天 才
「・・・・」
口をパクパクさせて真田は言葉を探した。
いや、黙っているのが得策だろう。よし、とよく分からない気合いを入れて口を閉じる。
無視だ、無視。見ちゃいけない。
何だってこんなところで会わなきゃいけないんだ。新幹線の中、なんて逃げ場のない。知らずに眉間にしわを寄せる。
窓の外を見ているフリをして通路の方を見ないようにする。隣の席に座っていた若菜と郭がいないのが良いのか悪いのか。
辺りの建物が低いせいか高いところを走っているせいか空が大きく見えた。
───隣に人の気配。嫌な予感がする。「・・・・・・」
「隣空いてますか?」
「空いてません」
「心の隙間お埋めしましょうか?」
「あ・い・て・ま・せ・んッ!・・・何で三上が新幹線なんか乗ってんだよ!」
「真田に会うため」
「ッ」
「だったらキモいよなー」
「・・・・・・」一瞬息が詰まったというのに。
三上はそれを察して笑う。こうなっては若菜達の帰りを一秒でも早く願うばかりだ。「ストーカーかよっての。大体お前一人に新幹線代も価値ねぇだろ!」
「うっわ、ムカつく」
「何?そうだったらよかったって?」
「何言ってんの、キモいし」そんなことあるはずがない。キッと三上を睨んでやる。
隣に座って脚を組み、にやりとこっちを見てくるのは間違いなく三上だった。
東京選抜の移動中の新幹線で、東京の知人の一人に会うなどどんな確率なのか。しかも東京発ではなく目的地が東京だ。「合宿、どうだった?」
「何で知って・・・あ、藤代」
「ハイハイどーせうちのガッコで落ちたの俺だけです」
「しつけー」
「黙れギリギリっ子」
「う、うっせーな!」見てきたように言う三上に思わず声が大きくなる。
しッと諭されて言葉に詰まった。「・・・み、三上は何処行ってたんだよ」
「俺?実家帰ってた」
「あぁ、武蔵森って寮か。大変だな」
「まぁ好きで来たんだし」
「・・・・・・」何だか諦めたような口調だが、それは三上の強さだろう。
自分は寮生活なんて出来ない気がする。想像しただけで真田は顔をしかめた。住めば都、なのかもしれないが。「俺ずっと向こうでやっときゃ結構いいセンいってんだけどなー、近所のガキどもにスゴイスゴイ言われて今ちょっと天狗なんだけど」
「うわー」
「やべぇな、調子もどさねぇと」
「ガキ、」
「うっせーな。 ・・・お前藤代がスランプなってんの見たことある?」
「え・・・ない、と思う」
「多分見たことはあると思うぜ、割合波激しいから。ただあんま外に出ないみたいで、一緒に中でやってると結構分かるんだけどよ」
「・・・・・・」
「いつもみたいにへらへら笑ってんだよなー、天才の余裕ってか?」三上が自称気味に笑う。真田は俯いて窓の外に視線を向けた。
自分の中には自信と絶望が渦巻いている。どちらも絶対、の条件が付いたプラスとマイナス。
三上が黙ってしまったので真田は話題を探す。「・・・風祭が、」
「ん?」
「風祭の話、聞いたか?」
「・・・ああ・・・藤代が電話してきた。俺宛じゃなくて笠井宛だけどな。アレはちょっとテンパってて珍しかった」
「・・・・」駆け寄るチームメイト
太陽と声
持ち主の居ないボール
ハットトリック「バカだよなー」
「・・・三上?」
「バカみてェ。何で気付かねぇんだろうな、あいつ。勿体ねぇ」風祭のことを言ってるんだろうか。
面識があるとは知らなかったので少し驚く。そういえば藤代が試合をしたことがあると言っていた。「・・・悔しいな」
「三上、」
「・・・藤代は?」
「え?・・・あ、寝てるのかも。あいつ昨日寝てないみたいだし」
「あー、そーゆー奴。遠足の前の人か修学旅行とか、緊張すると寝れないんだと」
「でも前の日は普通に寝てたけど」
「風祭が気になってんだろ」
「・・・・・・」失礼ながらもそんなに繊細だろうかと考える。
三上がそれに気付いたのか苦笑した。「あいつ笠井が風邪引いたときとか寝ねーもん」
「・・・三上の時は寝てるだろ」
「あーぐっすりとな」真田が笑うと三上に小突かれた。
「いーよなー天才って奴は」
「藤代?」
「自分の心配しなくていーんだからよ」
「・・・・・・」
「・・・ま、そんなもん無い物ねだりだけどな」後ろの方から若菜の声がした。
三上がそれを聞いて立ち上がる。「東京駅ついたらお前ら解散?」
「え、多分」
「それから暇?」
「・・・え」
「探すから待ってて、その格好目立つから良いな」選抜のジャージを差して三上が笑う。
何を言われたのか考えようとしている真田に、上体を倒して追い打ちをかける。「じゃ」
三上の姿を見つけた保護者が何か言う前に、三上は隣の車両に消えていく。
「・・・もぉヤダあいつ・・・」
十分天才じゃないか。こんなにも人の心をかき乱し。
真田は頬を拭って顔をしかめた。
読み返してみたら合宿の移動バスじゃーん。まぁいいか、原作無視で(オイ)
今更風祭ってオイですが書いたのは大昔です。
ていうか乙女ですか?真田さん乙女ですか?
新幹線は大好きです。てか乗り物好きです。040430
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