眼 鏡


「あれ・・・っかしーな・・・」

本棚の前で腕を組み、三上亮は人が聞けば不愉快になるほどの大きな溜息をひとつ吐いた。
ない。
ついでに周りの本棚も一応覗いてみるがそこにもなかった。
場所を間違えていると言うことはないだろう、シャーロック・ホームズの文字に見覚えがある。中学生対称のシリーズ。

まいった、
三上はもう一度溜息を吐いた。
失せ物は眼鏡。遠視用なので絶対にないと困る、と言うことはないが、ないよりはあった方がいいに決まってる。
昼休み、涼みに来た図書室で眼鏡を取られて、確かにこの本棚に置かれたと思ったのだが。
気の所為だったんだろうか、と考えて、あの時は動揺していたので一度考えると自信が無くなってくる。確かに現場はここだが、眼鏡まではどうだっただろう。

「みーかみ、何してんの」
「中西・・・ってお前、眼鏡」
「ああ、ここに落ちてたんだよねー」
「落としてねーよ、取ったのお前だろ」
「だってキスすんのに邪魔じゃん」
「すんなっつってんの!」

中西がスッと眼鏡を外して笑った。その瞬間三上は気付く。
・・・放課後の図書室はガラガラだ。
三上が後ずさりをしたのを見て中西が腕を捕まえる。

「何処行くの?」
「・・・・」

おまえのいないところ。
三上は口を閉じる。
外された眼鏡は昼休みと同じように、シャーロック・ホームズシリーズの前に置かれる。タイトルだけが違う揃いの背表紙。変色具合が何故か本ごとに違う。
操られるように誘導され、三上は本棚を背にした。

「あの・・・中西さん・・・?」
「待ったなしね」
「待った」
「なしだって」
「待ーてーっつの!」

三上は必死で中西を押し返す。
溜息。
こっちが吐きたい、とばかりに三上は溜息を返した。

「・・・急に、何だよ」
「いえいえ、眼鏡の三上なんか見たことなかったから」
「授業中か本読むときぐらいにしかかけねーもん」
「何で?近視じゃなくて?」
「遠視。本読むのとか、勉強するのとかで目が疲れるから集中力欠けるらしいから」
「あぁ、お前集中力ないよね」
「ほっとけよ」

中西が迫ってきて反射的に体を引く。
だけどそこは本棚で、そんなことは有り得ないけれど倒れはしないだろうかと一瞬怯えた。
やっべ。

「ちょっ・・・と、待て、お前、図書委員は」
「俺」
「・・・・・・は?」
「俺」
「・・・・・・・・・」
「誰も来ません」
「ぃ、ぎゃーっ!」

 

 


何か可笑しい。
よくよく考えてみたら三上受けは初です。

030710

 

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