甘 い 言 葉 ?


「…ごめん」
「…」

その言葉の真意は読めない。その偶然への謝罪なのか、それとも故意であったから謝るのか。
笠井が呆然としている間に、辰巳は何事もなかったように立ち上がった。固まったままの笠井を置いて、一足先に歩き出す。

「…え?」

今のはなんだ?
辰巳に声をかけ、彼が顔を上げた瞬間唇が触れた。それからさっきの謝罪の一言。行ってしまった辰巳を目で追って、笠井はただ呆然とするしかなかった。

(…キスした?)

 

 

そもそも笠井はそんなに悩むようには出来ていないので、すぐに気にならなくなった。故意である理由がわからないから偶然だろう、とその程度。確かにキスをしたと言えば事実だが、あれをキスともしにくい。そんなわけで笠井は辰巳の部屋をノックする。

「たっつみー辞書っ!電子辞書貸してっ」
「…笠井…」
「あっごめん使ってる?ならいいけど」
「いや…」
「?」
「…電子辞書な」
「うん。俺も買ってもらおうかな〜」
「結構値張るぞ」
「勉強のためって言えばいける!」
「ははっ」

笑いを漏らして、辰巳は見つけた辞書を持ってくる。その表情に、やっぱり偶然だったなと判断した笠井は甘い。辞書を受け取ろうとした手を引かれ、部屋に引き込まれた。笠井が状況を読めないうちに、辰巳は足でドアを閉める。

「…辰巳?」
「わかってないのか」
「え?」
「……〜〜〜」

笠井の手を掴んだまま辰巳は悩む。背中を丸めた辰巳の姿は珍しい。そのうち辰巳は手に気付き、笠井の顔と見比べた。笠井はきょとんとしている。

「…昼間の」
「え?あ、うん」
「何も思わなかったのか」
「何で?」
「…」

辰巳が再び悩んだ。笠井の方も頭をひねる。

「何?」
「…」
「わっ…」

一瞬ためらった辰巳にドアに押しつけられた。笠井が反応するより早く、辰巳が顔を寄せて唇を合わせる。笠井の体が反射的に返した拒絶も殺して、唇を割って歯列に舌を這わせた。笠井の喉の奥で悲鳴が上がる。

「あっ…」

辰巳が離れると笠井はドアに沿ってずるずると崩れていく。何で?笠井が小さく呟き、辰巳がゆっくりかがむ。

「笠井…」
「辰巳〜」

ガンッ!
背中のドアが笠井の背中を押す。笠井が滑るより早く、辰巳の頭にノブがぶつかった。数歩よろけた辰巳はしゃがみ込んで患部を押さえる。笠井が避けたのでドアが開き、中西が顔を覗かせる。

「何してんのお前…」

部屋を見回した中西は笠井を見つけ、あら、と口に手を添えた。

「ごめんね〜、お邪魔しました」
「??」

中西は辰巳に謝って、こそこそと顔を引っ込めてドアを閉じた。どれほど痛かったのか、辰巳はまだ悶えている。後で考えるとその時が逃げるチャンスだったのだが、笠井は何を思ったか、辰巳の傍へ寄って頭を撫でた。

「…笠井」
「あの〜…説明が、欲しいな」
「…好きだ」
「…」
「ずっと」
「え…あの」
「悪い…ほんとは、言うつもりもなかったのに」
「…あ…あれ?それは、俺と付き合いたいとか、そうゆう…」
「…そう言うつもりは、ない。ほんとに言う気はなかったし。…気持ち悪いだろ」
「…俺なんかの、どこがいいの」
「────一生懸命だから」
「…嫌味かな?」
「違うよ」

辰巳は一軍で活躍していて、笠井はまだ二軍だ。同じ部活ではあるが活動を一緒にする機会はない。しかし同じクラスであるからそこそこに仲がいいと言えるだろう。だけどそんな感情には気付かなかった。どうしても藤代のおまけのようになってしまう笠井と違い、辰巳はそれなりに人気があるのも知っている。

「…頑張ってるやつなんか他にいっぱいいるじゃん」
「…そうかもな。でも笠井は、目を引くんだ」
「…」
「忘れていいから」
「…うん」

他に気の利いたことは何も言えなかった。

 

 

「タク〜彼女出来たって?」
「あ?あぁ、」

藤代の情報源は何処なのか。自分でめさっき知ったような情報を、あっと言う間に入手している。

「うん、何故かね」
「は?」
「いや…なんか無意識に返事したっぽくて…」
「うわっサイテー!」
「どうしようかな〜もう噂流れてんならいっか…」
「投げやりだなぁ」
「なんだかね〜」

まさか男に告白されたとは言えない。告白どころか色々されて、おまけにその相手が頼りにしているチームメイトだ。

「…まぁね、女の子は可愛いからいる方がいいよ」
「なんか達観してんなァ」
「俺も大人になる頃だからね」
「えっやったの!?」
「してない!」
「あ〜焦った…」
「俺のセリフだよ…」

面倒なことにならないかが心配だ。辰巳への当てつけのように見えないだろうか。

(…まぁ辰巳だし、大丈夫か…)

さしあたって問題なのは、「デートのお誘いのメール」の返事だ。指定された日は部活がある。
いつの間にメアド交換したっけ?考えながらその旨を返す。ほんとにメールを読んだのかと言う早さで返事が返ってきた。じゃあ空いてる日教えて、だって。部活のスケジュールをファックスで送ってやろうか。空いてる日って何?白けた気持ちで唯一の休みの日を送る。まどろっこしくなったのか、次の着信は電話だった。一瞬ちゅうちょしてから出る。

『あ、笠井くんー?ねーちょっと、ふざけないでよー』
「エ、イヤふざけてませんよ。サッカー部そんなもんだよ、だから言ったじゃん、遊ぶ時間なんかないって」
『えー、嘘ー。あたしその日無理ー』
「ふーん。どうする?」
『1日ぐらいサボれたりしないの?』
「……」

サッカーしてる姿が好き、って言ったの誰だっけ?電話を切りたい衝動に駆られた。男ならわかってくれるのに。
────あれ?俺今何考えた?女の子の声は耳を抜けていく。

『聞いてる!?』
「ごめん聞いてない」
『ちょっとォ!』
「…あのさァ…俺、デートとか、無理だよ。時間ないもん」
『えーっ、付き合う意味ないじゃん』
「…付き合うって何」
『…どういう意味』
「俺をブランド物みたいに見せびらかして歩くこと?」
『……』
(あ、しまった)

電話でよかったと心底思った。そうでなけりゃ殴られるぐらいしただろう。無言の電話越しに怒りが伝わってきた。藤代から非難の視線を受け、笠井は弁解するのも面倒で向こうからの審判を待つ。

 

 

「辰巳!」
「!?」

いきなり部屋に押しかけると辰巳は目を見開いてこっちを見た。構わず部屋に入って鍵をしめる。

「か…笠井?」
「彼女が出来たけどついさっきふられた」
「……」
「俺は今傷心でチャンスなので付け入って下さい」
「…それはどういう意味で?」
「優しくされたら好きになるよ」
「…そういう奴だよお前は」

 

 


何書きたいのかわかんなくなったねで終わり。多分このあと笠井には不測の事態(辰巳の暴走)が起きます。

 

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