26

 

07

 

 

 

 

027

「えっ!」
「……何ですか?」
「…ちょっと今純粋に驚いた。意外、三上マメそうなのに」
「何の話ですか?」
「だって、辰巳だってご飯作ってるよ」
「……へえ」

あっ悪い顔してる。中西が楽しそうに笑った。

 

*

 

辰巳先輩は泊まっていった日は朝ご飯を作ってくれるらしいんですよちゃんと気を使って手間をかけたのを時間があれば弁当まで作っちゃうんですっていい旦那ですねえ中西先輩相手じゃなきゃ狙うとこですよー

(…って、言えりゃいいんですけどねー)

死んだように眠る三上に溜息を吐き、笠井は部屋を出る。押し掛けるようにして昨日の夜に姿を見せた三上は真っ直ぐベッドへ向かった。要するに、自宅より笠井の部屋の方が近かったということなのだろう。狭いベッドで眠るのは慣れているから気にならないが、夜中に起き出して触ってくるのには勘弁してほしい。流されるのを知っていてやるからタチが悪いのだ。今日も寝不足、そして────冷蔵庫を開けて溜息。金がないのは笠井とて同じことで、この貧相な冷蔵庫でどう朝食を捻出しようか頭を抱える。中西たちはバランスが取れているのだろう。辰巳が作るが財布は中西だ。
ちらりとベッドを覗きに行く。布団からはみ出した手が床に落ちていた。他は頭までかぶっているから夜ならホラーだ。グループ課題の打ち上げだったらしいが、徹夜明けでバカ騒ぎをしているのだから疲れは相当だろう。…その上笠井に手を出してきたのだから。半端にされて我慢した自分を誉めてほしい。胸を張って言えるほどストイックなわけではないのだ。

「…あーあ…」

思わずまた溜息を吐いてベッドへ近づき、頭を探す。三上先輩、耳元で静かに呼ぶと薄く目を開けた。笠井の意図など読めているのか、わずかに眉を潜める。

「先輩学校は?」
「……午後から。お前は」
「ん〜…」

キスで誤魔化しながらベッドへ乗りあがる。咎めるような視線が飛んできたが、その割には腰に手が回された。

 

*

 

「それ、笠井絶対欲求不満だよ」
「……」
「笠井が浮気しても文句言えないんじゃない?」
「!」
「いやしてないと思うけど」

なんで俺こいつらの相談役になってるんだろ。昔は逆の立場だったように思うのだが、…多少、人に頼る気になってきたのだろうか。中西は溜息を吐く。

「でも笠井も忙しかったんじゃないの?試験あるって言ってなかったっけ」
「…これから真剣に練習始めるってよ」
「欲求不満だな」
「……」
「ちゃんと構ったげてるの?」
「……多分」
「情けないなあ。聞いた?今笠井大人の男に迫られてるらしいよ」
「は?」
「三上先輩より金も持ってて三上先輩より優しいんだって」
「…聞いてねえ」
「へえ」

浮気する気じゃん?

 

*

 

(やっぱ朝からするとダルい…)

自販機だけど、と差し出されたコーヒーを黙って受け取る。しつこいなあこの人。態度の悪いクソガキでいるのに、逆効果だったのだろうか。隣の椅子に腰掛けた男を横目で見て、穏やかに笑う彼の腹を探るが読めない。読ませない。

(だから大人って嫌いだな…)

自分が女に興味を持てないと気づいたのは高校へ上がってからだった。中学の頃に気づかなかったのは熱に浮かされていたんだろう。三上でいっぱいで女に興味が湧かないのだと思っていたが、AVが出回り始めても嫌悪しかなかった。それを自覚してから、何故だか────こういうのが寄ってくる。高校ではあからさまに態度を見せてくるのはいなかったが、大学へ進むと多少変わった。仲のいい先輩の知り合いだというこの男は、金に任せた道楽息子だ。相手にするにはあまりにも優雅なフリーター。いや、仕事はあるらしいがいつも学校で遭遇する。

「笠井くん日曜暇?」
「暇」
「こんなチケットあるんだけど一緒にどう?」
「一緒なら行かない」
「何もしないよ。信用ないみたいだけどね」
「…北村さんは俺のこと好きなんだよね」
「そう」
「俺彼氏いるし、諦めません?」
「でも彼氏忙しいんでしょ?」
「…忙しいぐらいで崩れるほど半端なつき合いはしてない」
「熱いなあ」

セックスうまそうだなあ…笠井の視線をどういう意味に取ったのか知らないが、別に浮気でもいいよ俺は、なんて笑う男に改めて溜息を吐いた。どうせなら中西先輩ぐらい強引ならいいのに。過去のありそうなことを考える笠井は何気なく振り返り、硬直する。

「……何してんの?」
「あっ」

見つけた、と近づいてきたのは三上。学校まで来たのは数えるほどだが、こんな風にいきなり来たことはない。

「…あ、中西先輩か」
「浮気中か?邪魔したな」
「いえお構いなく。ここ最近あんたの方が浮気相手みたいなペースでしたから」
「…悪ィ」
「先輩が悪いんじゃなくてこの人がストーカーなんです」
「ひどいなあ。噂の彼氏?」
「あんたが噂の物好きか」

自分のことは棚に上げ、笠井のそばに立った三上は男を見る。目が肥えているばっかりに、着ているものがかなりいいものだとわかってしまった。貧乏学生の自分との違いは歴然としている。

「先輩何しに来たんですか?」
「…今日うち来ねえか」
「三上先輩んち汚いからやだ」
「朝食つき」
「……そ、そんなのだめみたいな釣られ方しませんよ」
「渋沢から預かった和菓子」
「行く!」

渋沢に負けた。泣きたくなりながら、腰に抱きついてくる笠井の頭を撫でる。いつまでこうして扱えるのだろう。最近会えないせいか、時々妙に素直で少し怖い。以前なら人前で抱きつくなど絶対しなかった。

「…俺は3人でもいいよ〜」
「触らせません」

ピシャッと男をはねつけて笠井は三上の手を取り立ち上がる。帰ろう、と引っ張られた三上が驚くほど、しばらく見ない笑顔だった。

「……こえ〜…」

 

*

 

「朝ですよー」
「…結局お前が朝飯作ったな」

布団に潜り込んでくる笠井を抱きながら三上は時計を探す。笠井はご機嫌のようだが、なぜご機嫌なのかわからなくて少し怖い。

「笠井?」
「別に先輩は何もしなくていいんです」
「は?」
「先輩が俺のこと好きでいる間は朝ご飯でも何でも作るよ」
「……上達しねえけど」
「文句言うなら作ってよ!」
(…やべえ〜…)

布団の中で怒る笠井を抱いてごまかす。額にキスを落としながらなだめすかして、こっちを向いた唇に改めてキスをした。

(可愛くなってくる…)

冷める、呟く声を聞きながらも三上は深く布団を被った。起き上がった笠井が肩を叩く。手放せなくなっている。今更認識した事実に打ちのめされている三上のことなどお構いなしに、笠井は布団を引き剥がした。

 

070103

 

 

 

 

28

 

0

 

 

 

 

029

 

07

 

 

 

 

20

 

0

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送