01:ばかじゃねえの?


「エリートって何」

それは多分突っ込んではいけない一言だった。
真田は顔を逸らさずに三上を見て、ぐっと手を握りしめる。

「俺と、お前と、風祭と、何が違うんだよ」

 

 

「あなたらしくないんじゃない?」
「・・・聞いてたんですか」

無理矢理使った敬語を聞いて西園寺は笑う。
もう真田の姿はなく、三上は壁際でしゃがみ込んで西園寺を見上げた。

「俺らしいって、何?」
「学校の先生はわざと丁寧な回答をしていない問題集を使わせるんですって」
「考えてもわかんねェことってあんだよ」
「私にも分からないわ」

三上は溜息を吐き、弾みをつけて立ち上がって壁にもたれ掛かる。
自分を選抜から落とした、水野を選んだ女。

「・・・真田、」
「え?」
「って、どう思いますか」
「・・・そうね、彼は」
「俺はバカだと思うんですけど」
「バ、」
「まぁ俺もバカですけど」
「・・・・・・」

西園寺は三上を見る。三上も西園寺を見返した。
今まであったことのある女性でかなり美人の部類に入る女性は、きっと強さから言っても上位だろう。
色んな物を見て、色んな物を確かめた眼が三上を見る。

「・・・なぁ、西園寺さん」
「何かしら」
「男ばっかに囲まれててどう思う?」
「まだまだひよっこの少年に?」
「ひよこ、」

三上は自嘲気味に笑う。

「大空へ羽ばたく可能性をもった少年達には惹かれてるわよ、だからこんなことをしてる」
「ひよこは成長しても空飛ばないっスよ」
「分からないわよ?」
「・・・わかんない、かな」

早く帰りなさい、西園寺は優しく三上に言う。三上は笑い返し、

「そうしたいとこだけど、足しびれてんだ」
「・・・ま」

西園寺が思わず吹き出したのを見て、慣れない大人の女性の笑い方に三上は何となく笑い返した。
同じ年頃の女の子とは違う笑い方。ずっと上品で華やか。 ・・・だけど、

「・・・なんでかなぁ」
「・・・何が?」
「あいつが一番気になるんだよなぁ」

ばかくせー
三上は両脚を叩き、壁から背を離す。

「誰かに言っとこ。西園寺さん聞いてて」
「いいけど、何を?」
「俺は多分真田一馬が好き」

ばかくせェ。
西園寺の反応を待たず三上は歩き出した。
残された西園寺はその後ろ姿を見て思わず溜息を吐く。

「年頃の男の子って分からないわ」

落とされた愚痴や今後の抱負でも飛び出すのかと思ったのに。
西園寺は三上の背中に笑いかけた。

 

 


02:いいから


その日帰ってきた三上は思った以上に朗らかで、だけどそれが演技なのかどうかまだ中西には分からなかった。
しかし所詮は三上だ。正直な話中西にとってはどうでも良い。

「お帰り落第生」
「落第生ってちょっと違うだろ」
「じゃあアイドルオーディション書類審査合格面接落ちって感じ?」
「あー近い」
「んじゃ俺は書類不備かよ」
「写真で落とされたんじゃねェ?」

三上はにやりと笑う。
・・・少なからずも悪いことばかりではなかったようだ。
勿論そうでなくては困るのだが。我がチームの司令塔が選抜如きで腑抜けてもらっては困るのだ。
中西はじっと観察するように三上を見る。

「・・・何があったの?」
「好きな人を見つけたって言うか?」
「どうせならサッカーの技術のひとつやふたつ盗んでこいばかたれ」
「何?中西さんは荒れてるじゃん」
「・・・・・・藤代があんなに珍しいか?俺と一緒にいるより数十時間会えなかった藤代の方がいいってか?」
「あー・・・笠井・・・」

ポン、と慰めるように三上が肩に手を載せるのでそれを払い落とした。

「しょうがないから誰かさんいじめてやろうと思ったのに予想外に平然としてるし」
「お前そんだけサドでよく笠井がついてくるな」
「隠してるもん」
「もんとか言うな」
「お前なんか落ちて当たり前だしね、んで好きな奴作って帰ってくるとか有り得ないよね。鳴海だってもっと落ち込むよ」
「あーあいつは受かった。設楽落ちてたけど」
「そんで三上さんは何処の馬の骨をゲットしてきたの?」
「ゲットしてねーし寧ろ嫌われたくせーし」
「ざまみろ」
「やさぐれてるときのお前本気で怖いから」
「んで、俺が恋愛相談に乗ってあげるから相手の名前を言え」
「さなだかずま」
「知らない。恋愛相談終わり」

