召 し ま せ イ レ ブ ン


「……クソババァ」

と呟いたかどうかは知らないが、その段ボールを睨んで辰巳がそれに近いことを思ったのは確かだろう。とは近藤の証言。試合の時より険しかったと言う。
そんなわけで、少なくとも喜ばしくはなかったその贈り物は談話室のテーブルにドンッと置かれ、テレビを見る者の妨害をしているが、辰巳は寮内で慕われている数少ない人間のひとりなので、誰も何も言わず段ボールの中身の消費に協力している。

「いやー、でも辰巳のお母様可愛いね」
「何処が。何処の常識ある主婦が中学生の息子にみかんを一箱送るんだ」

辰巳はもう飽きたので溜息はつかない。代わりにもう何個目かのみかんを剥く。

「主婦じゃないじゃん」
「少なくとも社会人だ!」
「いいじゃないのー、風邪ひかないようにって暖かい心遣いじゃない」
「ひいたことない」
「……」
「でもこのみかんうまいっスよ。甘くて」

あんなにももりもりと食べてくれるのは藤代だけだ。無言でその頭を撫でていると中西が露骨に睨んでくる。そっちにみかんを投げるとすぐに投げ返された。

「先輩みかん嫌いなんスか?」
「爪黄色くなるからやだ」
「…さいで」
「女かお前は」
「剥いてくれたら食べるよ」
「誰が!」

近藤が通りがかりの大森にも押し付ける。少し嫌な顔をしたが、立ったまま皮を剥き始めた。

「馬鹿ですかあんた!」
「「「……」」」

部屋に飛び込んできた笠井の声。顔を見合わせたが、どうせ三上だろうと昨日の部活の話を始める。そのうち笠井の声が近付いてきた。

「俺手伝いませんからね!」
「…?」

どうも様子がおかしい。談話室を通過しかけた笠井を大森が捕まえる。

「タケミちゃんどったの?」
「……見たらわかるよ!」

廊下を指差す笠井に従い大森が顔を出し、げっと顔をしかめた。

「馬鹿じゃないの先輩」
「うるせぇ!」

重たい三上の足音に嫌な予感がする。談話室の入り口に現れた三上は、まず謝った。

「────ごめん」

その手に抱えられた段ボールには、みかんの文字。

「……多実子さんなら許す」

近藤が呟いて辰巳に睨まれた。辰巳が段ボールを持ち込んだときに一番文句を言ったのは近藤だ。三上の母親の仕業なら許すとは。しかし辰巳はマザコンではないので何も言わない。

「多実子のアホ〜ッ…」
「あーあ」

みかんの段ボールの隣に段ボールが置かれるのを見ながら藤代が冷やかした。頂戴、と言わんばかりに手を差し出してくるのでふたつほど投げる。

「食え!」
「もうみかんは見飽きた」
「うるせぇ」

近藤にも投げて、笠井が消えてるのを見て三上は3つ4つ掴んで談話室を出た。あ、こっちのが甘い。藤代が呟くと辰巳がそっちを見る。それは聞き捨てならない情報だ。
辰巳はすっと立ち上がり、ふたつの段ボールを見比べる。既に寮母さんにも渡してきたのか、三上の段ボールの中身は少し減っていた。辰巳の方も、大勢の協力によりかなり減っている。

「……」

辰巳はおもむろに段ボールを持ち上げ、新しい段ボールに向かってひっくり返した。ごろごろとみかんは引力に従い、段ボールから段ボールへ移っていく。幾つか机に落ちたが辰巳は気にしなかった。

「…せっこ〜〜…」

近藤の視線も無視し、ひと仕事終えた表情で空になった段ボールを畳んでいく。辰巳先輩最高に卑怯!ツボに入ったのか、藤代が爆笑してみかんを手から落とした。

「片付いた!」

誇らしげに箱ではなくなった段ボールを抱え、辰巳は部屋を出ていく。藤代は笑い続けていた。

「あ〜やっべぇ〜…辰巳先輩おもしれぇ〜」
「俺のだからあげないよッ」
「いや〜中西先輩と取り合ってもいいっス」
「三上で我慢して」
「あれはいいっス。俺はタクほど趣味悪くないんで」
「…言うね」
「次はみかん以外がいいなー」
「もういらないよ…」

食べかけのみかんを手にしたまま、大森は段ボール下層の三上のみかんを幾つか手にした。食うの?藤代の質問に大森は嫌な顔をする。

「間宮に」
「間宮とみかんって微妙〜〜」
「間宮じゃねぇよ」
「…あ、ナルホド」
「え、ベッキーその他?なら俺が持ってく〜」

中西がわくわくしてみかんを手にし、大森について部屋を出て行った。

「辰巳くんいる?」
「あー初江さん〜。みかん食べる?」
「もう三上くんに沢山もらったわ。辰巳くんに荷物届いてるんだけど知らない?」
「さぁ」
「そう…玄関にあるから見かけたら言っといてくれる?」
「はーい」

寮母が部屋を出て行き、近藤は相変わらずみかんを食べ続ける藤代を何となく見た。

「…なぁ…またみかんだったらどうする?」
「……」

近藤と藤代は競うように部屋を飛び出した。目標は勿論玄関の荷物。目に写ったそれはみかん箱。

「げっ…」
「開けちゃっていいっスよね〜」

藤代はご機嫌でガムテープを引き剥がした。現れたものは、みっちり詰まった文庫本。

「残念!」
「よかった…!」
「あっお前ら勝手に開けるなよ!」
「あーよかったよかった。またみかんだったら俺はみかんの不法投棄に行くとこだった」
「そんなにみかん三昧が嫌だったか」
「嫌じゃ!」
「じゃあうちの親を説得しろ」
「……」

辰巳が向けてくるのは携帯。つながっているらしい。

「えーと…何で?」
「大量に貰って困ってるんだと。まさか取引先にみかん渡せないだろ」
「…」

辰巳先輩んちっておもしれぇ。藤代が冷静に呟いた。

 

 


よくわからん。タイトル思いついてがっつり食ってるのを書きたかったんだけど、しかもイレブンじゃない。大森君が書けたので満足(あれだけでか)

 

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