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037:present for you!

※笠井26歳。喫煙あり。

 

 

 

26本のろうそくが立てられたケーキに笑い、素直に誕生日を祝ってもらう。26だけど。四捨五入で30だけど。

「太るぞ」
「……用意したやつが何言ってんの」

三上を睨むとにやりと笑う。こんな人だから今まで素直になってこなかったのだ。俺がひねくれてるのは全部この人のせいである。青春も思春期もすべてをこいつに捧げてしまった。そう思って笠井は溜息をつく。26回目の誕生日、20半ばの男二人でケーキワンホールを前にしているこの状況を作り出したのも、間違いなく三上だ。

(10年以上こいつといる)

楽しそうにろうそくに火をつける三上を見て溜息をついた。誕生日は今更楽しいものでもない。それでも今年の1月に三上が誕生日を迎えたときは、自分も同じようにからかった。

「ところでふたりでもワンホール食べれる気がしないんだけど」
「俺も」

しれっと答えて三上は電気を消す。ろうそくが三上の顔を照らした。目立って「イケメン」でもない、と、笠井は思う。否、昔はもう少しかっこよく見えた。欲目だったのか、劣化したのか、見慣れたのか。火を映した瞳はきらきらして、気持ちは若いままだなぁ、と思う。はしゃいだり、怒ったり、いつまでも子どものようだ。

「消せよ」
「歌は?」
「やだよ!」
「え〜!やだ〜!」
「かわいくねぇ」
「26にもなってぶりっこがかわいくても嬉しくない」
「嘘だよかわいいよ」
「ではかわいい笠井くんにお誕生日の歌を」
「嫌です」

テーブルに置いた手に三上の手が重なる。気障だなぁ、もはや笑いもこみ上げたりはしなかった。
笠井、優しい声が名前を呼ぶ。指先を絡めて、人差し指が指の股を撫でた。日に焼けた手の甲。頼りない炎の明かりで見る三上は柔らかそうだ。この人がいつかいなくなるんじゃないかと、思うことがある。三上はまっすぐ笠井を見ていた。

「誕生日おめでとう」
「……ありがとう」

ろうそくを吹き消す。一度では消しきれず、2、3度吹いた。一瞬で訪れた闇の中で三上がすぐに立ち上がろうとしたが、指を絡めて引き留める。三上が緊張したのがわかった。

「俺はいつまで、あんたのことが好きなのかな」
「……一生でもいいぜ」
「面倒見てくれる気ないくせに」
「世話焼かれる気もねぇだろ」
「うん。ばかみたい」

ぱっと手を離すと三上が立ち上がる気配がする。電気がついて眩しさに目を細めた。ろうそくをケーキから抜いていく。山積みのろうそくが崩れるのを無視して、ケーキのそばに添えられていたフォークを手に取った。どうせふたりで食べるのだ、包丁はいらないだろう。 穴だらけのケーキはチョコレートケーキだ。なめらかだったはずの表面は無残な姿だが、味に支障はない。甘すぎないがケーキはケーキ、甘いものだ。

自分の鞄を覗いていた三上が戻ってきた。テーブルに置かれた紙を見て笠井の手が止まる。婚姻届、と書かれたそれと三上を見比べた。三上が苦い顔で口を開く。

「プレゼント」
「……は?」
「ままごとだけど。書くだけ」
「はぁ……」
「お前と離れない覚悟決めたっつってんだよ」
「は……」

金属のフォークを噛んでしまって身悶える。フォークを手放し、鳥肌のたった腕をさすった。そうしながら、もう一度紙をよく見る。すでに記入すべきところに三上の名前が入っていた。あっけにとられていると三上が体を寄せてくる。隣に並ぶ三上を見た。

「三上先輩……」
「何」
「アホですね……」
「はぁ?」
「俺一生忘れないよ」
「……いいぜ」
「あんたが裏切っても忘れないよ」
「好きにしろよ」
「……ばかじゃないの」

俺はこういうの一生忘れないよ。呪いのつもりで呟いたのに、三上は涼しい顔をしている。ケーキを口に運んだときには顔をしかめた。

「もうわかったからいいっつってんの。どうせ、どんなやり方したってお前は俺のこと一生忘れたりしないだろ」
「……うぬぼれんなよ」

 

*

 

ベランダは寒い。外に出るまでいつもそのことを忘れている。懲りればいいのに。自分に呆れながら冷えたサンダルをはき、戸を閉めた。くわえたままのたばこを上下させ、少し迷って火をつける。三上には最後のひと箱と言ってあるが、最後を終えてからふた箱目だ。どうせばれてるだろうとは思う。手すりにもたれてたばこをふかしながら、書類を広げた。

(書類……)

これに笠井の名前を書けば、これも書類ではなくただの紙になってしまう。おもちゃだなぁ、ぼんやり思って風にはためく紙を眺めた。無意味なものだと知っているのに愛しくなってしまう。思わず煙と一緒に溜息を吐いた

(……10年一緒にいても、ときめけるもんなのか……なんかもう、ときめくって単語がもう恥ずかしいなぁ)

