ネ コ


「ふ・・・・・・いっくしゅ!」
「・・・・・・夏風邪?」
「バカじゃないですからね」

三上のセリフを先にとって笠井はすかさず睨み返す。
あっそ、とつまらなさそうに三上が床に寝転がった。伸ばした手の先に、ネコ。

「笠井ークーラー付けて」
「はぁ?そんなに暑いですか」
「あっついです。Tシャツ貼り付いてます」
「扇風機」
「どこでしょう」
「・・・どこですか?」
「中西にさらわれました」
「・・・・・・」

笠井は諦めてリモコンの電源を入れる。
自分の部屋ではまだ付けたことがない。昼間はそんなに部屋にいることがないし、夜は暑い日でも扇風機があれば事足りた。

「・・・ていうか、ネコ離せばいいじゃん」
「やきもち?」
「ばーか」
「お前パソコン返せ」
「ごめんなさい」

環境問題について調べる宿題が出ていた笠井は大人しく謝っておく。
図書館にでも行けば涼しく快適に調べられるだろうが、行き帰りの往復が億劫だった。
寮内で済むのならそれに越したことはない。何度か行ったことはあっても、図書館のカードは作っていなかった。

「あーつーい」
「・・・・・・」

ネコの腹をなで回す三上を理不尽な気持ちで見る。
ネコの方は迷惑そうに薄く目を開けて、それでも動くことすら面倒なのかまた目を閉じた。
そんなネコの様子を知ってか知らずか、三上はネコを引き寄せる。

(・・・しゃくとりむし)
「何」
「何も」
「・・・何調べんのー?俺のもついでにやって」
「先輩もあるんですか?」
「俺が書くのは作文だけど」

やっとエアコンが風を吐き出し始めた。
もういい加減旧式な型に、三上は毎年何度文句を言うか分からない。

「エアコンの使いすぎで発生する問題にでもしますか」
「そんなに不満ですか」
「別に」

確かにべとつく肌は不愉快だ。
ネコがフローリングに寝転がる理由も分かるし、三上がだらしなく大の字になっているのも分かる。フローリングは比較的冷たいし、今は自分の体温すらも暑い。
しかし三上がネコを触りに行く理由は分からなかった。汗ばんだ肌にはネコの毛が貼り付く。

「でもネットで調べるの難しいかも」
「本で調べる方が簡単かもなー、ある程度まとめてあるだろうし」
「先輩やって」
「高いぞー」
「・・・金とんないで下さいよ、可愛い恋人の頼みなのに」
「金とは言ってないけど?」
「自力でやる」
「あ、ヒデッ!可愛い恋人なんだろ?」
「誰ですかそれ」

この暑いのにわざわざくっつきに行きたくない。
そうでなくても三上にはネコが貼り付いているのだ。押しつけられるに決まってる。

「・・・なんかネコいい匂いする」
「はぁ?」
「しばらくシャンプーしてないのにな」
「どういう匂い?」
「分かんないけど、獣臭くはない」
「・・・へっくしゅ」
「大丈夫かぁ?」

暑いのにくしゃみの所為で鳥肌が一瞬立った。妙に気持ちの悪い感覚に笠井はイヤになってくる。
マウスを持つ手も熱くなってきて、意識し出すと気持ち悪くて笠井はすぐに接続を切った。パソコンの電源も落として三上の傍に行く。

「おしまい?」
「次の休みに図書館行く」
「ふーん」

室内はようやく涼しさを感じれるほどになった。
笠井は座り込んでネコを撫でる。

「案外三上先輩が知らない間にシャンプーして貰ってるんじゃないですか?」
「こいつのシャンプー?誰が好き好んでやるんだよ」
「・・・・・・そうでした」

三上はあれを戦争と称す。
ネコにしてみればいい迷惑なんだろう。

「それに、シャンプーの匂いとかはしないし。なんだろうな」
「ふーん。俺鼻詰まってるから分かんない」
「あぁ、昨日味分かんないって言ってたっけ」
「少し」
「じゃあ」
「少しの味の違いが分かんないだけです」
「・・・せめてセリフ言わせろよー」
「ばか」

