通う辰巳は今年卒業する。試験だ何だとじきにまた会えなくなるだろう。なんだかんだで学生の頃のようにはいかない。

「…辰巳…」
「ん?」
「やっぱりナースが…」
「…お前…」
「なんなら…」
「着るな!」
「流石に冗談よッこの年になって!」
「お前ならわからん」
「……」

店に入るといらっしゃい、の後に久しぶり、なんて声が飛んだ。馴染みらしい。中西が来るのは2度目だろうか。何となく不満を覚える。

(…こんな辰巳が好きだったわけじゃないんだけど、)

注文せずともジョッキがふたり分運ばれてきた。これはあれのおごり、辰巳が店長らしい年輩の男を指差す。

(────飼えって言われたら飼える…)
「中西?」
「あー、お任せ。レバー以外」

突き出されたメニューを返す。辰巳がそのままお任せと店員に告げた。

「根岸いつ頃つくんだ?」
「午前中は用事があるからそれすんでから。一時には終わる予定らしいんだけどはっきりわかんないって」
「ふうん。夜なら他にも集まれるんじゃないか?」
「週末の夜呼び出すのも野暮じゃない?」
「気にする奴等じゃないだろ」
「って言ったんだけど、ネギが気にしてんのよね」
「あー…気にしないで呼べよ。三上なんか夜は暇だろ」
「そうねー、あっこは週末とか関係ないし」
「まぁな…」
「ところで辰巳、わんって鳴いて」
「…は?」
「わんって鳴いてしっぽ振るなら俺が養ったげるよ」
「…馬鹿言うな。いきなりどうした?」
「あらぁ告白したのよ?」
「どこがだ」
「愛を伝えるのって難しいわ…」
「…」

不機嫌な顔。何度この顔に好きだと告げたことか。

「…ウー…まぁいいか、辰巳が無事就職してから今度は俺が養ってもらえばいいんだもんね」
「…だから払うって」
「駄目」
「…」
「出世払いで返してよ」
「…ハイ」

口を閉じた辰巳に満足して、机に置かれた鳥に手を伸ばす。以前来たときは確か笠井が一緒で、鳥皮で遊ぶ三上が生き生きしていたことを思い出した。

「────中西」
「何?」
「そんなに俺は信用出来ないか?」
「…あー、そうじゃなくて。俺辰巳を甘やかしたくてしょうがないの」
「甘…」
「辰巳が浮気してもちょっとぐらいなら多めに見ちゃうぐらいメロメロだから、浮気さえしなかったらいいんだけどね」
「…」
「出来れば真っ直ぐ俺のとこ帰ってきて欲しいと思うけど言わない」
「言った」
「聞かなかったことにして」
「…」
「…ほんとは一緒に住みたいなんて本気で思ってないよ」
「…中西」
「今だって人の目気にしてんのにさ」
「…してたのか」
「もう!」
「いいよ 幾らでも通ってやる」
「……焼き鳥変な薬とか入ってない?」
「あのな…」

一瞬見せた照れた表情。嬉しくなって顔が緩む。

「今日泊まっていい?」
「…好きにしろ」
「起こしてね」
「やだ」
「やだって言うな」

 

 


めろめろなんだよ。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送