ラ イ バ ル


「男と女はライバルになれると思う?」

「・・・何、好きになった男がホモだったとか?」
「そう言うライバルじゃない」

彼女は軽くチョップを決めた。 わざとらしく痛がって見せた三上は久しぶりのやりとりを楽しく思う。
元より会う機会は余り無かったのに、彼女の方が忙しくなってきたらしく会える日はぐっと減っていた。

「・・・ライバル、ねー」
「・・・やっぱり、体力差とか、出てくるから。あたしが一方的にライバルと思ってても意味はないのよね」
「気になってる男でもいるわけ?」
「あんたの言い方いちいちやらしいのよ!」
「あーらごめんなさい、生まれつきなモノで」
「それはそれでもっとイヤ」

二人で声を立てて密やかに笑う。
ファーストフードのテーブルで向き合う彼等は、可愛らしい中学生のカップルに見えた。

「でも、な」
「うん?」
「ライバルって、体力差とか技術差だけじゃねぇだろ、」
「・・・・・・」
「ていうか、じゃないって、言ってくんない?」

そうじゃないとちょっとばかし恥ずかしいので。
体力だって技術だって負けてなかったはずだ。・・・いや、技術は少しだけ劣ってたけど、少し、すこーしだ。

「・・・そう、よね」
「それに、俺は一応お前はライバルだと思ってんですけど?」
「あら迷惑な話」
「ひっでェの」

冗談だと分かっているから三上は笑って返した。

「なれるだろ」
「・・・・・・」
「恋するワケじゃねーんだから、性別なんか、関係あるかよ」
「・・・そうよね」
「恋するにも性別関係ないですけどね」
「あっそ」





「次いつ会えんのー?」
「気持ち悪いから甘え声出さないで。また時間空いたら連絡するし」
「つれないなー有希ちゃんは」

名前で呼ぶと彼女は露骨に顔をしかめた。そんな表情も久しぶりで笑えてくる。
やっぱり自分は彼女が好きなんだろう。

「あ、電話じゃなくて、メールで宜しく。仔猫ちゃんに見付かったら俺また引っ掻かれるから」
「仔猫ちゃんってあんたね・・・」
「可愛いよー?可愛く鳴いて素直じゃなくてやきもち焼きで浮気者」
「何それ」
「んで、弱いけど強くて、格好いいな。ある意味、ライバル」
「・・・ふーん」
「あ、夜は負けねェけどな」
「とか言ってホントは負けてんじゃないの〜?」
「負けてませーん、失敬な。何なら一晩お供しましょうか?」
「仔猫ちゃんが泣くんでしょ?」

そりゃごもっともで。
言葉遊びで三上が負けて、彼女より先に立ち上がる。
トレイの上のゴミをまとめて、極自然な動作でそれを手にした。

「・・・随分と男前になったこと」
「惚れちゃう?」
「一般人に近付いただけでしょ」
「俺そこまで酷かったか?」

笑いながら彼女も立ち上がった。

「俺有希ちゃん好きなんだけどなー」
「良い迷惑だわ」
「あ、俺本気よ?」
「言ってれば?」
「・・・仔猫ちゃんに捨てられたらソッコー飛んでくからお隣開けてて欲しいんだけど」
「絶対イヤー」
「えー、何でー。こんな男前が泣きついて来るんだぜ?ときめくっしょー」
「ときめかなーい」
「お前さては女じゃねェな」
「そこらへんの安っぽい女と一緒にしないで。そもそも捨てられるような真似するあんたが悪い」
「仮定だって」
「明日にでも事実になったりしてね」
「うっわ笑えねー」

ゴミ箱にゴミを落としてトレイを返却場所に重ねる。
歩幅を意識的に彼女と会わせ、三上達はそこを出た。

「つーか渡すモノ渡しに来て、肝心のブツを忘れるか」
「お兄ちゃん鞄に入れたって言ったのに」
「あの人も間抜けだなー」
「お兄ちゃん悪く言わないで!」
「このブラコンが」
「変態よりまし!」
「そんなにセクハラされたいか」
「警察に突きだしてやる」
「つーかお前口悪すぎ」

よく回る舌に感心する。
ふと「仔猫ちゃん」を思い、どことなく似てる気がしてきた。
やっぱり彼女が原点らしい。






「あ」

「・・・あ」
「どうしたの?」

仔猫ちゃん、三上が小さく呟いたのを聞いて彼女が視線を追った。
そこには少年がひとり。

「・・・は?」
「イヤだから、仔猫ちゃん」
「・・・ごめん、あたし、男の子にしか見えない」
「うん、男の子だから。ちゃんと付いてますよ」
「・・・・・・」
「あ」

少年が振り返って走り出した。
しまった、と三上が顔をしかめる。

「どうしよう、お前の所為で振られちゃうかも」
「何であたしの所為なのよ」
「お前の所為だろ。・・・まぁいいか、取り敢えずお前んち行ってチケット貰ってから、それで機嫌直して貰うことにする」
「・・・それでチケット2枚なの?」
「そう」

身内にサッカー選手って良いね、
三上がにやりと笑う。

「・・・お兄ちゃんかわいそーう。何でお兄ちゃんあんたに甘いのかなぁ」
「俺のこと好きなんじゃないの〜?」
「絶対違う! ・・・今追いかけなくても大丈夫なの?」
「何?心配してくれんの?」
「あんたがホントに泣きついてきたらウザイだけ!」
「つれねー。 大丈夫っしょ、何だかんだゆって俺のこと好きだから」
「自意識過剰」
「分かり合ってると言え」

ふと思いついた考えに笑って。

「アイツにしてみればお前がライバルなのかもな」

一生、一生抜かせないけど。
初恋の彼女は心底嫌そうに顔をしかめただけだった。

 

 


有希ちん大好きです。
三上氏とは昔馴染みです。
言わずもがな仔猫ちゃんは笠井ちんです。

030617

 

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