01:あるわけない


「エリートって何」

ちょっと堪えた。
その言葉に縛られていたのは確かだ。真田は改めて気付く。

「俺と、お前と、風祭と、何が違うんだよ」

同じだ。全部、何も変わらない。

 

「一馬どうしたー?」
「なんでも」
「・・・いーじゃん、受かったんだから気にすんなよ。これからだって!」
「わかってる」

郭は先に帰っており、待たせていた若菜は真田の調子に苦笑する。
真田は若菜のように簡単には出来ていない。

「・・・三上に会った」
「三上?・・・あぁ、あいつか。俺としてはちょっとラッキーだけどねー、下手すると間宮よりしつこそーだし」
「・・・俺はちょっとやりたかった」
「まぁ水野よりリーダーシップはある感じ?一回武蔵森の試合見に行ったじゃん」
「うん、覚えてる。あれ三上だよね」
「だろうなぁ、英士が調べてきたのは確かだと思うし。あいつの情報網謎だよなー」
「なんか変な奴だった」
「ふーん。まぁ間宮と飯食ってるぐらいだかんな!きっと友達いねぇー」

鞄を肩に掛け直し、真田は少し息を吐いて少し歩幅を早めた。
その変化に気付き、若菜もそれに合わせて歩き出す。

「どうした?」
「三上ってエリート組なのか?」
「・・・まぁ一応同じ組だったし、武蔵森の10番つったら」
「・・・部活の基準わかんねェ」
「確かになー」

どうした?
若菜が苦笑しながら真田の顔を覗き込む。
何となく後ろめたい気がして、真田は目を見れなかった。

「・・・いや、ありえない」
「は?」

たまたま印象強いだけ。

 

 


02:ちくしょう


「・・・なんだよ」
「えー?俺真っ先に怒られるかと思ったんだけどなー」
「何が、」
「・・・あれ?まだ?」
「何がッ」

練習で合うなり、着替えもしてない藤代は真田を見て首を傾げる。
じっと真田の顔を無遠慮に見てきて、真田が押し返すまでそれをやめない。

「何!」
「・・・三上先輩から電話なかった?」
「は、何で」

三上
自分の中で引っかかっていた物はそれなんだろう。
忘れていた単語。言葉。
忘れていたけど忘れきっていなかった。忘れたフリをして。

「・・・何で、三上が俺の番号知ってんだよ」
「俺の携帯から取ってった。まぁよくあること」
「そういうことすんなよ!」
「でも真田は人に教えるなって言ってないから犯罪にはならないんだってさ」
「人としてすんな!」
「でも何で三上先輩かけなかったのかなー・・・まぁいっか、あの人のことは分かんない」
「ちょっと待てよ・・・何で俺なんだ?」
「・・・・・・」

藤代は誤魔化すようににやりと笑い、ばしばしと真田の肩を叩く。

「三上先輩の番号教えたげるから自分で聞いて」
「や、やだよ。お前知ってんなら教えろ」
「えー、だって俺がゆったら三上先輩絶対怒るしー」
「何だよッ」
「あっほらほら練習始まるから!」

納得がいかないまま藤代は真田を離れて素早く着替え始める。
ちらっとこっちを見て、真田が見ているとまた視線を前に戻した。
多分事情を知っている渋沢が、何でもない顔をして真田の前を過ぎていく。

「・・・・・・」
「一馬ー?何してんだよ」
「・・・今行く」

そうしてグランドに出たら。

「・・・三上?」

若菜が逆光に手をかざした。
我が東京選抜監督、西園寺と一緒にいるのは多分三上だと思う。真田を振り返れば、何故か思い切り顔を逸らしていて。
何故かと思えば、三上と西園寺は真っ直ぐ真田を見ている。

