屋 上
「うわ、びっくりした」
それはまだ煙草がポケットに入っている頃の話だ。
屋上にやってくる人間は少ない。寮生の3分の2が屋上があることを知らないか、知ってても鍵がかかっていると思っている。
残りの3分の1の半分以上は屋上に興味がないか、恐がって上がってこないかのどっちか。まぁ殆ど3年のスペースと言っていい。
高所恐怖症もいるんだろうけど、大半は俺が原因だと屋上に来る奴らは言う。失礼な。「おーい」
声をかけてもそいつは全く反応しなかった。あぁ何だったかな、名前忘れた。
まぁいい、そいつって言うよりそれって感じ。屋上の一角に、小さく体育座りをして顔を伏せている塊。
ホントに名前何だっけ。3年じゃない事は確かだと思う。
一応人っぽいその塊は、始め泣いているのかと思ったけどそうでもなかった。その次は死んでるのかと思ったけど。
しかしそいつがみじろいだので残念ながらその可能性はなくなった。つまんないの。
煙草に火を点ける。「何してんの?」
胡散臭いまでの青空の下、気味の悪い生き物と俺。なんて煙草の不味い状況。
元より旨いなんて思ったこと多分ないけど。妙なトコばかりガキだと姉さんに笑われたのも尤もだ。「なかにし」
「・・・・」
・・・びっくりした。
思わず振り返ったじゃんか。誰もいない。
そこに居る奴は顔を上げてない。エスパーなのか俺がそんなに分かりやすいのか。後者っぽいなぁ。「煙あっち向いて吐いて」
「・・・・」
わざと顔(と思しき箇所)に煙を吹き掛けてやった。
顔は完全に覆い隠されているので効果の程は分からない。「・・・・」
「何してんの?もう聞かないけど」
「落ち込んでる」
「・・・・」
・・・そう、とだけ答えておいた。慰める気すら怒らない。
落ち込むことで自己満足してるタイプだと思った。実際は何も解決してないんだろう。「あんた名前は?」
「三上」
「何で落ち込んでる?」
「つまんねぇ喧嘩」
「ふーん」
三上ぐらいなら画数少ないから覚えられそうだ。
顔知らないからどっちにしろ意味ないけど。「よしっ」
三上が立ち上がった。
反射的に目で追うと目の前に太陽。目が痛い。「謝ってくる」
「・・・ふーん、あんたが謝る方なんだ」
「つーか何で喧嘩したかよく分かんねーし」
「くだらね」
「だよなー」
じゃあな、と三上が歩きだす。
その後ろ姿はぎょっとするほど背筋が伸びていてさっきの塊の面影は全くない。「―────あ」
三上がふと足を止めて振り向いた。
「お前そんなもん吸ってるからトロいんだよ」
「うっせー」
人が監督にされた注意まで覚えてるなよ。
届く筈のない三上の方に煙を吹いてやった。よく晴れた日の屋上はお日様の光と匂いで満ちている。
少し懐かしいような気がした。屋上で太陽を感じるのは久しぶりかもしれない、いつも解放を求めてここにくるから。
三上だっけ?早速あやふや。
あいつが出ていったドアがゆっくり閉まるのを見送って、煙草を手摺りの向こう側に押しつけた。「変な奴」
サッカーについては分かんないけど、少なくとも人生については少しぐらい楽しませてくれそうだ。
ある日屋上にて。
中三出会い編(え)
030620
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