喧 嘩


「まーた喧嘩したのか?三上も笠井も飽きないねー」
「あっちが勘違いしただけですー」

ストラップを握って携帯をぐるりと回し、三上は近藤を軽く叩いて廊下の奥に向かう。
奥には自動販売機があるが、困ったことについ先日故障していた(原因は藤代だという噂だが本人は全面否定だ)。
その自販機の更に奥、廊下の角に座り込んで小さくなった。体育座りの状態で番号を呼び出す。耳に携帯を押しつけて相手が出るのを待った。

「・・・・」

小さく聞こえる呼び出し音に少し緊張する。
それが途切れ、相手が出た。声はない。

「好きです」

『・・・・』
「・・・・」
『・・・笠井、俺三上に告白されちゃったけどどうする?』
「なんでテメェなんですか」
『さぁ何ででしょう』

電話の向こうの声が笑った。
予想だにしてなかった事態に三上は慌てて呼吸を整える。

「・・・笠井は、」
『ん?今台所』
「・・・・」
『エプロン付けて悪戦苦闘してるよ』
「なっ・・・」
『笠井、あからさまに反応したけどどうする?』

刺しといて、なんて物騒な声が遠くで聞こえた。

「お前ら何処いんの?」
『俺の家。あ、別に俺が買ったわけじゃないよ』
「分かるっつの。―───何処」
『・・・・』

 

「渋沢、ちょっと出てくる」
「あぁ、ちゃんと笠井連れて帰ってこいよ」
「無理だったら代わりに郭連れてくるわ」
「は・・・?」

声をかけるだけで三上は部屋を出ていく。
途中で根岸に自転車の鍵を借り、例によって大浴場の窓から外へ抜け出した。
門限までに帰ってこれるか分からないなら寮に居る事にしていた方がいい、正面から出るのは寮母さんに見つかる可能性があった。
笠井の方は帰寮時間が遅れると既に連絡済みらしい。
その寮母さんに見つからないよう自転車を出して、それに飛び乗り一気に風を切った。

目的地は家の近くだという公園。
にっくき恋敵はそこまで出向いてくれるらしい。尤も、向こうの言い分は「家知られて嫌がらせされたら困るでしょ」だ。
その気になれば東京選抜の名簿を借りて、住所を頼りに探すことぐらい出来る。密かに得意かもしれない。

三上は殆ど全速力で公園へ向かった。
そこには既に郭の姿はあったが、笠井は居ない。小さな噴水の前に郭が立っている。

「何だ、早かったね」
「まーな、大事な猫に悪戯されると困るもんで。笠井は?」
「来てない」
「・・・まぁいいか」
「今回の喧嘩は何が原因なの?」
「喧嘩じゃねーよ」
「・・・笠井は浮気って言ってたけど?」
「は、マジで?」

自転車から下りて三上は笑う。
郭は不思議そうにくつくつ笑う三上を見た。

「今回は俺の浮気現場を目撃されたわけよ。可愛い女の子と歩いてるトコ見られちゃって」
「うわ」
「追い掛けてやりゃ良かったんだろうけどな、女の子ひとりで歩かせらんないから」
「・・・・」
「取り敢えず笠井にあいつとは何でもないってゆっといて、昔からの知り合いってだけだから」
「それ笠井が信じる?」
「あー、無理だろうなぁ。でも何かしたくても向こうが手厳しくて」
「わかった言っとく」
「それは言わなくていいです」

三上が笑いながら手にしていたものを郭に差し出した。

「因みにそれは証拠写真」

小学校に上がる前ぐらいの少年と少女が砂場で遊んでいる写真だ。
少年は何となく三上に見える。

「あ、可愛かろ?いくら俺が可愛いからって写真パチんなよ、ちゃんと返せ」
「何処が可愛いって?」
「因みに彼女は小島有希ちゃん桜上水の2年生ですお兄ちゃんは某サッカー選手今日はこれを貰いに行ってたわけでーすコネ万歳」

ちゃんと渡して、と三上はチケットも郭に渡した。後日のサッカーの試合のチケットだ。
いつの間にか郭は三上に使われている。

「じゃあそんだけ笠井に宜しく。あいつ帰ってきてからちゃんと謝るし」
「待って」
「・・・何、別れが惜しい?」
「バカ?ホントに喧嘩してないの?」
「は?だからしてないって、何で」
「だって喧嘩したっていつもより辛そうに言うから」
「・・・あー・・・ぁ、わざわざ出てきて損した」
「え」
「多分藤代とだそれ」
「・・・・」

吹いた風が郭の手からチケットを奪おうとする。
ふたりで何となく乾いた笑いを交わし、奇妙な恥ずかしさを誤魔化した。

「・・・まぁ、とにかく渡しといて。怒ってるのは間違いないだろうし」

じゃ、と三上が自転車にまたがる。

「宜しく」

来たときとは裏腹に、三上はゆっくりとしたペースで自転車を走らせた。
歩いてよるうなペースなのでときどきその後ろ姿がふらつく。
郭はその背中を少しの間見てから噴水の裏に回った。濡れてない場所を選んで座っている人がいる。

「笠井」
「・・・・」
「今から追い掛ければ追い付くんじゃない?」
「・・・油断しすぎた」

驚かす間もなかったよ、
郭か紙片を受け取って、笠井は仏頂面で走りだした。

「・・・笠井、『喧嘩する程仲がいい』人としか喧嘩しないんだよ」

何となく悔しい思いを抱えて、郭はわざと笠井が消えるまでそこに立っていることにした。

 

 


喧嘩?
近藤と喧嘩で行こうと思ったけど上手くいかなかったので
三郭にしよう!と思ったわけですが
結局三笠かぁ・・・ちえ・・・

030619

 

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