三上を突き飛ばして進路を作り、中西は談話室へと入っていく。
まもなく藤代の悲鳴が聞こえ、中西が笠井を引きずって廊下に出てきた。

「ちょっと中西せんぱ・・・あ、三上先輩お帰りなさい」
「お前俺の話しかけたことで危険度増してるぞ」
「え?」
「中西手加減してやれよ」
「勿論よ俺は優しいから」
「どの面下げて・・・」

殆ど誘拐されたみたいに笠井は中西に引っ張られていき、三上は苦笑して談話室へ入った。
先に帰っていた渋沢達が、さっきダメージを食らったらしい藤代、とばっちりを食ったメンバー(根岸)を床へ寝かせている。

「ねー白い布ないんだけど」
「Tシャツでいいんじゃん?」
「近藤・・・死んでないから・・・」
「いやーでも藤代死んだ方がましじゃねェ?・・・あ、三上お帰りーひとりで散々泣いてきたか?」
「泣かねーよバーカ」
「うんうんそうだろうな、そうやって強がってはいるが実は泣きたかったんだよな。さぁ俺達の胸で泣け!」
「誰が汗くさい男の胸でなくかっつーの。西園寺さんの胸で泣いてきた」
「な、何!?先輩ずっこーい!」
「お前は復活すんな」

ムクリと起き上がった藤代を蹴り飛ばし、三上はその上に馬乗りになってポケットを探る。

「あっ、ナニするんですかーっ変態!キャプテン助けてー犯される!」
「だぁれがお前に勃つかっての!お、あった」

藤代のポケットから携帯を抜き取り、三上は断りもなく操作する。呼びだしたのは電話帳。

「おーおー、入ってんじゃん」
「何がですかー」
「真田の番号。貰っていい?」
「・・・番号を?真田を?」
「どっちも」
「番号は良いですけど真田の場合は保護者に聞いた方がいいですよ」
「あーそう?まぁいいわ、番号もらっとく」
「でもそれって犯罪じゃないんスか?」
「いいんだよどうせそのうち聞くから前後逆ってだけだ」
「自信満々ー。アタシとのことは遊びだったのね!」
「うるせぇよ」

さなだって誰ー?と絡んでくる近藤を蹴り飛ばし、番号を自分の携帯に登録して三上は立ち上がる。
藤代に彼の携帯を投げつけて、煩い近藤から離れるべく談話室を出ていった。

「・・・しかし先輩が真田ねー。タクの方が可愛げがあると思うけど」

そういやタクは?
呑気な後輩に答える人は居なかった。

 

 


03:今だけ


「・・・・・・三上、」
「おー、名前覚えてたんだ」
「・・・一応、武蔵森って言ったら部活やってなくても聞くし」
「ふーん」

まるで通行止めをするかのように自分の前に立ちふさがる三上に、真田は目に見えて戸惑っていた。
随分と分かり易い。三上は苦笑する。

「何か用か?」
「いや・・・別に?まぁ、感想聞かせてくんねェかな」
「感想、」
「そう。受かった感想」
「・・・・・・」

何を言い出すんだろう。
真田の視線はあからさまに疑念が含まれていて、三上を笑わせようとしているんじゃないかと思う。
実際三上は笑い、真田は顔をしかめた。

「じゃあ、やっぱ俺の感想」
「三上の?」
「何でもいい」
「・・・・・・」

どうせ今後会う機会もないだろう。
真田は正直に、少し控えめに意見を述べた。

「・・・どうも」
「俺に聞いてどうすんだよ」
「お前だけじゃなくて何人かに聞く予定」
「何で?」
「向上心?」

自分で否定するように三上は笑う。
困惑する真田の表情はチームメイトが持ち合わせていないもので、三上は新しいおもちゃを見つけたような思いだ。

「あぁ、そうだ言っとく。おめでと」
「・・・どうも」
「当然だと思ってるんだろうけど」
「・・・・・・」

そう思っていた。
しかし自分は補欠を除く最後のひとりとして呼ばれている。確かに少し失敗もあったから当然かもしれないが。
真田が答えないので三上も黙り込む。

「・・・なぁ、エリートって何」
「え、」
「俺ら結局やってることはサッカーだし」
「・・・・・・」
「んで結局人間だし」
「・・・・・・」
「俺と、お前と、風祭と、何が違うんだよ」
「・・・・・・・」
「・・・なんで選抜如きでこんだけ考えてんだろ俺」
「・・・三上」

俯きかけたところに声を掛けられて三上は顔を上げた。
真田がじっと三上を見ていた。そんな表情をするなんて思ってもみなかった。

「お前は今だけ見てるのか?」
「・・・・・・」
「俺は先へ行くからここに来たんだ」
「・・・・・・」

わかってるよ、 三上がしばらくの沈黙の後口を開いた。

「こんなアホらしいこと言ってるのは今だけだ」

 

 


あれ、3つめ真→になってる・・・?

040122

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