まるで中学生だ。耳まで熱くなってないか気になって、紙を持ったまま手を遣る。

「おい」
「!」

びくりと肩を上げた瞬間指先が緩む。そこから紙が抜け出し、はらりと夜空に舞った。映える白を目で追うと、ばか、と耳元をよぎった腕が宙を掻く。何も掴めなかった拳の向こうで、それは抵抗しながらも重力に引きずられていった。

「おい〜、何してんだよ」
「……あんな風に、一瞬でなくなっちゃうよーなもんなんですねぇ」

たばこを口に運ぶと三上が顔をしかめた。お前は幾つになっても変わんねえな。

「根暗だし?皮肉屋だし?」
「性格悪いし」
「それはお互い様」

口をぽかりと開ける。漏れ出す煙が無意味に見えて、今度こそ煙草はやめられる気がした。

「三上先輩」
「何だよ」
「煙草止めるからちゅーして」
「何度目だそれ」
「覚えてなぁい。……あ、あのさぁ」
「何」
「あれ、三上先輩住所も書いてたよね」
「……あ」

口を開けたまま三上はこちらを見る。何も言わずに煙草をふかして見つめ返すと溜息をつき、肩を落として部屋へ戻っていった。しばらくして玄関のドアの音がする。拾いに行くのだろう。このご時世、個人情報は武器になる。

もう、諦めるしかないかないのかもしれない。嬉しかったのは事実だ。嘘をついたって仕方ない。認めなければ進めないこともある。

「でもずるいよなー、俺だけいつまでも恋のままでさぁ……」

柵越しに下を見下ろす。マンションの夜は明るい。三上の姿を見つけて、笑いながら玄関の鍵を閉めに向かった。

 

 

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038

先週の俺のジャンプ誰が持ってんの? 高石

ごめんオレのとこだ フジシロ

誰がオレのプリン食べたの!? 笠井

こないだ中西が食べてたぞ 近藤

食べちゃったーごめん☆ 中西

部屋から乱歩持っていったの誰だ? 辰巳

2巻なら借りたのはサイトウ

アガサなら持ってる 三上

アガサってコナンの人? フジシロ

三上先輩の部屋に乱歩ありましたよ 笠井

国語辞典探してます。 ネギ

そんなものなくすのはお前ぐらいだ 高井

あと教科書。多分談話室に忘れたんだけど ネギ

初江さんが預かってるぞ。あとゲームも。 渋沢

ゲーム!ないと思ったら!渋沢ありがとう

試合お疲れ様。みんなよく頑張ってくれたと思う。また 今度の試合で

トトカルチョ〜。3-1 中西

俺がハットトリック決めて3-0! 天才フジシロ

2-2 三上

今度のOB戦?2-0 近藤

3-0! 新川

2-0 下沢

当てたら何もらえるんですか?1-1 大森

俺からの愛などを少々 中西

いらないので取り消しで 大森

3-3ぐらい ネギ

冷蔵庫の賞味期限切れのもの処分するように。特に藤代。 渋沢

三上くんが愛をなくしたようです 近藤

ベッドの下は探しましたか? 笠井

失せ物北から出る 間宮

北ってどっち?

学校側

学校で探せよ あずま

紹介しましょうか〜? フジシロ

俺の愛をおすそ分けしましょうか? 中西

冷蔵庫の中じゃねえの 坂口

ポストじゃん? きしだ

やっぱベッドの下だろ 近藤

それはお前だ! 三上

 

 

「どこにあるんでしょうねーえ、三上先輩の愛」
「連絡帳で遊んでんじゃねえよ、ったく……」

笠井が広げていたノートを奪い、乱暴に投げ捨てる。連絡帳じゃなくて自由帳だからいいんですよ、屁理屈をこねる笠井を睨んだ。談話室にはいつも1冊2冊のノートがある。昔は真面目なものだったらしいが、三上が入学したころにはただの遊び道具だった。こんなものでも伝統で、ページがなくなりかけた頃には誰かが新しいノートを出してくる。
談話室には今笠井と三上以外に誰もいない。珍しいことだ。笠井の隣に腰を下ろす。

「交換日記みたいで面白いですよね」
「交換日記ねえ……」
「してみます?」
「絶対しねえ」

手持ちぶさたにノートをまた手に取って、笠井は横目に三上を見る。愛ねえ、つぶやくと睨まれた。

「……もしかしたら、俺の部屋に忘れてるのかもしれませんよ?」
「……探しに行ってもいい?笠井くん」
「どうしようかな」

悪戯をしたような表情で笑う笠井に溜息をついた。こんなんでもかわいいと思っているのだから、自分にあきれてしまう。距離を詰めて手を取って、顔を寄せるとちらりと視線だけがこっちを向く。お互いポーカーフェイスを気取ってみるけど、見慣れないそんな表情に笠井が先に笑い出した。額をぶつけて黙らせる。

「……誰もいないからって調子に乗り過ぎじゃないですか?こんな場所で愛を探そうなんて」
「じゃあ部屋探していい?」
「……しょうがないからね」

 

 

三上先輩は談話室で愛を見つけたようです 匿名希望

誰か三上から愛を奪ってきてくれ 近藤

何?俺の出番? 中西  

 

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