何を言おうとしたのか分かった自分がイヤになる。
しかし甘んじて要求を受けるわけにはいかない。わざわざエアコンをつけて涼しい室内で運動する気は全く起きなかった。

「・・・そういやさぁ、お前もなんかいい匂いするんだけど」
「はぁ?」
「髪かして」
「いたっ」

髪を引っ張られて笠井は慌てて首を曲げる。
三上の指先に捕まった髪が視界の端に映った。

「シャンプーか何か変えた?」
「いえ、全く」
「何かそんな感じなんだけど」

三上の真横でネコが寝返りをうった。
器用だなぁとぼんやりと見る。

「何だっけこれ・・・」
「せんぱい、痛い」
「あ、悪ィ」

手が離れてホッとする。
三上の方はどうも気になるらしく、眉間にしわを作って考えていた。
ネコが不意に起き上がり、ととと、と少し移動した。渋沢の机の傍まで歩いていったかと思うと、いきなりパタンと倒れ込む。

「あー・・・暑」
「夏ですからね」
「風邪引くなよバーカ」
「ネコバカ」

「あ」

「・・・何ですか?」
「わかった、それ」
「はい?」
「こないだ中西が買ってきてた奴。プチセクシー」
「・・・・・・は?」
「あー、中西使ってねェと思ったらお前が使ってんだ」
「使ってないですよ、あの騒がしいCMのやつでしょう?」
「騒がしい・・・お前おっさんみたいなコメントすんな。中西が入れ替えたんじゃねーの?あ、そういやそんなんやったな王様ゲームで」
「王様ゲーム・・・?」
「ネコの首に鈴を付けろ、みたいな」
「・・・・・・嫌がらせですか」
「可愛がられてんだよ」
「結構です」

自分で少し髪を引き寄せてみるが、鼻の調子が悪いせいかよく分からない。

「かさいかさい」
「なん、ぅわっ」

三上の手が伸びてきて首に絡まる。強引に引き寄せられて首が痛い。

「一緒寝よう」
「やだ、あつい」
「もう暑くねーって。いい匂いすんだもん」
「うーっ」

体勢が苦しいので笠井は諦めて脚を伸ばす。
三上が笠井の頭を抱いた。

「暑い!」
「何でー、嬉しくない?」
「嬉しくないー。先輩の息が暑い」
「・・・じゃあいいもんネコと寝るから」
「もんとか言うなー」
「ネーコー」

ごとんと頭を落とされて笠井が声を上げる。
三上は素早く起き上がって、ネコの方に体を伸ばした。
ネコの方は三上が倒れてきたのに驚いてベッドの奥に逃げ込んでしまう。

「嫌われたー」
「あーあー」

笠井が笑いながら三上の上にのしかかった。

「しょうがないから一緒に寝てあげようかな」
「一緒に寝たいんじゃーん」
「違うもん先輩が可哀想だからだもん」
「ばーか」




「・・・エアコンが効いてないな」
「電力の無駄ですねー」
「ッ・・・勝手にドア開けんな!」
「やー暑い暑い」
「せ、誠二ッ」
「初江さんがアイスくれたんだが溶けそうだからここから離れた方がいいな」
「キャプテーンッ誤解です!!」
「あっ何が誤解だって!?」
「先輩なんかどうでも良いもんっ」
「お前ッ」

笠井が立ち上がって藤代達を追って部屋を出ていく。
タイミングを外して残された三上は閉まったドアをじっと見た。

「・・・・・・ネコー」

ベッドの下のネコを覗いてみるが出てきそうな気配はなかった。

 

 


モカ(我が家の姫)の話。
モカちんはいい匂いがするんだけどミルは何か臭い。
獣臭かったのはジューン。
猫好きだー

アタシも環境問題調べにゃ・・・

030803

 

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