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新　作　映　画

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「お、椎名」
「あ、三上」

がったんと、振動でぶつかって二人はやっと気付いた。
電車の車両という密室空間で、隣り合った知り合いに気付かなかったというのも妙な話だ。

「何か優雅じゃん」
「・・・何が？」
「お供連れてお出かけ？」
「・・・・・・」
「・・・翼、誰」

ピリッと張った空気に三上が苦笑した。
それは椎名の向こう側から感じる。

「試合やっただろ、黒川クン？」
「！」
「マサキ、武蔵森の１０番。選抜合宿にも来てただろ、落ちたけど」
「一言多いっつの」
「よくマサキの名前まで覚えてたね」
「何故か。お陰で女の名前間違ったことがありません」
「うわ」

「デート？」
「まさか」
「・・・・・・」
「なぁ、隣なんか沈んでるぞ」
「気の所為」

椎名が黒川をからかうように笑う。哀れ、と呟いて三上も苦笑した。
寮を出たときにはまさか知り合いに会うとは思っていなかったので今の状況が楽しい。

「何しに？」
「映画見に」
「お、じゃあ行き先一緒じゃねェ？俺前売り買いに行くから」
「ああ、行ってたね。８人分だっけ」
「横暴だろ」
「大変だねー」

「・・・何でンなの知ってんの？」
「メル友でーす」

茶化すように三上が肩に回してきた手を、椎名はすかさず叩き落とす。

「デートは三上の方じゃないの？何でひとりなんだよ」
「待ち合わせ。前売りはついで」
「笠井かわいそー」

電車が駅に着いた。
笑いながら椎名が車両から降りて、三上もそれに続く。
更に続く黒川を三上が振り返った。

「王子様、ご一緒していい？」
「は？・・・何だよそれ、」
「あ、ダメ？」
「・・・そうじゃなくて、王子の方」
「あぁ、黒川は王子って言うか騎士って感じ」

答えになってない。

「お姫様愛されてんね、俺さっきからスゲー睨まれてんだけど」
「そりゃお前あからさまに不審人物だし」
「うっそぉ、どこを切ってもいい男じゃん」
「自意識過剰もいい加減にしないと笠井に愛想着かされるよ」

軽口を叩きながら階段を上っていく二人の後ろを、黒川は理不尽な表情でついていった。

「さいっしょはグー！」

奇麗所が人でじゃんけんの構えをとっている光景は何だか妙だった。その気の抜けた文句が理由かもしれない。
結果を見て、椎名が自分の拳を睨む。

「ハイじゃー椎名宜しく」
「・・・前売りと当日券同時に買うの恥ずかしいなー・・・」
「宜しく。ハイ８千」
「みんな中学生で良いの？」
「自称ばっかだけどな」

渋沢その他のことを言ってるんだろう。
小学生料金で通用しそうな奴がいるからプラスマイナス０、と三上は笑う。
預かってきた代金を椎名に押しつけて、三上は彼を列に送り出した。

到着した映画館は新作映画が始まったばかりの所為か、前に来たときよりも人が多い気がする。
その所為で面倒臭いと言い出した三上がじゃんけんを提案した。
確かにみんな並んでしまうより能率がいいことに違いはない。

「─────・・・アンタは」
「ん？」
「アンタは・・・」
「いや、俺本命いるから」
「・・・・・・」
「椎名も可愛いけどなー、あいつに手ェ出すの怖ェし」
「・・・じゃあ翼は」
「好きじゃねぇだろ」
「・・・・・・」

いちいちセリフを先回りされて少し腹が立つ。
三上を見るとそれが分かっているのだろう、相変わらずニヤリと笑われるだけ。

「俺は名前で呼ばせてくんないし」
「・・・あ」

「まぁあのお姫様扱うの難しいわ」
「・・・アンタは王子みたいなのにな」

「ふたりで何話してたの？」
「や、何か、告白されちゃった？」
「してないし！」
「は？・・・まぁいいけど。三上すぐデート行く？」
「あぁ、もう時間もねぇし。デートっつか貢いで貰いに行くんだけどなーｖ」
「うわ、最悪」
「んじゃ翼ちゃん前売りサンキュ」
「名前で呼ぶな！」

三上が笑いながらチケットを受け取り、さっさと歩き出した。
その後ろ姿を、椎名がいつまでも睨み付けている。

「・・・なぁ」
「何、」
「何でアイツに名前で呼ばせねーの？」
「・・・何か・・・調子狂う」
「・・・・・・」

それって、どういういみ、
黒川が聞きかけるが、もう時間だと言われてやめにした。
館内を歩きながらチケットを渡される。

「結局こっちにしたんだ」
「あ、うん」

チケットに書かれたタイトルを見て椎名に聞く。
候補が２本あり、来るまでどっちを見るかしばらく悩んでいた。これは決定したのと別の方だ。

「三上にこっちの方頼まれたから、良いかと思ってついでに同じの。同じの見た方が話も出来るだろうし」
「・・・・・・」

自分はこの映画のことを思い出すたびに三上を思い出すんだろうと何となく思った。
ビデオ待ち予定だった新作映画。

　

　

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マ　サ　ツ　バ　・・・！キャ！
・・・何で。
１０：ライバルの続き。

０３０６２２