「一馬ーなんかモテてるー」
「な、な、なんであいつがいるんだよ!」
「さぁ?」

真田がひとりでうろたえていると三上が不意に歩き出した。
真っ直ぐ、こっちへ向かってくるような気がする。
思わず目で追うと目があった。視線が戻せなくて戸惑っていると三上が笑う。
段々近付いてくる三上は真田の目の前まで来て、・・・そして傍を通り過ぎた。

「藤代!ふざけんなよお前この俺様にパシらすとはどんだけ偉いんだ?ああ?つーか忘れ物とかしてんじゃねェよバカ、しかもユニフォームってお前。俺が貰うぞ」
「あーっやっぱりユニフォーム忘れてた!先輩サンキュー愛してる!」
「していらん。何か言うことは?」
「先輩俺のユニフォーム着てFWやるんですか?」
「言わないなら持って帰る」
「『ありがとうございます』三上大先輩」

一馬じゃなかったな、と若菜に肩を叩かれるが真田はそれどころじゃない。
ゆっくり振り返るとまたもや三上と目が合う。藤代と話をしながらなのだから明らかに故意。

「・・・何だよ」
「別に?」

真田が先に声を掛けたのを面白がるように三上はにやりと笑った。
無意識に顔をしかめると、眉間にしわ、と声が飛ぶ。

「あー、そうそう。俺、藤代からお前の携帯の番号聞いたけどよかった?」
「・・・・・・」
「別にイタ電とかしねェけど」
「・・・別に、いいけど」
「あ、そ。そりゃよかった」

藤代にユニフォームを押しつけ、真田にほんじゃ、と簡単に挨拶をしてまた歩いていく。
それだけ?
三上の背中を見る真田を若菜が困った顔で見ていた。

「・・・なぁ一馬」
「・・・なに」
「頼むからあんなのに惚れないでね?」
「惚・・・!?ありえない!!」

そう。あるわけがない。
・・・・・・なのにこんなに気になるのは。

・・・ちくしょう、あいつの所為だ。

 

 


03:言えないけど


「こんなアホらしいこと言ってるのは今だけだ」

そして三上は苦笑した。
少し諦めたようなからかうような、自嘲的にだけど何処か楽しむような。

「俺はそんな繊細じゃねぇんだよ、へこんでる時間なんか惜しい」
「・・・・・・」
「でも悔しいからやっぱりへこむんだよ」

真田の視線が少し柔らかくなった気がして三上も思わず顔が緩む。

「・・・俺、一回武蔵森の試合見たことあるんだ。藤代見に行ったんだけど」
「・・・藤代ね」
「中学に上がってから急に名前聞いたから、珍しさって言うか」
「あぁ・・・お前ら部活やってないのか」
「うん、だから急に中学で名前が出た奴ぐらいって思ったけど全然違った」
「あいつは特殊だろ」
「・・・・・・」
「・・・だから、藤代もお前もただのサッカーバカだっつってんの」

自分で言いだしてテンションの落ちてきた真田に三上は呆れて溜息を吐いた。
だけど、面白い。

「・・・あぁそれで、俺その時三上を見たんだ」
「俺?・・・その頃って俺試合出てたか?」
「あ、うん。多分・・・10番じゃなかったけど」
「あぁ」
「面白かった」
「・・・・・・」
「いつか一緒にやれたらって思ったけど」
「・・・郭に慣れてるお前とじゃ無理じゃねェ?俺あいつほど読み鋭くねェんだ」
「そう言う意味じゃないけど・・・」
「そのうちな」
「え?」
「俺がそっちまで上がってくから」
「・・・追いつかせねェよ」
「は、」

その時三上は確かに笑って、・・・・・・

一瞬動悸が大きくなったなんて誰にも言えることじゃない。

「真田?」
「ッ・・・何でもない」

違う、違うんだ。
これは好きとかじゃないはず。

 

 


三上→と大体関連づけてみました。
ていうか敢えて順序をバラバラにしてみたのだけど読む方としたらどうなんだろう。

040122

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