見 つ め る キ ャ ッ ツ ア イ


猫の鳴き声に振り返る。
…まいったな。辰巳は諦めて足を止め、傍の窓を開けてやった。さっきからずっとついて歩いてくるのは外へ行きたかったのだろうと思ったのだが、猫は一度窓の桟へは飛び上がったが外へ出る様子はない。

「どうしたいんだお前は」

窓枠の猫に手を伸ばして顎の下を指でかく。ごろごろと擦り寄ってくるのでされるに任せ、離れる様子もないので、カイロ代わりに抱いたまま部屋へ向かう。途中に三上の部屋へ寄ればいいだろう。
いつの間にか松葉寮に住み着いているこの猫は、三上が飼っていると言うことにはなっているが基本的にほったらかしだ。以前はよく外で見かけたが、最近は近所の野良猫に怯えて余り外へ出ないらしい。意外と臆病なのは三上にそっくりだ、と根岸が言ったのは、まだ三上の耳へは届いていないようだ。
温かい毛並みに指をうずめて指先を暖める。猫は特に嫌がりもせず、辰巳の肩にあごを預けて落ち着いてしまった。すぷー、なんて溜息のような鼻息が一度聞こえる。まるで人間のようで少し笑った。

「三上」

三上と渋沢の相部屋をノックする。考えてみると猫がこの部屋で見ることが少ないのは渋沢が居るからだろう。渋沢のことが怖いらしい。しかし辰巳や中西は平気なのだから、大きさではないのだろう。因みに間宮は意外と仲がいい。

「三上?」

もう一度繰り返して少し待つと、ようやくドアがうっすら開いた。猫が体を捻ってそっちを向く。
しかし三上の様子を見て辰巳は状況を悟った。少なくとも自分は今邪魔をして、そして猫をこの部屋に入れることは出来ない。

「お前タイミング悪い」
「昼間っから盛るな」
「中西に言われたくねぇ」

俺は中西じゃない。よっぽど言ってやろうと思ったが、すぐに反論されることも見越して辰巳は諦める。悪かったと一声かけて、俺の部屋に連れていく、と言っておいた。今こんな状況であると言うことは、少なくとも夜には迎えに来るだろう。

「ふられたな」

三上を最後まで見ていた猫を撫でて、鼻先を寄せて歩き出す。ごろごろと喉を鳴らす猫を抱き直して辰巳は改めて部屋へ向かった。

「おっかえりー」
「……」
「あ、猫だ猫」

もう慣れた。慣れた。辰巳は自分に言い聞かす。
もう何度、と数えることも出来ないほどしょっちゅうのことなのだから、いい加減慣れればいいのにと自分に呆れる。自分の不在の間に部屋に侵入し、大抵ベッドで寛ぐ中西に、何故か毎回動揺する。

「何しに来たんだ」
「暇なので辰巳の観察でも」
「…そうか」

もしかしてペット扱いなんだろうか。それでもいいかと思ってることは死んでも伝えることはないだろうが。
猫ちょうだい、と手を伸ばしてくるので、中西の傍で猫をおろそうとする。しかし何を思ってか、服に爪を立てられて抵抗された。誰かみたいだと思いながら爪を外して猫を下ろす。中西がそれを抱いて、辰巳は勉強机の椅子に座った。読みかけの本があと数ページのはずだ。

「あ」
「あ?」

中西の声に咄嗟に体ごと振り返る。そのタイミングで猫が膝に飛び上がった。辰巳が驚いている間に、何事もなかったように膝の上で落ち着くポジションを探してまるくなる。

「お…」
「……ちょっとジェラシー」
「感じるな」

一度落ち着いたものの、どうも具合が悪いのか、猫は立ち上がってぐるぐると膝の上を歩いてはまるくなり、また立ち上がる。
そのうち体を伸ばして辰巳の肩に手をかけた。どうした、とその体に手を回して抱いてやると、今度こそ本当にそこへ落ち着いてしまった。中西にまで聞こえるほど大きくごろごろと鳴らして猫は目を閉じ、完全に寝る体勢へ入った。

「……俺だって辰巳にそんな風に抱っこされたことないー」
「誰がするか」

 

 


野良猫に怯えて外に出なくなったのはうちのミルにゃん。
タイトルつけたけどよく考えたら寝てばっかで見つめてない。

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