02:笑うあいつ


「よォ」
「………なっ…何してんだお前ッ」
「学校見学です」

キラリと眼鏡を押し上げて三上が笑った。
────ここは、真田の通う中学の理科室だ。他校の三上に会うはずがない、ましてや理科室と言う場面においては。

「なっ…なんで!?落ち着きすぎだし!」
「いや成り行き?罰ゲームで。中西の罰ゲームって毎回こんなタチ悪いのだから慣れた。見ろよ制服まで準備されてんだぜ」
「……」

三上が上着の前を開ければ、下に着ているのは確かに自分と同じ制服で。
更に感じる違和感に、真田はぞくぞくと落ち着かなくなってくる。今理科室にいるのは真田と三上のふたりだけだが、まだ校内には沢山人が残っているのだ。

「まぁいいじゃん、久しぶり」
「あ…うん…、ってよくねぇよ」
「なんで?俺会いたかったのに」
「…」

三上が距離を詰めてきて、思わず逃げ腰になって背中を棚の水槽にぶつけてしまった。水の跳ねる音にとっさに振り返れば、三上が棚の両側に手をついて逃がさない。

「こっち向いて」
「…みか、」
「顔見せろよ」
「…」

余計にそっちを向けなくなって、真田は水槽の縁に手をかけて中を覗き込む。小さな魚が真田など気に止めずに泳ぎ回っていた。
まだ手は固定して、三上が首の後ろに唇を落とす。それに気付いた体はひくりと跳ねて、おそるおそる振り返った。

「…三上」
「俺とお前じゃ普通学校なんかありえないもんなァ」
「え、…なんもしないよな?」
「さぁ?」
「ッ…」

すぐ目の前で笑う三上は凶器。息を飲んで三上を見る。いつもはない眼鏡が三上を別人に見せた。

「真田ーッ」
「「!!」」

第三者の声、真田は反射的に三上を突き飛ばし、三上はよろけつつもしゃがんで机の陰に隠れた。
ギリギリのタイミングでクラスメイトが顔を出す。

「あ、やっぱり真田まだいたんだ」
「もう帰るけど」
「鍵頼んでいい?」
「北村先生だよな」
「そう、ヨロシクー。じゃーな一馬ちゃんv」
「ハハ、じゃあな」

ふざける友人に笑い返し、彼が理科室を出たのを確認してから息を吐いた。それを吐ききる前に袖を強く引っ張られ、危うく地面に落ちそうになる。

「危ねッ、何し…」
「何今の」
「え?」

床に膝を付いたままの三上が、じっと見上げて睨んでくる。
自分が何をしたのかわからない真田は困惑したまま見返した。

「あんな顔初めて見た」
「あんなって、どんな」
「笑った顔」
「…あ…あんなの、三上にしたって」
「なんで?確かに仏頂面も可愛いって言ったけどよ、そりゃねぇだろ、あんなやつにスゲェ笑顔で」
「あ…あー、ハイハイわかった。あれ反射的な作り笑顔」
「は?」
「こんな性格だけどちょこちょこ取材みたいなの受けたことあるから、あまりに笑え笑えって言われるから昔からこう」
「…作り笑顔でアレか?」
「アレ。結人に別人って言われるけど」
「……サギ…」
「なんで!」
「なんで俺に向けるのは仏頂面なわけ?」
「……それはお前が、」
「俺が?」
「…」

ともかく三上の機嫌は治ったようで、泣いた烏がもう笑う。笑いを押さえるような控えめな笑みが真田を襲って追い込んだ。

「俺制服汚してもいーって言われたんだけど」
「俺は困る!!」
「嘘だって」
「ッ!」

立ち上がった三上に腕を捕まれて、ぐっと寄った顔に緊張する。

「汚さなきゃいいって話?」
「…違う」

それでも触れようとする彼は近付いて、ぶつかった水槽が気になったが、逃げ道はとうに塞がれていたのだ。

 

 


三上を格好良く書いてやろうとして撃沈。
何故理科室かとゆーと、一馬さんは部員ではないけど科学部に入り浸り、理化学研究所から頂いてきたゼブラフィッシュに愛を傾けていらっしゃるからです(具体的)(理研から小学校時代のマイシスター)。

050417

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