不 幸 自 慢



「いちっ」
「お、どうした?」

真田が目を押さえて椅子の背もたれに体を預けた。
本棚の前から立ち上がって三上が傍に立つ。窓から入ってくる風が昨日より少し強い。

「目に何か入ったー・・・」
「どっち?」
「右」
「目ェ開けてみろ」
「あかない」
「おま・・・泣いてみ、つか泣け」
「俺涙少ないからダメ」
「おい〜・・・」

ハイハイとあやすように真田を撫でながら、三上はそっと手をどける。
そうしながらポケットに手を伸ばし、目薬を出してくる。

「目薬」
「やだ、嫌い」
「お・い」
「何か眼球痛いじゃん!」
「ガキかお前は!」
「人の目薬使っちゃいけねーんだよっ」
「眼病なんか持ってねェよ、直接くっつけなきゃ大丈夫だって」
「やだ〜っ!」
「・・・・・・」

コラ、と何度か真田の頬を叩くが目を開ける気配はない。
また俯いて、目をこすろうとする手を捕まえた。

「傷つくぞ」
「痛い〜ッ」
「だから目ェ開けろっつの!」

ばしばし手を払い落として三上は顔を上げさせる。
片手で目薬のキャップを外して右手に構えた。

「目薬いくぞ」
「やだっ」
「ダメ」

真田はギュッとかたく目を閉じる。
強情な真田が目を開けるわけがないと分かっているから、三上は滴の代わりにキスを落とす。
顔を上げればぱちっと真田が目を開けて、三上はその右目に滴を数滴落とした。

「あっ、いったぁ」

喉から細い声を漏らして真田がのけぞる。
そうかと思えば俯いて、手の甲で右目をこすった。

「だから、こするなって」
「いたい〜っ、ヒリヒリするっ」
「ガキが」
「目薬の方が痛い」
「ンなわけあるかっ」

人差し指でつむじを押してやる。
真田のうめき声を聞きながら三上は目薬をしまった。

「・・・・・・最悪」
「はぁ?」
「休みの日に変なのが押し掛けてくるし、変なのは人の部屋でくつろぐし、目にゴミ入るし、目薬されるし、強姦されるし」
「何それ。最後の、予定?」
「さっきの」
「はぁ?あんなもん。 俺だって、折角休みだと思ったら藤代が下でバカみてェに騒いでてゆっくり寝れやしねェし、昨日予約したビデオは撮れてねェし、折角会いに来たら変なの呼ばわりされるし、しかも部屋の片付け手伝わされるし」
「最悪」
「・・・・・・」

三上が呆れて頭をかいた。
真田の座った椅子を少し奥に押して、自分は勉強机にもたれ掛かる。

「・・・目治った?」
「・・・・・・」

真田がゆっくり目を開ける。

「・・・痛い」
「こすりすぎ、バーカ」

真田を見下ろして目尻をこする。
首が痛い、と言い出す真田にデコピンを決めた。

「ちゅーしていい?」
「やだ」
「しちゃお」
「やだって」

押し返そうとする真田の腕を片手で繋ぎ止めて、机の前の窓ではためくカーテンを引く。

「や、」
「やじゃない」



「・・・・・・最悪」
「だから、そーゆーコト言うなって。むかつくガキ」
「・・・イッコじゃん」
「あーあ、何で俺こんな幸薄いんだろ」
「俺のセリフ」

「・・・でも何が不幸って、」

どっこいしょと三上が真田を抱き上げる。

「ちょっ、変態ッ」
「・・・こんなクチの悪いのに惚れたことだろなぁ」
「・・・・・・バカか」
「バカはどっちだバカ」

乱暴に落とされたのはベッドの上。
三上の手を真田は次々振り払う。

「変態!」
「スキだろ?その変態が」
「ンなわけあるかっ」
「ごめんネー幸薄いのスキだからー」
「バッ・・・親いるっつの!」
「居なかったら良いんだ?」
「い・や・で・す」
「ごめんネ変態だから」
「う、ぎゃっ!まっ・・・待って、」
「待ったなし」

真田の手を捕まえてそれに口づけて、繋ぎ止めたまま唇を落とす。

「じゃなくて、もうすぐ結人達が」
「・・・は?」
「先約はあっち!お前いきなりウチ来たじゃん!」
「追い返せ」
「無理、三上が英士説得するなら良いけど」
「・・・・・・何で俺こんなに可哀想なんだろ」

溜息をつきながら三上が体を起こす。
若菜だけならともかく郭を追い返すとなると不可能に近い。

「べっつにー、いいけどねー、次いつ会えるかわかんねェけどー」
「・・・せめて、連絡入れてくれりゃよかったのに」
「へーへー俺が悪ぅございました」

不機嫌な背中に今度は真田が溜息をつく。
大人ぶっていても精神年齢は変わらないと言える自信があった。

「そんなに言うなら帰ろうか?」
「え」

反射的に振り返ると、ドアの向こうに郭と若菜。
呆れた表情の郭に真田はしばらく理解が出来ない。

「おー、帰れ帰れ」
「えーっ、じゃあ俺の作文どうすんだよ!一馬の写そうと思ったのに!」
「作文は自分でやれって言ってるでしょ」
「っ・・・て、てゆーかどこから見てたッ!?」
「『待ったなし』ぐらいから」
「ぎゃっ・・・」

カッと顔が熱くなったのが自分でも分かる。
飄々と答える若菜の所為で余計に恥ずかしい気がする。

「つーか帰れって」
「かっ、帰っちゃダメ!」
「・・・・・・」
「だ、だって宿題教えて貰おうと・・・」

三上の視線に真田が逃げた。

「・・・あ、丁度イイや。三上理系でしょ?結人数学見てもらいなよ」
「え〜、英士は俺が三上に食われてもいいって言うのかよ」
「誰が食うかっつの。金取るぞ」
「じゃあ一馬貸さねー」
「バカか、俺のだっつの」
「違いますー」

「さ、一馬英語やろうか」
「うん・・・」

 

 


何だかふたりとも薄幸そうだと思います。薄幸って言うかいっそ不幸だけどね!
一馬は絶対目薬嫌い。絶対嫌い。三上は絶対持ち歩いてる気がする。目覚まし用とかで。

030809

 

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