「お返し下さいねv」
「受け取らなくていいですか?」
「…俺の愛が受け取れないんですね…」
「お前サイテー」
「うるせー短足」
「…俺殴ってやろうと思ったの初めてだ」
「アラ結構愛されてんですね俺」

俺は何度か夢の中で殴りましたけどね。
世間の浮かれるバレンタインデー、チョコレートにとんでもない言葉を添えられた。

 

*

 

「面白いねお前ら」
「面白くねぇよ!」

クックッと笑いながら中西は笠井からのチョコを見せてもらう。
笠井も最近ほんとに図太くなった。昨日ちょっと、と遠出していたようだから何を買いに行ったのかと思えば、立派も立派、ブランド物のチョコレート。嫌がらせに金をかけられるようになれば中西レベルだ。

「や、でも笠井も可愛いとこあるじゃない」
「どこが」
「これを女性に混ざって買ってきたと思うとちょっと面白くない?」
「それは藤代が買ったとさっき暴露した」
「あははっ!」

笑うしかねぇ〜!
本気で腹を抱えてソファーに沈む中西に三上は必死で拳を握って耐える。中西じゃなきゃ殴るのに…!
その隣で辰巳が申し訳なさそうにしているのがまた腹立たしい。夫婦か。完全に夫婦になるつもりだな。

「…因みに…中西様はそちらの御仁へ何かお渡しになったんで?」
「俺?俺はぁ、あとでメイドでもやろうかなーって」
「やめろ」
「えーっやっぱりナースがいいの?」
「やめろ」
「ははっ嘘嘘ー。面白いよこいつ、もらい物だけど使わないからって図書カードあげたら子どもみたいに喜んじゃって!むちゃくちゃ可愛かったんだよ〜!」
「あぁそう…」

その中学生らしからぬいかつい中学生を可愛いと称せるのはお前ぐらいだ。いや、笠井なんかも言うかもしれない。
どっちにしろ、憎い。
三上は溜息をついて、テーブルに投げ出された箱を手持ち無沙汰に取る。くるくると回してみて、無駄に原材料や内容量を眺め、そして慎重に包装を解いていく。途中でバカらしくなって派手に破いて開けた。
一口サイズのチョコレートが仕切られたトレイに綺麗に納まっている。多少乱暴に扱ったがそれでもこうなら見事な計算だ。
ひょいと中西が手を伸ばしてきたのを反射的に叩き落す。気付いたときには既に遅し、中西はにやぁと口角を上げて嬉しそうに笑った。

「食うんだねぇ」
「いや、今のは」
「そうかぁ、笠井も喜ぶよー?」
「…どうだか」
「だって今年は笠井三上にしかあげてないみたいだし」
「………え、あの、ちょっと待って下さい」
「ん?」
「今年はって、去年は?」
「知らない?俺もらったよー。あと藤代も貰ったって言ってたかな。辰巳もだっけ?あと渋沢とか、色々配ってたよ」
「……」
「三上?」

俺去年は貰ってねぇ。
中西が再び笑い声をあげた。辰巳は流石に言葉もない。

「ほんとに?チョコ以外とかなんも貰ってない?」
「なかった…!」
「ひーッ!」

笠井強すぎる!
狂ったように笑う中西を堪えきれずに殴りつけ、他人の不幸に酔った中西は辰巳にすがりながらも笑い続けた。

 

*

 

「……」

笠井の冷たい視線にも慣れた。去年のことを引き出すなと言いたいのだろう。

「…だから、今年とプラマイ」
「愛はどこ!?」
「ほしい?」
「チョコはいいから愛を寄越せ!」
「俺の愛はそんなに安っぽくないです」
「……」

面白いなぁこの人。
去年チョコをあげようとしたら拒否されて、チョコいらねーから電池くれMDの充電池もう駄目だなどとふざけたことを抜かすから奮発して10本ほどリボンをかけてプレゼントしたのに。
…喜んでた顔、結構可愛かったから俺は覚えてるんだけどなぁ。
まだ文句を言いたげな唇が、次に開くと確実にうるさいので黙って一瞬唇を当てた。不意に接近した距離に三上が硬直する。

「…先輩甘い匂いがする」
「……」
「食べてくれた?」
「……食ったよ」
「全部?」
「全部!」
「えっ!」
「……なんだよ」
「…どうせ2個ぐらいで諦めるだろうからと思って俺が食べたいの選んだのにな…」
「……」

頼むから愛をくれ。
流石にいじめすぎたような気もして、じゃあどうしたらいいですか、と出来るだけ可愛く聞いてやる。
三上はしばらく悩み、

「メイ」
「秋葉原まで電車賃幾らでしたっけ?」
「ごめんなさい冗談です」
「愛をくれって言うけど先輩は俺に愛をくれます?」
「…そりゃ」
「じゃあ物で何か」
「……」

殴りてぇ。

 

 

 


初心に帰って!(え?笑

060214

 

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