不 滅 の ラ イ バ ル


「あ、お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」

休憩室に入ってかけられた声。反射的に返してから辰巳は目を疑った。制服姿の女子高生がひとり、新しいバイトがくるとは聞いていたが、まさかこの子だろうか。辰巳のバイト先の本屋は高校生不可だったと思うのだが。

「…新しいバイトの人?」
「あ、はい!中西です」
「…中西さん」
「? はい。中西香織です」
「…」
「あ、高2です!ここの店長の姪なんです」
「あぁ、それで」
「はい、それでコネ入社。あれ?入社じゃないか」
「はは、いつから?」
「明日の夕方から入るんで、よろしくお願いします」
「よろしく。…バイトでは俺が一番古株だから、何かあったら」
「そうなんですか?」
「みんなやめてくんだよ」
「…」
「…結構きついよ」
「う、嘘ん…」

 

 

 

「女子高生!」
「恥ずかしい叫び禁止!」

飲み会の席だがまだ始めたばかりでみんな素面だ。興奮して立ち上がった近藤を、中西が引っ張って座らせる。

「女子高生って…女子高生と接触出来るのお前ぐらいじゃねぇの?」
「俺職場高校だし」
「三上は別だろ」
「俺も声かけてくれんの女子高生多いっスよ」
「藤代もなァ」
「お、俺カテキョしてますけど…ピアノ…」
「…笠井…」
「俺は女子高生じゃないけどナースなら」
「中西くん合コン組んで下さい」
「めんどいから嫌」
「何!?俺だけ!?」
「いいじゃん、バスガイドはどうしたの?」
「女子高生聞いたら女子高生見たくなってきた」
「変態かよお前…」
「修学旅行とかあるんじゃないの?」
「修学旅行における旅行会社の人間は?」
「あ、どうでもいいや」
「くっ…」
「こ、近藤先輩落ち着いて!あっ、エセ女子高生なら紹介出来ます!」
「まじで!?エセって何!?」
「2万ぐらいかかるけど」
「風俗…」

俺はどういう経緯で笠井が風俗嬢とお知り合いになったのかを知りたい。三上が呟き、女子高生の話題は宙へ浮いた。…だけど勿論、失念するはずのない人がひとり。

 

 

 

「お疲れ様です」
「あっ、お疲れ様です〜!」

休憩中だったらしい香織は雑誌から顔をあげた。辰巳とわかって顔を緩める。

「よかった。辰巳さんいると安心します」
「え?」
「…あの…ちょっと相談いいですか」
「いいよ」

時計を見てまだ余裕があることを確認し、辰巳はエプロンを着ける手を止めて側に座る。確かに誰もいないのを確認し、香織は声を潜める。

「あの、あたしの気のせいかもしれないんですけど」
「うん、いいよ。何?」
「…久保さんて、いつもあんな、人の近くに立つんですか?」
「久保?」
「なんか、レジとか一緒に入るとくっつくぐらい近くに立たれるんですけど…」
「…そうだ。あいつのこと言うの忘れてたな…極力逃げてくれ、俺呼んでもいい」
「…やっぱそうなんですか?え〜…怖い…」
「いや、可愛いってことなんだけどな。少しずつ逃げていったらそのうち気付くから。手を出したことはないし、無意識らしいんだあれ」
「え〜っ!どうにかなりません?あたし落ち着かなくて…」
「…俺のシフト」
「あ、」
「店長に言って合わせてもらって。俺が嫌なら正木さんと…」
「い、嫌なんて!…いいんですか?」
「俺の方こそ、それでいいなら」
「…いえ、嬉しいです…」
(…確かに女子高生は可愛い…)

さぁ時間だ。辰巳は立ち上がって支度をする。

 

 

「香織ちゃん、レジお願い」
「はいっ」

初めは高校生がと思ったが、身が軽いせいかなかなかよく働く。駅前の本屋であるためラッシュ時は店内は人でいっぱいだが、並ぶレジにも慣れてきたようだ。新刊を並べてレジへ手伝いにいく。

「お待ちのお客様こちらへどうぞ」

3つのレジで客をさばき、レジに並ぶ人もなくなった。雑誌の立ち読みをしている人や電車が来るまでの時間潰しの人はみえるがレジまでくるのはあまりない。

「慣れた?」
「はい。カバーつけなんか任せて下さい!…って辰巳さんに言えることじゃないか〜…」
「はは、俺のは年季入ってるから。香織ちゃんと比べても」
「すいませーん」
「はいいらっしゃいませ!」
「黒魔術の本ってありますか?」

営業用笑顔で対応した辰巳に向かうのは、やはりにっこり笑顔のお客様。嫌になるほどによく知った相手で。

「………中西……」
「呪殺とかでもいいんですけどv」
「……申し訳ありません当店ではそのような種類の本は扱っておりませんので」
「あらそ。んじゃちょっと面ァ貸せや」
「…頼むから出てくんな…」
「ドキドキ浮気チェ〜ック」
「してない!」

 

 

香織ちゃんだっけー?うん可愛いねーすっげー可愛い、まじかわいー。いんじゃない?派手じゃないけどセンスいいしね、連れて歩くもよしだよ。はいはいどうせ俺は可愛くも優しくもありませんーミニスカもいい年なので流石にはけませんー。

「だから!」
「だから?」
「………」

溜息を吐いた辰巳が中西の頭を撫でる。上がりまで待たせたので不機嫌さは増していた。店に入る余裕もなくて本屋の入ったビルの裏。睨んでくるので抱き寄せた。

「…あーあ、俺は心休まらないよ。学校では未来の女医に将来はナース、バイト先では女子高生なんてさ」
「…ほんとに信用ないな俺は」
「そういうわけじゃないけどさー」
「今更お前以外を考えるかよ」
「……プロポーズ…?」
「他に乗り換えようにも今日みたいになるだろう」
「むかつく!なにさ香織ちゃんなんて呼んじゃってさー」
「あ…いや、あれは。さん付けもおかしいだろ」
「じゃなくてなんで名前なの」
「あ〜…あの子の名字が、中西で」
「…」
「呼びにくいだろ」
「う…うーん…なら許す…」

妥協した中西が辰巳を抱きしめる。できれば早く帰りたかったが、辰巳は黙って頭を撫でた。

「…でも女子高生には勝てない気がする…香織ちゃんむっちゃラブ光線発してる…」
「…なんだそれは。いいから帰るぞ」
「…辰巳んちでいい?」
「いいから」
「女子高生に勝てるのってあれぐらいな気がするー」
「……」

俺は何をされるんだろう。辰巳はわずかに後悔を覚えた。

 

 


ちょっと続けたいとか思ってるけど不明。夢仕様にしてもよかったんだけどめんどい

 

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