04:まぎらわしい


「あ、CD見たい」
「ん」

真田が引き止め、返事らしいものも返さずに三上は通りすがりのCDショップへ足を向けた。真田は目指すものへ真っ直ぐ向かう。目的のない三上は出入り口付近に目立つように掲示された新作情報を眺めた。
ふたりで出かけるのは久しぶりだった。学校が違うだけでもふたりの生活はかなり異なる。真田は部活には入っていないので放課後は自由だが、三上は休日まで大体が部活だ。サッカーに対する心構えも違うのだろう。それでもこうして一緒にいることが、真田には時々不思議に思えてならない。買い物を済ませて三上を探すと掲示板の前で電話中だ。真田を見ても何も反応はなかったので近付いていく。

「なんて?うん。それ重い?…あー…ハイハイ、あったらな。良子ちゃんに逆らうとコエェから」
「!」

女の名前、だ。真田の反応に三上は気付かない。終わった?と口パクで聞かれて頷く。

「…ハイハーイ。じゃあ後で」
(後…)

三上が携帯を閉じるのを見つめる。変な顔をされたが、一度起きた思いを拭えるほど器用じゃない。

「悪い、本屋寄っていい?あっちのでかい方」
「あ、うん」
「遠回りになるから帰ってもいいけど」
「いいよ」
「ん」

じゃあ、とふたりで歩き出す。三上はさっきと何ら変わりはない。だから自分の考え過ぎだと誤魔化してしまいたいのに、さっき聞いた名前が頭の中を走り回る。

「あっ?…うっわしつけぇ、電話でわかったっちゅーの」
「…何?」

メールが来たらしい携帯を見ながら三上は眉を寄せる。緊張しつつも聞いてみると簡単な答え。

「頼まれ物。寮の傍の本屋クソだからな、お目当てなかったんじゃねーの。うおっ結構高ェ…」

携帯に情報が送られてきたのだろう。金あるかなと呟きながらまた携帯をしまった。

「…結構頼まれたりすんの?」
「まーな、あいつ出不精だし」
「ふーん…」
「それがまた鬱陶しいんだけどなぁ?特に真田といるときなんかだと」
「…」

調子のいいことばっか言いやがって!だけど若菜ほど勇気のない真田はそんなことは口に出来ず、また郭ほど冷静ではないのでじっくり考えることも出来なかった。

 

 

「リョーコ?」

藤代は貢がれたスナック菓子で確実に手を汚しながら反復する。真田が頷くとしばらく手を止めて考えた。

「タクはわかる?」
「…リョーコって?元カノじゃないよね、確かあややとか自称してたから」
「三上先輩と付き合ってるのってけっこー痛い奴多いよね」
「三上先輩が痛いからしょうがないんじゃない?」
「お前ら俺のこと嫌いだろ…」
「だって三上先輩は苛めるものでしょ?」
「だから真田もついで」
「……」

もしかして三上って結構立場弱い?他に聞ける人もいなくてこのふたりに頼ってきたが、失敗だっただろうか。

「あ、中西先輩なら知ってるんじゃん?」
「先輩?……しょうがないなぁ聞いてあげるよ」
「あ…」
「いいの、タクは先輩と話したいだけだから」

そわそわと携帯を取り出して、笠井は番号を呼び出す。真田が更に気にするのを、先輩用事で実家帰ってんだよね、と藤代は面倒そうに説明した。

「あっv先輩〜時間大丈夫ですか?」

真田には考えられない甘い声で笠井は電話に向かっている。いつまで待ってもその甘〜い会話が続くばかりで、真田が藤代に訴えかけると彼は仕方なく笠井に飴を投げつけた。その一瞬もの凄い目で睨まれる。

「…あぁ、忘れてた。先輩、リョーコって誰かわかります?三上先輩の知り合いらしいんですけど。…うん、真田が。自分でどうにかしろって話ですよね。えー、先輩優しいなぁ」
「……殴りたい」
「タク結構強いからやめとけ〜」
「うん、三上先輩に買い物頼んだり……あぁ、何だ」

話しながら笠井はノートにペンを走らせた。それを藤代に突き出して、もう他のことは忘れ去ってふたりの世界に行ってしまった。

「…あ〜…なるほど」

ノートを投げ出して藤代はつまらなさそうに真田を見た。ノートに書かれた文字は、『辰巳』。

「…誰?」
「辰巳先輩。三上先輩の部屋の隣。下の名前が良平で、良子はあだ名。因みに三上先輩はあっこちゃん」
「………」
「三上先輩部屋にいるはずだよ」

 

 

「まぎらわしいんだよお前!」
「うわっお前何でいんの!?」

 

 


近藤はしのちゃん、中西はママ(!?)

051207

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