記 念


「み・・・みかみ〜〜〜〜っっ!!」
「おわッ」

後ろから何かに突っ込まれて三上はつんのめる。
どうにか持ちこたえて振り返ると赤茶の髪が見えた。
カッターシャツ1枚を隔てて肌と肌が触れ合う部分が熱くて、三上は腰に巻き付いた腕を引き剥がす。

「みかみっ」
「おー、設楽久しぶり」

正面に回って設楽はまた三上に抱きついた。
さっきから存在を無視されている藤代達がじっと笠井を見る。笠井は扇子で扇ぎながらつまらなさそうな顔でそれを一瞥した。

「ねぇっ、三上何で俺の誕生日知ってたのっ!?」
「あ、つーか何でお前メール返してこねぇんだよ」
「俺毎年誕生日には日本にいないから。今年は日本だったけど」
「ああそうですか」
「さっき、メール見てソッコー飛んできたんだけど」
「そっか。過ぎちゃったけどオメデトな」
「・・・三上ーーーッッ!」
「あついっ!」

くっついてくる設楽を三上はいちいち引き剥がすが、理由はホントに暑いと言うだけで、暑くなければ全く構わないんだろう。
笠井が扇子の手を止める。何でもない風に足止めされている原因を冷ややかに見て、一度扇子を閉じてまた開いた。

「・・・せんぱい、俺先帰りますよ」
「おー。扇子貸して」
「嫌です。誠二帰ろう」
「あ、うん」

大分免疫のある藤代はすぐに笠井について行く。
立ち会ってしまった他の部員もとろとろ帰り始めた。三上もゆっくり歩き出す。

「何処行ってたんだ?」
「北海道ー」
「海外危ねェから?」
「英語喋れる父さんが今年は休み取れなかったの」
「あっそ。親父さん何してる人?」
「デコトラ転がしてる人」
「(・・・英語・・・?)。 おみやげはー?」
「家ーv」
「・・・ついでに持ってこいよ」
「取りに来て?」
「・・・・・・」

メール見て即、と言う割には確信犯だ。
悩みながら三上は鞄から下敷きを取り出す。
暑さ故に首にはタオルが巻かれているが、あまりにも堂々としていて自然だ。

「・・・どーしよっかな」
「三上何やってんのー?」

下敷きで仰ぎながら三上は振り返る。
余り大差ない格好をした中西がその手から下敷きを奪った。

「たらちゃんにおうちにお呼ばれされちゃった」
「あら。いいねー男ばっかりのむさ苦しい寮よか涼めそうで。うち旧式だもんなーエアコン」
「じゃあ涼みに行ってくっかな。テキトーに言っといて」
「いいけど下敷き貰うね」
「やだ」

三上がすかさず下敷きを取り返した。
不満そうに顔をしかめた中西を、それでぺしぺしと叩く。

「大体お前は何で寒がりの癖に暑がりなんだよ」
「デリケートなもんで」
「うそつけ」
「浮気男より嘘吐き男の方が笠井だって絶対いいでしょ。じゃーテキトーに帰んなよ、俺聞かれたら言うけど聞かれなかったら知らないからね」
「ヘイヘイ」

中西の背中を押して歩き出させて、三上は設楽を振り返る。

「んでお前んちどこだっけ?」
「・・・へへ」

やった、と呟いた声に三上は一瞬手を止めて、設楽の後をついて行きながらまた仰ぎ始めた。





「俺誕生日プレゼントに携帯買って貰おうかな、三上も携帯持ってるもんね」

つけっぱなしだったパソコンの電源を落としながら設楽が言った。
普段メールやりとりをしているのはパソコンで、携帯を持っている三上はたまに不便も感じる。

「そしたらリアルタイムでメール貰えるし、返せるじゃん?」
「別に、リアルタイムが良いならかけてくれりゃいいけど」
「えー、だって授業中とか出来たら面白いじゃん」
「俺巻き添えかよ」

設楽が笑いながら三上の傍に座る。
クーラーの効いた室内では下敷きは動いていない。

「・・・ね、三上は何もくれないの?誕生日プレゼント」
「それって自分で請求する?」
「俺は三上がいい」
「・・・うーん、隣埋まってっから」
「前でも後ろでも良いけど」
「じゃあ下にしとく?」
「・・・いいよ」

設楽が正面から三上の胸に頭を預けた。
クーラーの微かな音と呼吸。三上の手で下敷きがパタパタと床を叩く。

「・・・あのな、設楽」
「俺は本気」
「・・・ごめんな冗談しか言えなくて」
「嘘も言えないの?」
「ごめんな浮気男で」

設楽は顔を上げてじっと三上を見る。
殴られたらどうしようかな、なんてそれは要らない心配だった。
やや強引に、一瞬だけ触れた唇。
設楽が笑う。

「今日が誕生日じゃなくて良かった」
「・・・設楽」
「だって記念みたいになっちゃうし、さ」

設楽は俯いて、さっきのように三上の胸に頭を押しつけた。
自分のものじゃない手がゆっくりと髪を撫でる。

「・・・じゃあ下敷きあげる」
「それ?」
「これ。油性ペン貸して」






「お帰りなさい」
「ただいま。笠井、俺お前の誕生日に何かやったっけ」
「ものは貰ってません」
「ふーん」

ふーん、って。
笠井が不満そうに三上を見るが、鞄を持ったまま真っ直ぐ笠井の部屋にやってきた三上の考えはよく分からない。

「設楽に下敷きあげちゃった、HAPPY BIRTHDAYとか書いて記念っぽくして」
「ふーん」

お返しの気持ちも込めてそんな返事。
一旦止めていた扇子を持つ手をまた動かして、笠井は読みかけの本に戻る。

「笠井も何か欲しい?今からでもなんか」
「・・・要りません」
「あ、そう?」

鞄を落として三上が笠井の隣りに座り込む。
手からゆっくり扇子を奪って、ついでに文庫本も閉じてやる。

「まぁ、要らないならいいけど。記念とかあげちゃったしね」
「何ですかそれ」
「思い出って感じ?」
「・・・じゃあ今年は要りません」
「またまた」

扇子も閉じて、三上がにやりと笑う。

「クーラーつけて良い?」
「・・・何か後ろめたいことでもあるんですか」
「何も」

だけどキスはちょっとだけ嘘の匂いがした。

 

 


キスは嘘吐かないんだって!!(ルパン三世@お宝返却大作戦)
遅ればせながらたらちゃん誕生日オメデト〜
書きながら笠井に持たせてるけど三上に扇子持たせたいな〜とか思ってたり。

030806

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送